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第一章 始まりの館

Chapter19 3人と3頭

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午後は雨が止んだので、アルシャインが荷車を持って出掛けようとするのをカシアンが追い掛けた。
「早いよ!」
「何が?レインコートも持ってるから大丈夫よ?」
「そうじゃない。…何を買うんだ」
「布団に使う布を豪華にするのよ!」
そう言って早速布屋に行って、緑、赤、青、紫、ピンクなどの色とりどりの柄のある布を買った。
「これ可愛い!ワンピースにしたらいいわね!あ、こっちは渋いからズボンに良さそう!糸も買わないと!あ、色付き毛糸も!」
アルシャインはあっちこっちと楽しそうに見て回っている。
カシアンは苦笑して外で荷車に座って待っていた。
するとそこに、少年と少女と小さい子供が近寄ってきてカゴを見せてくる。
「いかがですか?」
「………」
中に入っているのは野草や汚れた小銭入れや小物…。
いつも廃材置き場で見るようなゴミだ。
「……親はいるのか?」
「いないよ。この前、親方にも追い出された…」
そう少年が答える。
「…誰にも頼れないのか?」
そう聞くと、2人がコクリと頷く。
そこにアルシャインがやってきた。
「話は聞いてたわ」
言いながら布を荷車に置いて、3人の肩に手を置いて花壇の前の木のベンチが乾いてるのを見てから座らせた。
「私はアルシャイン。宿屋をしているのだけれど、ちょうど人手が欲しかった所なのよ!…給料は出せないけど、宿屋で働いてくれたら食事と寝る所をあげられるわ」
「お金はくれないの?」と少女。
「あなたが何か作って売れば、それはあなたのお金になるわ」
「何かって?」と少年。
「レース編みでもいいし、木の玩具でもいいし…色んな本があるから、それを見て作れるわ!仲間も8人いるのよ!」
そう言って笑うと、少女は喜ぶが少年は警戒する。
多分、手痛い目に遭ったのだろう…。
「…そうね…まずは、ウチの宿に来て決めたらどうかしら?」
そう言うと3人が頷いた。
「あ、もう少し買い物させてね!」
そう言いアルシャインは慌てて材木屋に行って、大きな黒板を買った。
「カシアン!手伝って!」
「はいはい、行くぞ」
カシアンは3人に言って荷車を押す。
その後、古本屋で家具の作り方や玩具の作り方、編み物や縫い物、レース編みの上級編や料理の本と小説も買う。
それから、また三毛柄のミュージを3頭見つけた。
白と茶色と黒、茶色に黄色に黒、黒に白と黄色の3頭だ。
「あ、前に買ってくれたお嬢さん!この子達も安くするよー!一頭100Gだ!」
「んー…そうね…」
宿屋も食事の提供でミルクが多く必要だ。
「3頭で250!」
「えー!ウチが潰れちまうよ!」
「金の羊亭のランチ一回無料はどう?」
「え、金の羊亭って今噂の美味い店かい?!」
「食事と宿よ。宿は改装中で閉めてるけど、食事はやってるの」
「なら夜に食いに行けるかい?!この3頭で終わりなんだよ!」
「じゃあディナー一回おごるわ!50G以内にしてね!」
「分かった!後で行くよ!はいミュージ!繋いでやるよ、荷車なら引けるさ!」
そう言いおじさん…もといお兄さんがミュージを3頭荷車を引けるように繋いでくれた。
ミュージには色違いの首輪と鈴も付けてくれる。
「ありがとう!」
アルシャインはお金を払って笑って歩き出す。
ミュージは意外と力持ちだった。
「さあ、早く帰りましょう!」
アルシャインはご機嫌な様子で歩き出した。


館に帰るとみんなが出迎えて驚きながらも荷物を入れるのを手伝った。
「アイシャママ、この子達は?」
「えっと…まず、ミュージを裏に運んでね」
「小屋を大きくしないと!」
ルベルジュノーが慌てて裏に行く。
「ミュージは馬小屋に置いとこう、すぐに小屋を広くするよ」
ノアセルジオが言い、レオリアムも続いた。
するとアルシャインが3人を中に入れて椅子に座らせる。
「これを飲んでて」
そう言ってホットミルクを出してから言う。
「ここが、食事を提供している宿屋よ。今の子達もあなた達と同じ孤児なの」
「みんな?」と少女。
「ええ。さっきのカシアンは騎士だから違うけど、他はみんなそう。2階で暮らしているわ。あんな風に働いて貰うのだけれど…どうかしら?」
そう言うアルシャインの目線の先には、カウンター席の奥のキッチンで料理をするマリアンナとアルベルティーナ、配膳をするリナメイシーとティナジゼルとクリストフ。
そして開いたドアから見えるのは、ミュージ小屋を大きくしている少年達の姿。
誰もが笑顔で活き活きとしている。
「アイシャママー、コースター売れちゃった!」
そう言ってクリストフがやってきて抱き着くとアルシャインはショックな顔をする。
「ええ?!2つ共?」
「うん、2つ!木のカップ置いてたのに〝7百で買いたい〟って言うからノア兄ちゃんが売ったの」
「……飾りが消えてく…」
思わず涙目になると、クリストフがアルシャインの頭を撫でる。
「泣かないでアイシャママ…」
そこにティナジゼルもやってきてアルシャインの頭を撫でた。
「アイシャママならすぐに作れるよ!ナージィもすぐに作れるようになって、一緒に飾ってあげるね!」
「リフ…ナージィ…ありがとう」
アルシャインは2人を抱き締める。
すると小さな子がアルシャインに抱き着いた。
「ママ…!」
そう言い泣き出してしまう。
クリストフとティナジゼルはその子の頭と背を撫でた。
「大丈夫よ、名前は?ナージィはティナジゼルよ!6歳なの!」とティナジゼル。
「僕クリストフ、リフでいいよ。7歳なんだ」とクリストフ。
「メルヒオール、6歳だよ…メルって呼ばれる」
小さな子が言う。
「ナージィと同じね!じゃあ手伝ってよ」
そうティナジゼルが言うと、メルヒオールはコクリと頷いてついて行く。
「…あなた達はどうする?私の事はアイシャでもアイシャママでもいいわ!」
そう笑って言うと少女が言う。
「私はフィナアリス、14歳です。ナリスって呼んで下さい、アイシャママ」
「ナリスね、…あなたは?」
そう少年に聞くと、呟くように言う。
「リュカシオン…16。リオンって呼ばれる」
「リオン、ありがとう。早速だけど黒板を壁に取り付けるのを手伝ってくれる?」
そう聞くと2人は頷いた。

黒板を取り付けると、フィナアリスも料理を手伝ってくれた。
みんなが自己紹介をし合って、料理と配膳をする。
リュカシオンは小屋の方へ行った。
アルシャインは黒板にメニューを書き移した。
小さい黒板には、お菓子とお土産だけを書く事にした。
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