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ゲルブ平原
状況確認
しおりを挟む『狼の毛皮』は26枚になった。
狼を投石で倒しても"対獣格闘"のスキルポイントにはならない事が分かったが
まだ複数を同時に相手にするのは危険だと考えて 狼は最後の一匹になるまでは投石で倒すようにして来た。 (それでも三匹に一匹は格闘で倒したが)
狼以外の動物にも遭遇した。 鳥だ。 鳥もFQではよく見掛ける生き物だ。
人間を攻撃してくることは殆ど無いので"肉"を得る為以外で関わることは無い。
一度 "撃"ってみたけれどオーバーキルだったせいか躯も残らなかった。
鳥肉の採集時はビー玉くらいの石でカテゴリ設定する必要があるかもしれない。
ステータスを確認してみよう。
=================================
【 種族 】 ゴブリン
【レベル】 7
【ジョブ】 -
【スキル】 投石[7**] 対獣格闘[2*] 疾駆[6] 跳躍[3]
【 HP 】 240/240
【 MP 】 23/23
【 装備 】 -
=================================
狼を20匹以上倒したがレベルは上がらなかった。
FQでは自分自身より弱い敵でも数を倒せばレベルアップできる。
しかしADオプション(しかもゴブリンw)の場合はどうも違うようだ。
★ 格上の敵を倒すと同レベルまで上がる
★ 同格の敵を倒すと1アップ
★ 格下に勝っても上がらない
・・・たぶん こんな感じになっているんじゃないかと思われる。
基本 "常駐"となるADプレヤーがログインプレヤーと違うのは当然か。
しかも【エコノミー】 は前述した通りのビハインドもある訳だからな。
投石スキルは7に上がった。
石を投げた(撃った)瞬間相手が爆ぜる感じ。もうはっきり言ってオーバーキル。
さっきも言ったけれど、もっと小さい弾(石)を設定する必要があると思う。
十匹以上の狼を接近戦で倒したので "対獣格闘"スキルは2に上がっている。
( * については詳細不明 )
移動は基本ダッシュを常用していたので "疾駆" は 6に上がった。
今は五輪の陸上全種目で金メダルを余裕で獲れる、どころじゃないレベルだ(謎
そして "跳躍" 。
これは文字通りジャンプ系のスキルで 岩に跳び上がった時に着いたと思われる。
( 現状の3でもバスケのリングに乗れるくらいは跳べる )
・・・こういったスキルはたぶん他にもっとあるんじゃないか。
例えば 水泳とか、木登りとか ・・・
( FQプレヤーは"想像力"をも問われている気がするな )
・・・という訳で俺は"ビー玉"サイズの石を拾ってはポケットに収めていた。
勿論 新しく『ぺブル』ってカテゴリを作ってある。 (ちょっとイイ感じかも)
河原や海辺ではないから外観はザラザラして本来のイメージからは離れてしまうが
海も川もここからはかなり遠いので仕方ない。(着いたら再定義すればいいか)
一つ一つ持って(摘まみ上げて)収納しなけばならないので まだるっこしい。
両手に礫石を掬い上げ その中の適合する小石を一挙に、とはいかないのだ。
これはFQに限らずVR世界に共通する仕組みに拠る。
凄まじいまでの容量と演算力を誇るVRサーバーも"全能"ではない。
"世界そのもの"を再現することは不可能だ。
およそ考え得るあらゆる方法でデータ量を節約(省略)しているのだ。
プレヤー関連で言えば アバターの身体には排泄器官や生殖器官がない。
(かなり演算リソースを食いそうな)"あの"行為はできないようになっている。
いくら飲んでも食べても屁は勿論大小便は出ない。
飲食の行為自体は可能だが "臭覚" と "味覚"はサポートされていない。
FQ世界に "香り" や "味" は存在しないのだ。
( 将来においてVRでそれらの体験をも可能とするのが俺の夢だった訳だが )
環境レンダリングについても同様だ。
例えば少し前の砂場を思い出して欲しい。 あの場所に"砂"は何粒あったろう。
いや、片手に砂を掬ったとして 掌にのった砂粒の数は如何程になるというのか。
…数える気にもならないだろう。
当然 FQのサーバーも"其処にある" 砂粒を一粒ずつ描出している訳ではない。
マスとして処理している。 テクスチャみたいなものと思えばいい。
遠くに見える山々もそうだ。 サーバー内の扱いとしては書割みたいなものだ。
しかし望遠鏡で覗いてみればより細部が明らかになる。
実際に近付いて登ってみれば岩や石の一つ一つに触れる事もできる。
砂の一粒さえも指に摘まみ感触を確認することも可能だ。
これを『ダイナミック・フォーカシング(DF)』 と云う。
プレヤーの認識度に応じて描画対象に"必要な"演算リソースを割り振るのだ。
詳しくはないが(大学で勉強するつもりでいた)人間の脳も似たような物らしい。
…考えてみれば "夢"なんてVRそのものだものな。
( 人間の脳こそが究極のVRマシン、てことか… )
「!」
・・・我に返る。
手が止まっていた。 ちっこい石を摘まんだまま暫しぼっとしていた。
( 俺は、 何をやっているんだ・・・ )
また考え事をしてしまっていた。
周囲の警戒を(少しの間だが)怠ってしまった。
俺は狼の群れに囲まれていた。 しかも5匹もいやがる。
最初に狼に襲われたときは噛まれるまで気付かなかった。
今回はまだ20m強の距離がある。 忍び足で近付いてきたんだな。
前述した通り、狼は至近距離にいきなり湧く訳ではない。
プレヤーの認識と矛盾しないように出現する。 まあ俺も進歩してるって事か。
( 探す手間が省けたぜ ! )
このくらいの距離なら余裕だ。
狼にも大分慣れて来た。 そろそろ卒業検定といこうかw
狼の襲撃パターンはもう大体分かっている。
後~側面からは下肢への噛みつき、 正面からは喉への噛みつき だ。
両手にペレットを呼び出し、まず前の方にいる二匹を"連投"で仕留める。
( これであと三匹 )
残った狼が一斉に駆け寄ってくる。
三匹の攻撃が俺の脚をターゲットとするように 俺は(敢えて)向き直らない。
正に狼たちが俺に噛み付こうとする瞬間、俺は跳んだ。
伸身の後方宙返り。
所謂"バク宙"だ。 小学生の頃ホームインの後でよくやっていたw
跳躍スキル3を得たLv7ゴブリンのそれは特撮ヒーローも顔色なしだ。
飛び掛かって来た狼たちのバックを取って優位に立とうという心算だった。
( まだペレットは3つ持っているからな )
「 !? 」
しかし跳躍の直後から俺は違和感を感じていた。
三匹の狼が止まって見えるのだ。 俺のいた場所に向かってほぼ静止している。
俺は狼共を見下ろして空中に”浮いて”いる形だ。
…俺は此の状態を知っている。 これは アレだ。
まだ映画が銀幕で鑑賞されていた時代 VR世界を描こうとした作品があった。
またVR化以前MMO化すらされていないのに伝説の名作となったあのゲーム。
その両方を体験したことがある俺にはすぐ分かった。
『 You-Me Slow 』
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