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本編

王女様の逆襲!…のはずが(5)

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 私はポカンと口を開けた。

 だってそんなアボカドバナナ!! 

 ここはアメコミの世界ではないはずだ。地球と同じく重力が立派にあるので、自力で飛べる生き物は鳥や虫だけのはず。スーパー○ンではあるまいし、どうしてアトス様が空にいるわけ!?

 忍者二人も同じ感想だったらしく、真っ青になってぎゃあぎゃあ喚いている。

「お、おい、あれって魔術師だろ。魔術師って飛べるものなのか!?」

「ヴァルトだってさすがに飛ぶのは無理だって言ってたぞ。だから、こんなもん作るしかなかったわけで……」

「って、ヴァルトも無理って……あいつ、バケモンか!?」

 一体どうやってとまっしぐらに飛んでくるアトス様を見つめる。すると、その体の下に風が渦巻いているのが見えた。

 魔力で発生させた竜巻で体を上昇させ、足元からは強風を発射して前に進んでいるみたいだ。なるほど、ジェット機と似たような理屈か。

 うんうん、まあ、できないことはないよね……って、できてたまるか!! 一体どれだけの魔力と技術が必要なの!?

 アトス様が追ってくるのにカイが焦る。

「おい、もっと早く飛べないのか!?」

「これ以上は無理だ!!」

 ハングライダーとアトス様はそれから三、四時間ほど飛び続けたものの、なかなか距離は縮まらない。その間に見下ろす景色に変化が出て来た。

 カレリアはほとんどが平地で、川や湖、緑の多い自然豊かな国だ。ところが、だんだん山が増えてきて、冬でもないのにうっすら雪が積もっている。このハングライダーは魔術がかけられているのか、呼吸もできるし冷えもしないけど、山頂は相当寒いだろう。

 まさか、もう国境線を超えて、リンナに入っているのだろうか!?

 場所に驚いたこともあったし、いくら爪を引っ掛けていたとは言え、マリカ様に何時間もぶら下がり続けた疲れもあっただろう。更に、マリカ様が大きなくしゃみをしたことで、その足から呆気なく落ちてしまったのだ……!

「ぶぇ、ぶぇ、ぶぇ……ぶぇぇえっくしょい!」

 マリカ様、顔に似合わずおっさんみたいなくしゃみ……などと感心した時にはもう遅かった。

「ニャ?」

 ポロリと空に放り出されて呆気に取られる。後ろを飛んでいたアトス様も「あ」、と口を開けているのが見えた。そして、次の瞬間、私は悲鳴を上げつつ真っ逆さまに落下した。

「ニャァァァアアアァァァオオオォォォウ!!」

「あ、アイラーッ!!」

 落ちる、落ちる、落ちるぅぅぅううう!! そうだ猫かきで泳ぐんだ!! スカイダイビングの要領だ!! 猫だってやればできるはず……って、やっぱりなんの成果も得られませんでしたぁぁぁあああ!!

 落ちるスピードが早すぎて、脳内で走馬燈を回すヒマも、辞世の句を詠む余裕もない。

 地上があっという間に近づいて、すわ猫のミンチなるかと思ったところで、首筋をひょいと何者かに摘まれた。

 まさか、アトス様かと期待して振り返ってぎょっとする。なんと、広げた翼が四メートルはあろうかと言う、鋭い目をした猛禽類だったからだ! 

 ワシかタカかトンビかはこの際問題ではない。まさか、私が捕まえられた理由って……。

 猛禽類は不吉な予感にガクブルする私をくわえ、やがて森の中にある大きな巣に降り立った。

 ハイ、正解! ひとし君人形を三個差し上げます……って、やっぱりヒナのエサ枠だったぁぁぁあああ!!

 親鳥が大きいからかヒナも中型犬くらいはある。うち一匹の口の中に放り込まれた私は、前足でクチバシを押し広げて抵抗した。

 アトス様と結婚式を挙げるまでは死ぬもんかぁぁぁあああ!! 

 私はヒナの舌をクッションにしてジャンプすると、巣から飛び出し木の上から転がり落ちた。

 とにかく逃げて、逃げて、逃げまくる。そうこうするうちに森を抜け、道を見つけて歩いてゆくと、かなり大きな街に辿り着いた。

 さすがに人には食べられないだろうと、広場の噴水の前にへたりこむ。

 街にはモスグリーンの屋根の、石造りの建物が並んでいた。道にいくつも溝があるのは、雪解け水を流すためだ。これはリンナに特有だと聞いたことがある。やっぱりここはリンナだった。

 豊かな街らしくて道行く人々の身なりがいい。広場にある食べ物の屋台も活気があった。チーズの溶ける香りにお腹が鳴る。ずっと何も食べていなかったので、エネルギー切れになったみたいだ。

 とはいえ、リンナのお金なんて持っていない。だからと言って、お魚くわえたドラ猫のように、泥棒猫になるのも気が引けた。

 そこで、ここは一つ猫族であることを活かそうと、「私、可愛いでしょ?」作戦を決行したのである。食べ物を持った優しそうなお姉さんや、立ち食いをしている子どもに、「ちょうだいちょうだい」を披露するのだ!

 後ろ足でひょいと立ち上がり、前足を合わせて上下に振っておねだりすると、ほとんどの人間は私に落ちた。

「やーん、何この子、かっわいい! ソーセージ焼いたの食べる?」

「僕もパン上げる! レバーペースト塗ってあって美味しいよ!」

 こうして私はお腹一杯に食べられただけでなはなく、明日、明後日の食糧をも手に入れたのだ!

 やっぱり可愛いは正義であり武器だわ。

 私が貢がれた食べ物を前にうんうんと頷いていると、背後からお姉さんでも子どもでもない気配がした。
 
 何気なく振り返ってビクリとする。四十代半ばくらいの背の高いおっさんが、満面の笑みで私を見下ろしていたからだ。

 肩まで伸ばして後ろで束ねた黒髪には、ところどころに白髪が混じっている。落ち着きのある黒曜石色の瞳の、なかなかのイケオジだった。頬のシワも渋さに磨きをかけている。高価そうなビロードの黒いコートを着ていて、結構な構なお金持ちみたいだ。

 近くにしゃがみ込んだおっさんを見て、私は見覚えがある気がして首を傾げた。

 身近な誰かに似ていないかしら?

 ところが、答えを出す前に、疑問自体が頭から吹っ飛んでしまった。なぜなら、おっさんは目からハートマークを飛ばす勢いで、手と頬を石畳に擦り付け、猫なで声を出したからだ。

 イケオジな見た目とシブい雰囲気に、似合わなすぎる言動だった。衝撃で頭が真っ白になってその場にかたまる。

「んもう、可愛い猫ちゃんでちゅね~! マスの燻製丸ごとあげちゃうから、もう一回ちょうだいちょうだいしてくれまちぇんかあ?」





※ちょうだいちょうだいについては、「猫」「ちょうだいちょうだい」で動画を検索してください
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