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第一章 始まりの館

Chapter111 マルフレーサ

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 ディナーではグリーンティーセットと他のデザートを注文する人が多かった。
名称が被ってしまった茶葉とティーポットとカップのセットは〝グリーンティー持ち帰りセット〟に変えた。
「グリーンティーセットと栗マンジュウ2つ!」
「グリーンティーセットとアップルパイとパウンドケーキをくれ」
「グリーンティーセットとベリーパイをちょうだい」
レオリアムとルベルジュノーが忙しそうに注文を取り、出来上がった物をオルランドとクリストフ、メルヒオール、ティナジゼルとカシアンが配膳をする。
ノアセルジオが会計をして、リュカシオンが片付けと掃除に追われた。
ベアトリスもユスヘルディナと共にキャンディやお土産の担当をする。

やっと一段落して空いた頃に、ドアがドンドンドンとノックされる。
「…?」
みんなはきょとんとして、顔を見合った。
「はーい」
不思議がりながらも手の空いていたルベルジュノーがドアを開けると、そこには大きな木箱を抱えた女戦士が立っていた。
「ーーーあ!の人!」とクリストフ。
「お待たせ!ただいまー…っていうのも変かな?」
言いながら魔法戦士セイヴァーのマルフレーサは中に入ってテーブルに木箱を置いた。
「ほらアイシャマスター!約束の氷メタルよ!これと、このバックパックにも!」
言いながら肩に掛けていたバックパックをドスッとテーブルに置いた。
するとカラカラと中から細いダイヤ型で水色の氷メタルがこぼれ落ちる。
「これが氷メタル?!」
わっとみんながテーブルを囲んだ。
大小様々な氷メタルがたくさん入っていた。
小さくて1センチくらいで、大きいと10センチくらいの物もあった。
手に取ると、氷のようにひんやりとする。
「不思議…」とティナジゼル。
「冷たい!」とメルヒオール。
「こんなにたくさん…」
アルシャインも手に取って見てみる。
水色の氷メタルは、紫や青に光り、とても綺麗だ。
〈…そういえばアクセサリーでも人気なのよね…〉
そう思いながらも、アルシャインは笑顔でマルフレーサを見る。
「ありがとう、マルフレーサさん!本当に嬉しいわ!」
「これで足りる?まだ取ってこれるよ。あそこやたらと氷のモンスターが沸いてるから」
「足りると思うわ」
「…本当に?これで冷凍庫と冷蔵庫が冷やせるかちゃんと確かめてきて。私はその間にご飯にするから!」
マルフレーサは笑顔で言って黒板を見る。
「あ、それならご馳走させて!ナリス、ティーナ、ルース!今ある物でフルコース出来る?」
「任せて!」
フィナアリスとアルベルティーナとルーベンスが答えて、残っている食材で最高のおもてなし料理を作る。
その間にアルシャインはカシアンとリュカシオン、ルベルジュノーに手伝ってもらって氷メタルを運ぶ。
穀物倉にしまっておいた冷蔵庫と冷凍庫の氷を入れる部分に、あらかじめピッタリ合う箱を用意しておいたので、そこに氷メタルを敷き詰めて入れてみた。
「うん、冷蔵庫はいい感じだよ」とリュカシオン。
「こっちはちょっと足りないから、下の箱にも入れてみよう」
ルベルジュノーが冷凍庫の一番下に用意しておいた平べったい箱にも氷メタルを敷き詰めた。
「あと少しかな…」
カシアンも手伝い、もう一つ用意しておいた平たい箱に氷メタルをギュウギュウに詰め込んで、冷凍庫の奥に立て掛けてみる。
すると、とてつもなく冷えた空気が出来たので試しに肉を入れて閉めた。
「どうなるか後で見てみよう」
カシアンが言い、掃除に戻る。
アルシャインが戻って来ると、マルフレーサは笑顔で食事をしていた。
「こんな美味しいの食べた事ないよ!」
そう言ってマルフレーサは食事を頬張る。
アルシャインはマルフレーサの正面に座って言う。
「良かったわ。本当にありがとう、マルフレーサさん」
「アルシィ」
「え?」
「私の愛称。親しい人は〝アルシィ〟って呼んでるの…だから、アルシィでいいよ」
「…ありがとう、アルシィ」
アルシャインが笑顔で言うと、マルフレーサも笑顔で言う。
「どういたしまして!また何かあったらいつでも言って。私、ギルドの裏に部屋借りてるから、ギルドに言ってくれれば大丈夫!あ、でも出来るだけ毎日食べにくるよ!」
「ふふ…分かったわ」
それから、マルフレーサはハヴェル山のモンスターとの戦いなどを色々と話してくれた。
みんなは周りに集まって話を夢中で聞いていた。

マルフレーサが食べ終わると、みんなで残っていたデザートやキャンディ、自分で作ったお土産の品をお礼として渡した。
「こんなにもらって…なんだか悪いな」
「いいのよ、みんなの気持ちだもの!」
アルシャインが言い、道までみんなで見送った。
マルフレーサはランタンの中に魔法の光を灯して街に歩いていった。
「よーし、冷蔵庫を交換するわよ!」
「おー!」
とみんなで手を上げて中に走っていく。
今までキッチンの近くに置いていた冷蔵庫を穀物倉にしまい、新たに冷蔵庫と冷凍庫を並べた。
「さっきのお肉、どうなってるかしら…」
アルシャインは冷凍庫を開けてみる。
みんなで覗くと、角ウサギの肉はカチコチに凍って固まっていた。
「すごーい!」とティナジゼル。
「これなら保存がきくから、もっと色んな料理が出来るね!」とアルベルティーナ。
「そうね!作り置きも出来るし…スープのダシとかも入れておけるし、調味料も作れるわ!」
アルシャインが嬉しそうに言う。
「まずは冷蔵庫に野菜を下ごしらえして入れて置きましょう!余ったスープも布でこしてブイヨンとして瓶に詰め替えるわよ」
張り切ってアルシャイン達が動き出す。
冷凍庫には余った白エビと虹色貝を入れた。
水も入れて氷を作っておく。
「マスター、冷凍庫に野菜入れる?」
ルーベンスが聞くと、アルシャインは考えてからレシピノートを取り出して見る。
「えっとね…切って保存するといいって書いてあるわ。水で洗ってから水気を取って凍らせておくと、10日は保つらしいの!葉物がいいみたい…キャベツとかほうれん草とかも出来るわね。ちょうど保存に困ってたから、試しに冷凍庫にいれてみましょうか!」
「冷蔵庫でもそんなに保たなかったしねー」とリナメイシー。
「ジャガイモはどうなのかな?」とユスヘルディナ。
「ジャガイモはシワシワになって干からびるそうよ。昔レストランで聞いたから間違いないわ」
「一番多いのにね」とマリアンナ。
「あんなにカゴいっぱいのジャガイモや玉ねぎやニンジンは入らないよ」
そう掃除をしながらルベルジュノーが言うと、
「それもそうね!」
とアルシャインが言ってみんなで笑う。
冷蔵庫が大きくなって常に冷えているので、明日の分のラザーニャやパスタ生地、パイ生地やクッキーやスコーンなどの生地も作れた。
「良し、出来た!明日から楽になるわね!」
アルシャインはそう言って時計を見る。
「もう11時…ピアノ弾けなかったわね…」
淋しそうに言うと、ティナジゼルがグリーンティーをくれる。
「これ飲んで!」
「え…でもさっきナージィが買ったグリーンティーじゃないの」
「アイシャママにあげる為に買ったの!ナージィはまたビーズでブレスレット作って売るから大丈夫!」
「ナージィ…!」
アルシャインはギューっとティナジゼルを抱き締めてから笑って言う。
「ありがとう、今度は私があげるわね」
「ううん、大丈夫!」
笑って言い、ティナジゼルはベアトリスと共に2階に上がる。
マリアンナ達とローズを部屋で遊ばせる為だ。
「…スチークスがいないと、ちょっと淋しいね」
ノアセルジオがグリーンティーを飲みながら言う。
「そうね…いつもお散歩させてたものね…」
2人で真っ暗な外を見ていると、カシアンがやってきて言う。
「ほら2人共部屋に入って!ここも明かり消すよー!」
「はーい」
答えてアルシャインとノアセルジオはグリーンティーを飲み干してそれぞれに2階に上がった。
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