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第1部
24.白雪と薔薇(7)
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部屋に一歩足を踏み入れまた驚いてしまう。ローテーブルの上にはカップラーメンの空のカップに、腐った食べ物の置かれたお皿、飲みかけのペットボトルのお茶――床には丸めたティッシュやゴミがいくつも散らばっている。一樹君はきれい好きでいつもきっちり掃除していたはずなのに。
「……座れよ」
一樹君はどかりとローテーブルの前に座り片膝を立てた。わたしも戸惑いながらもその向かいに座る。
「い、一樹君……お祖母さんは?」
「死んだよ。一週間前に」
一樹君は吐き捨てるようにそう言った。
「えっ……」
一樹君は絶句するわたしに暗い炎を燃やした瞳で告げる。
「あんたも両親が亡くなって不安だったのに、ひとりきりにして悪かったとは思っている。けど、寂しいからってあれはないんじゃないか? 可愛い顔してやってくれるよなあ……。その演技にすっかり騙されていたよ」
「え、んぎ?」
わたしは言葉の意味が分からず目を瞬かせた。
「まだしらばっくれるのか」
一樹君は苛立たしげに立ち上がり、背後の箪笥から写真を2枚取り出した。
「……一週間前にポストに投げ入れられていた。今朝からネットの裏サイトにも出回っているそうだ。よく外に出てこられたな? 浮気でももっとマシな男を選ぶべきだった。ハメ撮りをバラ撒かれるなんてついてないよなぁ?」
わたしの前にかすかな音と共に叩き付ける。写真の1枚はひらひらとテーブルから落ち、わたしの膝の上にぺらりと表になり零れた。
「……っ!!」
その写真を目にしたとたん、心臓と呼吸が確かに止まった。
裸の、それも男の人とセックスをするわたしの写真だった。大きく足を開かれ貫かれた上、幸せそうに笑っている。男の人の顔はモザイクで消去され、一方でわたしの顔ははっきりと写っていた。顔だけわたしにすり替えたとも考えられない。胸も、お腹も、腰も、紛れもなく一七年見慣れたわたしの体だった。
「ど……して?」
もう一枚を見る勇気がない。
「こんなの、わたし、知らない……」
どうして、どうして、どうして? 一樹君とも手を繋いだことしかないのに――。
「せっかくだからそっちの写真も見ておけば? もっとすごいから。あんた意外に胸あったんだな。遠慮せずさっさとヤっておけばよかった。ああ……今からでも遅くはないか?」
一樹君がゆらりと幽鬼のように立ち上がる。わたしは彼が何をするつもりなのかを察し、ひっと息を呑みその場に尻もちをついた。
「や、やめて……」
「今さら何もったいぶってるんだよ!?」
一樹君がわたしを押し倒し伸し掛かる。後頭部をフロアに打ち一瞬目の前に星が飛んだ。それでも必死に首を振り一樹君を見上げる。
「お、お願い、やめて……わたし、知らない。本当に、知らない。一樹君以外、見てなかった……」
「は? 今さら命乞い?」
一樹君は鼻白んだように繰り返した。
「なあ、餞別に一発くらいいいだろ?この淫乱」
わたしは一樹君の優しさしか知らなかった。その優しさを一杯に受けてきた。だから直に叩き付けられた剥き出しの悪意は、実際犯される以上に辛く苦しかった。
「……っ」
顔がくしゃりと崩れ涙が浮かぶのを感じる。そんなわたしの表情に一樹君が一瞬怯み、わたしを押さえつける力が緩んだ。薄茶の双眸にみるみる正気が返り、わたしの知る一樹君へと戻る。
「る」
その隙にわたしはどうにか一樹君の体の下から這い出し、乱れたワンピースも整えないまま外へと飛び出した。
「瑠奈……!!」
それからどこをどう歩きどう帰ったのかは覚えていない。ただ、頭が混乱しなぜ、なぜと繰り返すことしかできなかった。
いつ、どこで、誰が、なぜ、わたしを抱いたの?
「……座れよ」
一樹君はどかりとローテーブルの前に座り片膝を立てた。わたしも戸惑いながらもその向かいに座る。
「い、一樹君……お祖母さんは?」
「死んだよ。一週間前に」
一樹君は吐き捨てるようにそう言った。
「えっ……」
一樹君は絶句するわたしに暗い炎を燃やした瞳で告げる。
「あんたも両親が亡くなって不安だったのに、ひとりきりにして悪かったとは思っている。けど、寂しいからってあれはないんじゃないか? 可愛い顔してやってくれるよなあ……。その演技にすっかり騙されていたよ」
「え、んぎ?」
わたしは言葉の意味が分からず目を瞬かせた。
「まだしらばっくれるのか」
一樹君は苛立たしげに立ち上がり、背後の箪笥から写真を2枚取り出した。
「……一週間前にポストに投げ入れられていた。今朝からネットの裏サイトにも出回っているそうだ。よく外に出てこられたな? 浮気でももっとマシな男を選ぶべきだった。ハメ撮りをバラ撒かれるなんてついてないよなぁ?」
わたしの前にかすかな音と共に叩き付ける。写真の1枚はひらひらとテーブルから落ち、わたしの膝の上にぺらりと表になり零れた。
「……っ!!」
その写真を目にしたとたん、心臓と呼吸が確かに止まった。
裸の、それも男の人とセックスをするわたしの写真だった。大きく足を開かれ貫かれた上、幸せそうに笑っている。男の人の顔はモザイクで消去され、一方でわたしの顔ははっきりと写っていた。顔だけわたしにすり替えたとも考えられない。胸も、お腹も、腰も、紛れもなく一七年見慣れたわたしの体だった。
「ど……して?」
もう一枚を見る勇気がない。
「こんなの、わたし、知らない……」
どうして、どうして、どうして? 一樹君とも手を繋いだことしかないのに――。
「せっかくだからそっちの写真も見ておけば? もっとすごいから。あんた意外に胸あったんだな。遠慮せずさっさとヤっておけばよかった。ああ……今からでも遅くはないか?」
一樹君がゆらりと幽鬼のように立ち上がる。わたしは彼が何をするつもりなのかを察し、ひっと息を呑みその場に尻もちをついた。
「や、やめて……」
「今さら何もったいぶってるんだよ!?」
一樹君がわたしを押し倒し伸し掛かる。後頭部をフロアに打ち一瞬目の前に星が飛んだ。それでも必死に首を振り一樹君を見上げる。
「お、お願い、やめて……わたし、知らない。本当に、知らない。一樹君以外、見てなかった……」
「は? 今さら命乞い?」
一樹君は鼻白んだように繰り返した。
「なあ、餞別に一発くらいいいだろ?この淫乱」
わたしは一樹君の優しさしか知らなかった。その優しさを一杯に受けてきた。だから直に叩き付けられた剥き出しの悪意は、実際犯される以上に辛く苦しかった。
「……っ」
顔がくしゃりと崩れ涙が浮かぶのを感じる。そんなわたしの表情に一樹君が一瞬怯み、わたしを押さえつける力が緩んだ。薄茶の双眸にみるみる正気が返り、わたしの知る一樹君へと戻る。
「る」
その隙にわたしはどうにか一樹君の体の下から這い出し、乱れたワンピースも整えないまま外へと飛び出した。
「瑠奈……!!」
それからどこをどう歩きどう帰ったのかは覚えていない。ただ、頭が混乱しなぜ、なぜと繰り返すことしかできなかった。
いつ、どこで、誰が、なぜ、わたしを抱いたの?
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