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本編

そんニャこんニャで大団円(6)

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 ヴァルトは――もう面倒くさいからおっさんでいいや――も呆然としていた。もちろん、それは溺愛する愛猫……ではなく愛妻が生きていて、ショタに口説かれていたからだけではないだろう。

「そんな、馬鹿な。馬鹿な……」

 ミルヤ……お義母さんを抱き締める腕に力を込めて震えている。

「なら、私は一体なんのために今まで……」

 そして、お義母さんを見失ってからの日々を語り始めた――


 
 私は……財産も地位も身分もいらなかった。ただ一生猫にまみれて暮らせればよかった。だが、クラウス総帥の甥であるのと同時に、生まれ持ったこの魔力が、私をただの猫好きでいさせることを許さなかった。

 陛下と幼い頃から友人として仲が良かったのもあった。実は陛下はああ見えて私と同じくちょっとコミュ障で、あのいかにも王様ですよ的な堂々とした振る舞いは、すべて臣下の演技指導のたまものなのだ。国の舵取りは難しいし嫁と娘は気が強いし、毎日ストレスマックスだよぉ……と、よくジュースを飲んで零していた。

 言い忘れていたが陛下は下戸なのだ。やはり私と同じく女にも興味がなかったので、私との語らいが数少ない心安らぐ一時なのだと思うと、魔術師やーめた!だんて言えなかった……。

 だから、私も臣下として、友人として誠心誠意お仕えしていたのに、ようやくミルヤとの結婚にこぎつけたところで、陛下は「週に一回でいいからミルヤたんを貸してくれ!」、などとふざけたことを抜かしたのだ。

 私は忠誠の褒美がミルヤを奪うことなのかと憤った。当時の私はミルヤを溺愛するあまり、彼女以外がよく見えなくなっていた。初彼女ができた陰キャはこうだからと嘲笑われそうなのが辛い……。だから、陛下がミルヤを愛人として狙っていると聞かされ、いともたやすく信じ込んでしまったのだ。

 私はミルヤを連れて国外へ亡命しようとしたが、途中の森で火事に遭うことになった。咄嗟に陛下の放った刺客の仕業だと思った。私はカレリアの機密情報を多く握っている。亡命されるくらいなら暗殺した方が安全だからだ。

 すぐに水の魔術で鎮火しようとしたのだが、ミルヤは大雨を目にするなりその場から逃げ出し、私は何が起きたのかわからぬまま彼女を追った。そして、目の前で白い体が濁流に呑み込まれるの見て、絶望してその場で両手両足をついたのだ。ミルヤは水が苦手で泳ぎもできない。あれだけの激しい流れに呑まれて、助かるとは思えなかった。

 そこを、襲い掛かって来た刺客に殴られたのだ。だが、ただでやられるものかと、最後っ屁で爆炎の魔術を放ち、意識を失う前に全員倒した。

 以降のことはよく覚えていないものの、ミルヤと同じく川に落ちて流されたようだ。溺れ死にしかけていたところを、リンナ人の漁師に網で救われてと言うか掬われて、親切なその男に怪我の手当てをしてもらった。

 ところが、私はベットの上で恐ろしい事実に気付いた。私は、ミルヤのように記憶を失いはしなかった。だが、あらゆる魔術が一切使えなくなっていたのだ。

 なぜそうなったのかはわからない。ただ、魔術師も事故で頭を打ったり強いショックを受けると、精神をやられて魔力を失うことがあるのだとは知っていた。失うと言うよりは自ら封印すると言った方が正しいだろうか。魔術師の間では失魔症と呼ばれており、まだ治す手立てがなく、自然に任せるしかないので、もっとも危険視されている病だった。

 魔術が使えない魔術師など羽を折られた鳥のようなものだ。命を断ってミルヤの追おうとしたのだが、絶望以上の憎悪が私がナイフで胸を突くのを押し留めた。魔力に変わって私の全身を満たし、私を陛下への復讐へと駆り立てた。結局、私は臆病でまだ死にたくはなかったのだろう。だから、生きる理由を復讐に求めたのだと思う。

 私はカレリアには戻らず、リンナに留まることを選んだ。刺客を放たれるほどなのだから、帰国しては危険だと判断したのだ。

 魔力が戻るまでどう生計を立てていたのかって? 猫知識の量と手懐け方には自信があったから、この世界初の猫カフェをオープンしたのさ……。ああ、もちろんかなり流行って今では国中に支店がある……。そろそろ海外にも進出しようかな……。

 その間にカレリアの情報を密かに収集し、陛下にとって何が最もダメージとなるのかを調べた。なんでも、陛下は末のマリカ様を可愛がっているらしい。数年前に王妃様を亡くしてしまい、その王妃様にそっくりなマリカ様を、ことのほか気にかけているようだと。

 私は、たった一人の愛する人を亡くしたのに、陛下にはまだなお家族が残されている……。 私はやり切れなさにその日入ったばかりの新入りニャンコを抱き締めた。無茶苦茶可愛いマンチカンだった……。すると、その瞬間、何の前触れもなく魔力が戻ったのだ。恐らく、感情の高ぶりが作用し封印を解いたのだろう。

 すでにリンナに来てから二十年近くの歳月が過ぎていた。しかし、私の怒りと憎しみは一向に衰えることがなかった。今こそカレリア国王に復讐を遂げる時だ――そう決意した私はリンナの王宮へと向かった。
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