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第一章 始まりの館

Chapter45 それから一月

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 それからは一週間の内に4日は教会に通い、午後は勉強やかけっこ、ボール遊びをして自由時間を過ごす日常が出来た。


 そうして一月の月日が流れた。
宿の部屋も完璧になった。
家具を揃えて、ソファーとドレッサーまで付けた。
ここまで付いて一人百Gだ。

みんなの部屋も同じくらいになった。
センターテーブルも作って、ライティングビューローとチェストも置いた。
ライティングビューローとチェストは作るのが難しかったので、ダンヒルから安く譲ってもらったのだ。
みんなは自分で作ったお土産を売ったお金で布を買って服を作ったり、古着を買ったりした。
一人では絶対に行かない事を条件に、街に買い物に行けるようにもなった。
子供が一人でウロついて、人さらいに遭うのを防ぐ為だ。
 黄金の角のヘラジカの頭の剥製もバーンとダイニングに飾った。
 週に一回買い出しに行く為に馬も一頭買った。
荷車もホロ付きの荷車を買い直した。
馬車の操縦はみんなで習得した。
ニワトリも15羽に増えた。たまにローズパイロットが紛れるようになっていたが、ニワトリと同じように接した。


気が付けば、もう7月だ。
 爽やかな風が吹き渡る星の日。
以前は働き過ぎていたので、星の日はお休みと決めた。
大地の日の宿泊客も断って、今日一日をゆっくりと過ごせるようにしたのだ。

 アルシャインはいつもの日課となった庭の花の手入れをしてから、コーヒーを飲んでレース編みをする。
今はテーブルクロスを作っている所だ。
 カシアンはルベルジュノーとリュカシオンと共に狩りに行く。
 馬とミュージとニワトリの世話はみんなで交代でやった。
世話の後で、フィナアリスとアルベルティーナとリナメイシーとティナジゼルもレース編みに加わる。
それぞれに上達して、リナメイシーは立体的な花の形を作るのが得意になったので、それをブレスレットやネックレスとしてお土産にした。
アルベルティーナは髪を飾るレースを作った。
フィナアリスはアルシャインと共に大きなテーブルクロスや家具の上に飾るクロスを作れるまでになった。
ティナジゼルは四角いだけのコースターから、丸や花の模様のコースターをつくれるようになった。
レオリアムは医学の勉強、ノアセルジオはコーヒーを飲みながら得意となった木彫りの動物の置物を作る。
手のひらサイズのクマやウサギの置物などを作って売っていた。
クリストフとメルヒオールは文字の勉強だ。
ゆったりとした時間の中で、カシアン達が狩りから戻って来る。
「ただいまー」とルベルジュノー。
「お帰りなさい」
みんなで言って今日の獲物を見に行く。
リュカシオンがアカシカを裏に運び、ルベルジュノーが鴨を2羽運ぶ。
「アカシカのベーコンとハムとジャーキーが作れるわね」
とフィナアリスが言い、皮を剥いだ後にすぐに捌きに掛かる。
「鴨か…ローストかソテーか…シチューか…」
アルシャインが悩んでいると、カシアンがやってくる。
「アイシャ、お土産」
「ん?」
振り向くと、麻袋に入ったポーチュラカの花が根っこごと入っていた。
「きゃー、なになに…植えないと!」
アルシャインは慌ててポーチュラカを植えに走る。
庭の花も淋しくなっていた所だったのだ。
「やだ、しおれちゃう!手伝って~」
10個程入っていたので慌てていると、アルベルティーナとリナメイシーが手伝ってくれる。
「廃屋に咲いてたから取ってきたんだ。なんか違う花もあったけど…」
「違う花…ヤダ、避難させたい~~」
アルシャインが足をバタつかせて言うので、アルベルティーナが言う。
「取りに行こうよ!この辺は廃屋が多いから、お花を避難させてあげたら、きっとお花も喜ぶよ!」
「そうかしら…大丈夫よね…?」
「行こう!」
リナメイシーも言うので、アルシャインは立ち上がって麻袋を木箱に入れてシャベルを3個入れる。
「さあ、花を救いに行くわよ!」
そう言いアルシャインが歩いていくので、カシアンが慌てて先を歩いてアルベルティーナとリナメイシーが付いていった。

あちこちの廃屋に行き、花だけ救う。
「マリーゴールド!あ、あっちにペンタス!トケイソウ~~!!」
アルシャインがあっちこっちに行って花を根っこごと救って麻袋に移す。
アルベルティーナとリナメイシーがそれと同じ花を取った。
「あ、ジニアだ」
アルベルティーナも花を見つける。
「あら、これオレガノだわ…ここの家の人が植えたのが生き残っていたのね…」
そう言い根っこごと取った。
全部は救いきれなかったが、ほぼ持っていくと途中で女の子が叫ぶ。
「ドロボー!」
「え…?!」
「花ドロボー!ウチの花を返して!」
そう言い、10歳前後の女の子が道を通せんぼした。
「あの廃屋に住んでたのか?」
カシアンが聞くと女の子が怒る。
「廃屋じゃないわ!私の家よ!」
「あんな窓ガラスも無い、中もグチャグチャなのに?」
「カシアン!」
カシアンの言い方が酷いのでアルシャインがやめさせてから女の子に近寄る。
「貴女のお家のお花もあったのね、ごめんなさい…でも、放っておいたら枯れちゃうから、枯れないように管理してもいいかしら?」
そう聞くと、女の子はコクリと頷く。
「これからこの花を植えに行くから見に来る?」
そう聞くとコクリと頷いたので、アルシャインは女の子の肩を抱きながら歩く。
「私の名はアルシャイン、アイシャって呼んでね。アイシャママでもいいの」
「アイシャママ…?」
「ええ。孤児院宿をしていてね…そこのお庭に移すのよ。貴女の名前は?」
「私はユスヘルディナ…ユナよ」
「ユナ。いい名前だわ!ほら、あそこよ」
そう言う先には綺麗な庭の屋敷があった。
「アイシャママー、お花あったー?」
クリストフが手を振りながら駆けてくる。
「あったわ、さあみんなで植えましょう。ユナのお家のお花も管理させてもらうから…」
「新しい子?僕クリストフ!リフでいいよ!君は?」
「私はユナ…ユスヘルディナよ」
そう言ってアルシャインを見上げる。
アルシャインはにっこり笑って言う。
「ここのみんなは、貴女と同じなの。だから…もし良かったら仲間に入らない?」
「仲間に?」
「ええ。ここで一緒に暮らすの。教会も行って、お店を手伝いながら遊んで…」
「…食べ物探さないで平気?」
「平気よ。行ってみましょうか」
アルシャインは笑ってうながした。
するとレオリアムやルベルジュノーも来て、ユスヘルディナに自己紹介をしながら花を植えてくれた。
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