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本編
そんニャこんニャで大団円(7)
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リンナはカレリアに比べ土地は貧しく、軍隊や魔術師団の規模も劣る。だからこそ、より大きな野望を抱き、大国には負けたくはないという心境になるのだろう。
リンナの国王は軍隊と魔術師団を強化し、カレリア側ではない東の隣国に攻め込む機会を狙っていた。小国ではあるが宝石や魔石、希少鉱物などの産地で、征服すればカレリアに並ぶ経済力がつくと踏んだのだろう。
しかし、軍人や兵士を増員するのにも、魔術師を育成するのにも金がかかる。税金を取り立てようにも王太子や臣下から反対される。
ちなみに、この王太子は政治的にも軍事的にも非常に有能で、同時に徹底したリアリストだった。リンナが隣国に攻め込む姿勢を見せた瞬間、その行動を危険視したカレリアが、隣国の支援に回るだろうと予測していた。
臣下らも国王より王太子を信頼していたのだろう。全員揃っての大反対を受けたことで、国王は隣国攻めを諦めざるを得なかった。
国のトップであるにもかかわらず、自由に国を動かせない……。国王はプライドを傷付けられ、苛立ちながら日々を過ごしていた。私はその苛立ちにつけ込んだのだ。
私は国王に魔術を披露して正体を明かし、リンナを大国に押し上げる手助けをしようと囁いた。「私と組めば不可能ではない。かつてカレリアの柱とも言えた、私の言葉なら信用できるだろう?」と。「あなたは素晴らしい才能をお持ちなのに、周囲が無能で見る目がないばかりにないがしろにされている。不当な扱いは是正しなければならない」とも言ったか。
リンナの国王は賞賛に飢えていたのか、私の話にすぐに乗ってきた。私は国王に協力する見返りとして、マリカ様を誘拐するよう唆したのだ。
仮にこの件でカレリアに宣戦布告を受けたとしても、私の魔力は軍隊の一個師団に匹敵し、魔術師団の機密情報も握っている。カレリアに一矢どころか十矢は報いる自信があった。
国王は直属の間諜の一族に命じ、言われた通りにマリカ様を攫って来た。マリカ様は確かに数年前亡くなったという、カレリアの王妃様そっくりだった。特に無茶苦茶気が強そうなところとか、そこはかとなくどSっぽいところとか……。
私はマリカ様をミルヤと同じ目に遭わせるつもりだった。しかし、あの顔を見るとどうもそんな気が失せてしまい……いやいや、断じて私がどMだからではない!
決意を新たにするために、その日に決行するのは止めた。ところが、マリカ様は翌日跡形もなく姿を消していたのだ。どこに行ったのかと目の色を変えて調べていると、どうも王太子がマリカ様を連れ出したらしいとの情報を掴んだ。
この作戦については国王と私、間諜以外誰も知らないはずだった。恐らく王太子は国王の動向を監視し、まずいことをしでかした時点で、対処できるようにしていたのだろう。
厄介な事態になったと舌打ちをした。王太子はそう簡単に甘言に耳を貸さない。次の一手を思い付かず、どうにも動けないでいるうちに、今度は王宮で事件が起こった。
なんと、地下に一晩でトンネルが開けられ、マリカ様が再び攫われたというのだ。私はそんな馬鹿なと目を見開いた。
王宮の地下は岩盤となっており、人力でそんな真似をするのはまず無理だ。ならば、魔術師の仕業としか考えられない。だが、それだけの魔力を持つ魔術師はそうはいない。カレリア側の間諜なのだとは予想がついた。
王宮からそこまでの距離がなく、カレリアへ通じる関所はたった一箇所。奴らが逃げ出すとすればそこからだーー私は馬を飛ばして関所へ向かった。
案の定マリカ様は夫婦者に連れられ、男装して関所を抜けようとしていた。その夫婦者が間諜だと見抜いた私は、逃してなるものかと戦いに臨んだのだ。
まさか、負けるとは思わなかった……。私は、魔術でだけは負けたことがなかった。心の中で何かがぽっきり折れる音がした。
逮捕され、収監され、処刑になるかもしれないと聞かされても、もうすべてがどうでもよかったし、煮るなり焼くなり好きにしろとしか思わなかった。
まさか、まさか生きてカレリアに帰ることになり、その上ミルヤが生きていたとは思わなかった……。
おっさんはゆっくりと顔を上げた。お義母さんを抱いたままアトス様を見上げる。
「君は……私とミルヤの息子なのか。道理でミルヤにそっくりなはずだ……」
アトス様は肩を竦めて苦笑した。
「いいえ。父さん、どちらかと言えばあなたに似ていると思います。特に猫カフェをオープンした辺りとか」
確かにアトス様はキャットタワーとかちゅー○とか開発しているし、親子二代で猫産業の発展に力を尽くしているわ……。
アトス様は遠い目になる私を尻目に、おっさんに手を差し伸べた。
「さあ、カレリアに帰りましょう。ただ……一つだけお伝えしなければならないことがあります。母は私を産んで以来魔力が不安定になり、いまやいつ人間に戻れるかわかりません。一生猫の姿かもしれません。……それでもよろしいですか? また母と生きて行くと誓えますか?」
おっさんにはお義母さんをぎゅっと抱き締めて頷く。
「生きていてくれただけでいい……。それだけで……。むしろずっと猫ままでも構わない……」
……それはそれで問題がある気がするけど、まあ細かいことは今更ごちゃごちゃ言うまい。
おっさんはアトス様の手を取って立ち上がると、「それにしても……」とアトス様をまじまじと眺めた。
「君も小さい頃は変身できたんだねっ! しかも! 真っ黒で! モッフモフの長毛種! 尊い、妄想するだけで尊い……。お父さん、子猫の君にスリスリしたかったっ……! お腹に顔を埋めてスーハー吸いたかったっ……!」
ああ、やっぱりこの二人は親子だわ……。私は脱力しつつカレリアに向かってアハハと笑った。
リンナの国王は軍隊と魔術師団を強化し、カレリア側ではない東の隣国に攻め込む機会を狙っていた。小国ではあるが宝石や魔石、希少鉱物などの産地で、征服すればカレリアに並ぶ経済力がつくと踏んだのだろう。
しかし、軍人や兵士を増員するのにも、魔術師を育成するのにも金がかかる。税金を取り立てようにも王太子や臣下から反対される。
ちなみに、この王太子は政治的にも軍事的にも非常に有能で、同時に徹底したリアリストだった。リンナが隣国に攻め込む姿勢を見せた瞬間、その行動を危険視したカレリアが、隣国の支援に回るだろうと予測していた。
臣下らも国王より王太子を信頼していたのだろう。全員揃っての大反対を受けたことで、国王は隣国攻めを諦めざるを得なかった。
国のトップであるにもかかわらず、自由に国を動かせない……。国王はプライドを傷付けられ、苛立ちながら日々を過ごしていた。私はその苛立ちにつけ込んだのだ。
私は国王に魔術を披露して正体を明かし、リンナを大国に押し上げる手助けをしようと囁いた。「私と組めば不可能ではない。かつてカレリアの柱とも言えた、私の言葉なら信用できるだろう?」と。「あなたは素晴らしい才能をお持ちなのに、周囲が無能で見る目がないばかりにないがしろにされている。不当な扱いは是正しなければならない」とも言ったか。
リンナの国王は賞賛に飢えていたのか、私の話にすぐに乗ってきた。私は国王に協力する見返りとして、マリカ様を誘拐するよう唆したのだ。
仮にこの件でカレリアに宣戦布告を受けたとしても、私の魔力は軍隊の一個師団に匹敵し、魔術師団の機密情報も握っている。カレリアに一矢どころか十矢は報いる自信があった。
国王は直属の間諜の一族に命じ、言われた通りにマリカ様を攫って来た。マリカ様は確かに数年前亡くなったという、カレリアの王妃様そっくりだった。特に無茶苦茶気が強そうなところとか、そこはかとなくどSっぽいところとか……。
私はマリカ様をミルヤと同じ目に遭わせるつもりだった。しかし、あの顔を見るとどうもそんな気が失せてしまい……いやいや、断じて私がどMだからではない!
決意を新たにするために、その日に決行するのは止めた。ところが、マリカ様は翌日跡形もなく姿を消していたのだ。どこに行ったのかと目の色を変えて調べていると、どうも王太子がマリカ様を連れ出したらしいとの情報を掴んだ。
この作戦については国王と私、間諜以外誰も知らないはずだった。恐らく王太子は国王の動向を監視し、まずいことをしでかした時点で、対処できるようにしていたのだろう。
厄介な事態になったと舌打ちをした。王太子はそう簡単に甘言に耳を貸さない。次の一手を思い付かず、どうにも動けないでいるうちに、今度は王宮で事件が起こった。
なんと、地下に一晩でトンネルが開けられ、マリカ様が再び攫われたというのだ。私はそんな馬鹿なと目を見開いた。
王宮の地下は岩盤となっており、人力でそんな真似をするのはまず無理だ。ならば、魔術師の仕業としか考えられない。だが、それだけの魔力を持つ魔術師はそうはいない。カレリア側の間諜なのだとは予想がついた。
王宮からそこまでの距離がなく、カレリアへ通じる関所はたった一箇所。奴らが逃げ出すとすればそこからだーー私は馬を飛ばして関所へ向かった。
案の定マリカ様は夫婦者に連れられ、男装して関所を抜けようとしていた。その夫婦者が間諜だと見抜いた私は、逃してなるものかと戦いに臨んだのだ。
まさか、負けるとは思わなかった……。私は、魔術でだけは負けたことがなかった。心の中で何かがぽっきり折れる音がした。
逮捕され、収監され、処刑になるかもしれないと聞かされても、もうすべてがどうでもよかったし、煮るなり焼くなり好きにしろとしか思わなかった。
まさか、まさか生きてカレリアに帰ることになり、その上ミルヤが生きていたとは思わなかった……。
おっさんはゆっくりと顔を上げた。お義母さんを抱いたままアトス様を見上げる。
「君は……私とミルヤの息子なのか。道理でミルヤにそっくりなはずだ……」
アトス様は肩を竦めて苦笑した。
「いいえ。父さん、どちらかと言えばあなたに似ていると思います。特に猫カフェをオープンした辺りとか」
確かにアトス様はキャットタワーとかちゅー○とか開発しているし、親子二代で猫産業の発展に力を尽くしているわ……。
アトス様は遠い目になる私を尻目に、おっさんに手を差し伸べた。
「さあ、カレリアに帰りましょう。ただ……一つだけお伝えしなければならないことがあります。母は私を産んで以来魔力が不安定になり、いまやいつ人間に戻れるかわかりません。一生猫の姿かもしれません。……それでもよろしいですか? また母と生きて行くと誓えますか?」
おっさんにはお義母さんをぎゅっと抱き締めて頷く。
「生きていてくれただけでいい……。それだけで……。むしろずっと猫ままでも構わない……」
……それはそれで問題がある気がするけど、まあ細かいことは今更ごちゃごちゃ言うまい。
おっさんはアトス様の手を取って立ち上がると、「それにしても……」とアトス様をまじまじと眺めた。
「君も小さい頃は変身できたんだねっ! しかも! 真っ黒で! モッフモフの長毛種! 尊い、妄想するだけで尊い……。お父さん、子猫の君にスリスリしたかったっ……! お腹に顔を埋めてスーハー吸いたかったっ……!」
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