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「悪役令嬢と獅子心の黒太子」
11.コンラートという男(1)
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私はベルフォールから連れてきた従者に頼み、コンラート様の評判や生い立ちについて調査した。聞き取りの対象は様々だったが、皆が皆口を揃えて「コンラート様は素晴らしい方である」と褒め称える。
ある貴族はコンラート様の身分には珍しく、みずからの血統や能力に驕らないと感心していた。ある侍女は未だに独り身であるので、女性に大層人気があるのだと頬を染めていた。ある召使いは下々の者に常に心配りをしてくださると溜め息を吐いた。
つまり、なんの欠点も見いだせなかったのである。
アンドリューの病室で報告書を受け取り、一行も漏らさずに読んだのち、私は首を傾げた。
「完璧なお方なのね」
そう、他人にとってのコンラート様は完璧なのだ。まるで御伽噺に登場する王子のように。だからこそ私は不自然だと感じていた。もちろんレオンハルト様のお気に入りであるだけに、評価を上乗せしているということもあるだろうがーー
「まるで作り話のよう」
これらの情報からは人間としての現実みを感じない。
「アレクサンドラ様、こちらもご覧ください」
従者がもう一枚の報告書を差し出した。そちらにはコンラート様の生い立ちがざっと書かれている。
私ははっとなって目を凝らした。いくつか見逃せない情報があったからだ。
「コンラート様には王位継承権があるのね」
「ええ。第三の王位継承権になりますね」
ちなみに筆頭はもちろんレオンハルト様、続いて現在は公爵位を持つ王弟閣下ーーつまりはコンラート様のお父上だ。
つまり、レオンハルト様がいなくなれば、コンラート様のお父上に継承権が移る。
けれども、報告書を読み進めて黙り込む。王弟閣下に王位継承権は確かにあるが、万が一レオンハルト様の身に何かがあっても、王位を継ぐのは難しいと思われるとあった。なぜなら病を得てもう何年も宮廷に出仕ておらず、屋敷で寝た切りとなっているとあるからだ。
お気の毒にと同情してしまう。コンラート様は母上ももう亡くされているようだし、たったひとりの家族だろうに。
私は報告書を従者に手渡した。
コンラート様は王位継承権があるので、レオンハルト様を害する動機はある。けれども、証拠は何もないうえに、未だにどう毒物を混入させたのかもわからないのだ。
アンドリューもまだ目を覚まさず八方塞がり。私は途方に暮れてこう呟くしかなかった。
「こんなに豊かで綺麗に見えて、エストラントも色んな闇を抱えた国なのに」
そして、その闇を象徴するかのように、間もなく第二の事件が起こったのである。
ある貴族はコンラート様の身分には珍しく、みずからの血統や能力に驕らないと感心していた。ある侍女は未だに独り身であるので、女性に大層人気があるのだと頬を染めていた。ある召使いは下々の者に常に心配りをしてくださると溜め息を吐いた。
つまり、なんの欠点も見いだせなかったのである。
アンドリューの病室で報告書を受け取り、一行も漏らさずに読んだのち、私は首を傾げた。
「完璧なお方なのね」
そう、他人にとってのコンラート様は完璧なのだ。まるで御伽噺に登場する王子のように。だからこそ私は不自然だと感じていた。もちろんレオンハルト様のお気に入りであるだけに、評価を上乗せしているということもあるだろうがーー
「まるで作り話のよう」
これらの情報からは人間としての現実みを感じない。
「アレクサンドラ様、こちらもご覧ください」
従者がもう一枚の報告書を差し出した。そちらにはコンラート様の生い立ちがざっと書かれている。
私ははっとなって目を凝らした。いくつか見逃せない情報があったからだ。
「コンラート様には王位継承権があるのね」
「ええ。第三の王位継承権になりますね」
ちなみに筆頭はもちろんレオンハルト様、続いて現在は公爵位を持つ王弟閣下ーーつまりはコンラート様のお父上だ。
つまり、レオンハルト様がいなくなれば、コンラート様のお父上に継承権が移る。
けれども、報告書を読み進めて黙り込む。王弟閣下に王位継承権は確かにあるが、万が一レオンハルト様の身に何かがあっても、王位を継ぐのは難しいと思われるとあった。なぜなら病を得てもう何年も宮廷に出仕ておらず、屋敷で寝た切りとなっているとあるからだ。
お気の毒にと同情してしまう。コンラート様は母上ももう亡くされているようだし、たったひとりの家族だろうに。
私は報告書を従者に手渡した。
コンラート様は王位継承権があるので、レオンハルト様を害する動機はある。けれども、証拠は何もないうえに、未だにどう毒物を混入させたのかもわからないのだ。
アンドリューもまだ目を覚まさず八方塞がり。私は途方に暮れてこう呟くしかなかった。
「こんなに豊かで綺麗に見えて、エストラントも色んな闇を抱えた国なのに」
そして、その闇を象徴するかのように、間もなく第二の事件が起こったのである。
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