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第一章 始まりの館

Chapter14 味のリクエスト

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 翌日は小雨だった。
昨日と同じく朝早くにミュージの乳搾りと…と思ったら、レオリアムが乳搾りをして、クリストフが卵を取っていた。
「…早いのね」
「アイシャの方が早いよ」
レオリアムが苦笑して言う。
戻ると、アルベルティーナとマリアンナがキャンディ作りをしている。
裏庭では屋根の下で薪を割るノアセルジオ。
キッチンの奥ではルベルジュノーが慣れた手付きでジャガイモを剥き、その横でリナメイシーがティナジゼルと共に本を読んでいる。
そこに、カシアンが起きてきた。
「なんだ、早いな…」
そう言って降りてきて顔を洗い、タオルで拭く。
「騎士なのに遅いわね」
「あー…まあいいや」
カシアンは何か言い掛けてやめ、コーヒーと紅茶の在庫を見る。
本当は、アルシャインに合わせて起きているのだが、腕立て伏せや腹筋運動をして時間を潰しているのだ。
お客さんも起き出してきたので、アルシャインはパンを焼く。

アルシャインが雨を弾く素材の布で作ったフード付きコートを着てハーブを摘んでいると、中から旅人に声を掛けられる。
「それはどこで買ったんだい?」
「え?布を買ってきて作ったんですよ!」
明るく笑って言うと、旅人が笑顔で言う。
「俺にも作ってくれないかい?金は弾むよ」
「え、でもお客さん今日モンスターを倒しに行くって言ってませんでした?」
戻ってきてコートを掛けると、その旅人がコートを触る。
「こんな布あるんだねー…雨だからもう一泊するよ。ちゃんと依頼したら、何日で作れるんだい?」
「え…と…」
「な、頼むよ」
そう言い男性は壁に手を付いてアルシャインの顔を覗き込む。
するとその旅人の後ろをルベルジュノーが膝カックンをしてよろけさせた。
「坊主!」
「駄目だよお客さん、みんなのママを口説いちゃ」
「いやー、このコートが欲しかっただけだって!」
「嘘ばっか。こんなコート街で売ってるじゃんか。下手な口実作んなよ。…アイシャもなんで黙ってんだよ」
そう言うと旅人は肩をすくめて部屋に行く。
アルシャインは真顔で答える。
「コート作ったら幾らかなーって考えてたのよ。…あら、お客さんは?」
「部屋だよ。…ったく、カシアンも大変だね」
「ん?なんでカシアン?」
「なんでもないよ」
ルベルジュノーは笑って接客に行く。
玉子焼きはパンケーキにも添えて1G増やした。


 ベリーが無くなりそうなので果樹園に行こうとすると、コートが無かった。
誰かが使っているのかと思ったら、背丈の大きいカシアンもノアセルジオも居る。
〈やられた!〉
泥棒か!
アルシャインがバンッとドアを開けるとすぐそこにコートをかぶったティナジゼルが居て、雑草を取っていた。
「ナージィ!こんな雨の日はいいのよ?!」
「やなの!綺麗なお庭がいいってママがいつも言ってるもん!」
「ナージィ…!」
そう言い感動して出ていこうとするとをカシアンが服を掴んで止める。
「よせ、風邪引いたら宿屋は休みだぞ」
「あ…そ、そうね…ナージィ、こっちにおいでー」
「やだ!全部抜くの!」
「………」
手を広げても手を叩いても来てくれない。
「僕が見てるよ」
そうレオリアムが言い、ドアの側に木のスツールを置いて座って見守った。
ついでにお守り袋のカゴを持って売る。
アルシャインは仕方なく注文の入ったパンケーキ作りに行った。
〈みんなの分も雨具が必要ね…〉
出来ている物は千~千五百Gもする。
布だけなら一人分で百Gくらいだ。
しかし全員分は出来ない。
〈女の子向けに小さめのなら、余った布で作れるわね…あと男の子は…ジュドーくらいの背に合わせましょう〉
そう考えていたらパンケーキを焦がしてしまった。
「アイシャママ!」
「ああ、いけない!」
焦げた物は、隣りでキャンディ作りをしているマリアンナとアルベルティーナと共に分けて食べた。

午後に果樹園にベリー詰みに行き、門に伸びるバラのツルを整えた。
アイアンアーチを置く予定だが、まだその材料が組み立てられていない。
曲がった鉄などを熱で溶接すればすぐなのだが、その火元にするかまどが組み立てられていないのだ。
「早くかまど作りたいな…」
呟いて入ると、商業ギルド仲間のロレッソが見て言う。
「どこにかまどを作るんだい?」
「あ…キッチンの奥と、外に…。レンガは用意してるけど、組み立てが難しくて」
苦笑して言うと、ソーセージを平らげたロレッソが外に出てレンガを手に取る。
「あっ、濡ちゃうわ!」
「…軽いモンならこれでいいが、もっと火に強いレンガじゃなきゃ駄目だ」
「え…」
「それとな、かまどに使うなら雨ざらしにしちゃいけねぇ。しっかり乾燥させるんだ。今度持ってきて作ってやるよ」
そう言いながらロレッソは戻ってきてコーヒーを飲む。
「あの…お幾らくらい…」
そーっと聞くと、ロレッソが笑う。
「馬鹿!こんな孤児院宿から金を貰えるかよ!…美味い飯を安く食わせて貰ってる恩返しさ!」
「ロレッソさん…!」
いかつい顔立ちから、もっと怖い人かと思ったがとても温かい心の持ち主だった。
「中はピザ窯でいいよな、外は何がいいんだ?」
そう聞かれてアルシャインは唸る。
「外は…普通の四角いかまどで…」
「何を作るんだ?」
「まずはあそこの鉄を熱して曲げられたらと…」
そう指を差して言うと、ロレッソの前に居たエイデンがコーヒーを吹く。
「おいおい何で言ってくれないんだよ!何か鉄の棒があっておかしいとは思ったが…何にするんだ?」
エイデンは鍛冶職人だ。
「あの…門に、アイアンアーチを作りたくて…でも子供達がいて危ないから中々出来なくて…」
アルシャインが言うと、エイデンがため息をついて言う。
「アイアンアーチってのは、よく貴族の家にあるやつでいいのかい?」
「え、ええ…ご存知ですか?」
「そういうのも作ってるからな。じゃあ、帰りに鉄を持ってっていいか?明日までに作って来てやるよ」
「あの…」
「金は取らねーよ!…その代わり、お願いがあるんだ」
エイデンがこぼしたコーヒーを拭きながら言う。
「は、はい、何でしょうか…?」
「キャンディに、ハーブ味とレモン味を追加してくれねーか?嫁さんと子供達が気に入ってて、ハーブがあったら買ってこいって言うんだよ」
「喜んで!」
アルシャインが笑顔で答えると、ロレッソも言う。
「ずるいな!なら俺はジンジャーとリンゴ味がいい!風邪の予防にいいってちまたで有名なんだ!」
「はい、分かりました!」
マリアンナが笑顔で答えて、アルベルティーナと作り方を考える。
「リンゴの果汁と刻んだジンジャーを入れるのは?」とマリアンナ。
「それいい!ハーブは煮出してから、花を包んだら可愛いよね!」とアルベルティーナ。
「可愛いね!早速やってみよう!」
2人ははしゃぎながら摘んでおいた花や生姜、リンゴとレモンを取ってくる。
それを微笑んで見てから、アルシャインはロレッソとエイデンにお辞儀をして戻ってきたティナジゼルからコートを貰って掛けた。
「髪の毛濡れてる」
レオリアムが言い、ティナジゼルの髪をタオルで拭く。
もうすっかり一つの家族だ。
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