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豆腐屋のゆりちゃん

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「ゆりちゃん、こんにちは。花村です」

午後1時。家から10分ほど歩いた先にある、古びた商店街の小さな豆腐屋にやって来た。

「あらぁ、さち子!久しぶり!いらっしゃい」

さち子の顔を見るや否や、満面の笑顔で伊藤百合子が濡れた手をエプロンのポケットから出したタオルで拭きながら出てきた。

「やだもう、お互いすっかりおばちゃんねぇ、あはは!」

「まだ45。もう45。若々しくて綺麗にしてる人も居るけど、私は女を捨てて生きてしまってるから仕方無いわね」

さち子はそう言って笑い飛ばす。

普通なら失礼な言葉だと思うだろうが、さち子と百合子の関係はこんな感じなのだ。

一緒に働いていた頃も、誕生日が来る度に老後はどう生活したいかとか、歳を重ねる事を寧ろ楽しんでいた。




百合子がこっちに越したのは10年前。

旦那とまだ小さかった子供を連れて、実家の豆腐屋に戻ったのだ。

「昨日こっちに来たから、お礼にね。家電、大変だったでしょう?本当にありがとう」

「良いのよー!旦那と健太郎にも手伝って貰ったから!むしろあれだけで大丈夫?」

健太郎とは、百合子の14歳になる息子だ。

「うん。さっきここに来る途中にリサイクルショップがあったから、あそこで集めようと思って。帰りに見てみる」

この豆腐屋の並ぶ商店街に、これまたボロボロな佇まいのリサイクルショップがあった。

「あー、滝じぃの所ね!うんうん。良い人よ、仲良くなったら色々貰えるかもしれないし、行ってみな。はいこれ、あげる!」

そう言うと、百合子は絹豆腐を一丁、袋に詰めて持たせてくれたのだった。

「これから宜しくね!」と店先から手を振る百合子に頭を下げてから、滝じぃというらしい人の営むリサイクルショップを目指して、夏の陽が降り注ぐ商店街を歩き出した。
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