34 / 66
本編
*下僕失格(4)
しおりを挟む
※ここから先はエッチなシーンになります。苦手な方は飛ばしてください。
今度こそすっぽんぽんになった私は、アトス様にそっとベッドに横たえられた。影の落ちたタンザナイト色の瞳にクラクラとなる。
アトス様に初めて抱かれている真っ最中に、私が猫族特有のフェロモンを出していると聞いたことがあったけれども、アトス様も絶対に何か放っているに違いない。そうでもなければ見つめられただけで、救急車を呼ぶレベルで心臓が高鳴るなんて変じゃない!?
なら、アトス様はどうなのだろうと首を傾げる。私の体を見て同じように思ってくれているのだろうか。ドキドキしていてくれれば嬉しいし、結婚した相手が私でよかったと思ってほしいな……。
「あのう……」
アトス様の目を恐る恐る見上げる。
「どうしたんだい?」
アトス様は私の髪を撫でる手を止めた。
「猫の耳と尻尾、出しておいたほうがいいですか?」
切れ長の目がかすかに見開かれる。
「アイラ、なぜそんなことを聞くんだ?」
私はちょっと気まずくなって、目を逸らしながら説明した。
「アトス様、猫が好きでしょう? ちょっとでも猫っぽい方いいかなって思って……」
そう、アトス様の猫好きは伊達ではない。お屋敷のノッカーはライオンの代わりに白猫、壁を飾る絵は黒猫一家の肖像画、玄関広間にある彫刻は虎猫。大きな壺にはシャム猫の絵付けがされ、絨毯と壁紙はハチワレの白黒靴下猫だ。極めつけに寝室の枕とオフトゥンには、肉球がオシャレにアレンジされた刺繍が、所狭しと施されているレベルなのだ……!!
ちなみに、アトス様のお屋敷の使用人となる条件は、アトス様と同じレベルの猫好きであり、猫を主人とみなして下僕となれるかどうか――この一点だと最近執事から聞いている。道理で全員私にゲロ甘だったはずだわ……。
「私、人間の体だと普通ですから……そうした方がアトス様も楽しめるかなって……」
アトス様はしばしの沈黙ののち、小さく溜め息を吐いて私の頬を被った。
「アイラ、君はいい子だな。いい子過ぎて不安になる」
いい子と言うよりは自信がないだけです……。
これはきっと前世のトラウマもある。社畜になりがちなのもこの性格からだろうな。自分に価値があると思いたくて、ついできることがないかを探してしまう。
「そんなことはしなくてもいい」
アトス様は私の目元に唇を落とした。
「確かに私はどちらも好きだが、それは飽くまで君の一部だからだ。人の姿の君のままで十分だ」
「で、でも……」
まだうだうだしている私がもどかしくなったのだろうか。アトス様がいきなり私の右手首を掴む。そして、自分の左胸にぐっと押し当てたのだ。
私は信じられない思いに息を呑んだ。アトス様の心臓は驚くほど、ううん、私よりもドキドキしていたからだ。それだけではなく、人前でのクールな態度からは信じられないほど、肌は火がついたように熱くなっている。
アトス様は唇の端に笑みを浮かべた。
「これでわかってもらえただろうか? 私はどうしようもないほど興奮している。無茶苦茶にしたい思いを理性でどうにか押さえているだけだ。君に嫌われたくはないからね」
タンザナイト色の瞳の中で、恋の甘い光と欲望の激しい炎が交互に揺れる。私がその美しさに見惚れる間に、そっと私の左の膨らみに手が添えられた。やわやわと揉み込まれてつい、「んっ……」と声が出てしまう。アトス様の指は長く、手の平は大きく、優しさは猫の姿で撫でられる時と同じだった。痛くないよう、私が気持ちよくなるよう力を加減してくれている。
「君も私に興奮しているようだ。胸があっても心臓の鼓動がわかる」
指先で頂をきゅっと摘ままれると、ピンとかたく立つのが自分でも感じ取れて、恥ずかしさに口を押さえた。
「耐えることはない。感じることは恥ずかしいことではないし、この部屋には私と君しかいないのだから」
「で、でも……」
そんなことを言われても無理だ。ロストバージンの時には、再会への感動やその場の勢いもあって、恥ずかしくはあったものの、フィニッシュまで突っ走ることができた。だけど、今夜は完全にシラフでコトに及ぼうとしているのだから。
やっぱりちょっと恥ずかしいです――そう言おうとした次の瞬間のことだった。前触れもなく唇と言葉を奪われる。熱く荒い吐息を注ぎ込まれて、喉まで焼け焦げてしまいそうだった。
「んんっ……」
間から強引に入り込んできた熱い舌が、反射的に逃げようとした私のそれを絡め取る。身じろぎをしようとしたものの、二の腕を掴まれて動けない。さっきとは打って変わった力の強さだった。
どれくらいそうしていただろうか。アトス様はゆっくりと唇を離すと、「……君といると余裕がなくなるな」と苦笑した。
「下僕失格だが、許してくれ。噛み付いてくれても、引っ掻いてくれても構わないから」
そして、また唇を重ねて瞼を閉じたのだった――
今度こそすっぽんぽんになった私は、アトス様にそっとベッドに横たえられた。影の落ちたタンザナイト色の瞳にクラクラとなる。
アトス様に初めて抱かれている真っ最中に、私が猫族特有のフェロモンを出していると聞いたことがあったけれども、アトス様も絶対に何か放っているに違いない。そうでもなければ見つめられただけで、救急車を呼ぶレベルで心臓が高鳴るなんて変じゃない!?
なら、アトス様はどうなのだろうと首を傾げる。私の体を見て同じように思ってくれているのだろうか。ドキドキしていてくれれば嬉しいし、結婚した相手が私でよかったと思ってほしいな……。
「あのう……」
アトス様の目を恐る恐る見上げる。
「どうしたんだい?」
アトス様は私の髪を撫でる手を止めた。
「猫の耳と尻尾、出しておいたほうがいいですか?」
切れ長の目がかすかに見開かれる。
「アイラ、なぜそんなことを聞くんだ?」
私はちょっと気まずくなって、目を逸らしながら説明した。
「アトス様、猫が好きでしょう? ちょっとでも猫っぽい方いいかなって思って……」
そう、アトス様の猫好きは伊達ではない。お屋敷のノッカーはライオンの代わりに白猫、壁を飾る絵は黒猫一家の肖像画、玄関広間にある彫刻は虎猫。大きな壺にはシャム猫の絵付けがされ、絨毯と壁紙はハチワレの白黒靴下猫だ。極めつけに寝室の枕とオフトゥンには、肉球がオシャレにアレンジされた刺繍が、所狭しと施されているレベルなのだ……!!
ちなみに、アトス様のお屋敷の使用人となる条件は、アトス様と同じレベルの猫好きであり、猫を主人とみなして下僕となれるかどうか――この一点だと最近執事から聞いている。道理で全員私にゲロ甘だったはずだわ……。
「私、人間の体だと普通ですから……そうした方がアトス様も楽しめるかなって……」
アトス様はしばしの沈黙ののち、小さく溜め息を吐いて私の頬を被った。
「アイラ、君はいい子だな。いい子過ぎて不安になる」
いい子と言うよりは自信がないだけです……。
これはきっと前世のトラウマもある。社畜になりがちなのもこの性格からだろうな。自分に価値があると思いたくて、ついできることがないかを探してしまう。
「そんなことはしなくてもいい」
アトス様は私の目元に唇を落とした。
「確かに私はどちらも好きだが、それは飽くまで君の一部だからだ。人の姿の君のままで十分だ」
「で、でも……」
まだうだうだしている私がもどかしくなったのだろうか。アトス様がいきなり私の右手首を掴む。そして、自分の左胸にぐっと押し当てたのだ。
私は信じられない思いに息を呑んだ。アトス様の心臓は驚くほど、ううん、私よりもドキドキしていたからだ。それだけではなく、人前でのクールな態度からは信じられないほど、肌は火がついたように熱くなっている。
アトス様は唇の端に笑みを浮かべた。
「これでわかってもらえただろうか? 私はどうしようもないほど興奮している。無茶苦茶にしたい思いを理性でどうにか押さえているだけだ。君に嫌われたくはないからね」
タンザナイト色の瞳の中で、恋の甘い光と欲望の激しい炎が交互に揺れる。私がその美しさに見惚れる間に、そっと私の左の膨らみに手が添えられた。やわやわと揉み込まれてつい、「んっ……」と声が出てしまう。アトス様の指は長く、手の平は大きく、優しさは猫の姿で撫でられる時と同じだった。痛くないよう、私が気持ちよくなるよう力を加減してくれている。
「君も私に興奮しているようだ。胸があっても心臓の鼓動がわかる」
指先で頂をきゅっと摘ままれると、ピンとかたく立つのが自分でも感じ取れて、恥ずかしさに口を押さえた。
「耐えることはない。感じることは恥ずかしいことではないし、この部屋には私と君しかいないのだから」
「で、でも……」
そんなことを言われても無理だ。ロストバージンの時には、再会への感動やその場の勢いもあって、恥ずかしくはあったものの、フィニッシュまで突っ走ることができた。だけど、今夜は完全にシラフでコトに及ぼうとしているのだから。
やっぱりちょっと恥ずかしいです――そう言おうとした次の瞬間のことだった。前触れもなく唇と言葉を奪われる。熱く荒い吐息を注ぎ込まれて、喉まで焼け焦げてしまいそうだった。
「んんっ……」
間から強引に入り込んできた熱い舌が、反射的に逃げようとした私のそれを絡め取る。身じろぎをしようとしたものの、二の腕を掴まれて動けない。さっきとは打って変わった力の強さだった。
どれくらいそうしていただろうか。アトス様はゆっくりと唇を離すと、「……君といると余裕がなくなるな」と苦笑した。
「下僕失格だが、許してくれ。噛み付いてくれても、引っ掻いてくれても構わないから」
そして、また唇を重ねて瞼を閉じたのだった――
1
お気に入りに追加
1,890
あなたにおすすめの小説
【R18】翡翠の鎖
環名
ファンタジー
ここは異階。六皇家の一角――翠一族、その本流であるウィリデコルヌ家のリーファは、【翠の疫病神】という異名を持つようになった。嫁した相手が不幸に見舞われ続け、ついには命を落としたからだ。だが、その葬儀の夜、喧嘩別れしたと思っていた翠一族当主・ヴェルドライトがリーファを迎えに来た。「貴女は【幸運の運び手】だよ」と言って――…。
※R18描写あり→*
まずは抱いてください
茜菫
恋愛
政略結婚で結ばれた夫婦が初夜を迎えて関係を良好にする話。
たまにシリアスの皮を被りますが、シリアスではありません。
(2022/9/11 内容に変更ありませんが、全話改稿しました)
ムーンライトノベルズにも投稿しています。
私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。
木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアルティリアは、婚約者からある日突然婚約破棄を告げられた。
彼はアルティリアが上から目線だと批判して、自らの妻として相応しくないと判断したのだ。
それに対して不満を述べたアルティリアだったが、婚約者の意思は固かった。こうして彼女は、理不尽に婚約を破棄されてしまったのである。
そのことに関して、アルティリアは実の父親から責められることになった。
公にはなっていないが、彼女は妾の子であり、家での扱いも悪かったのだ。
そのような環境で父親から責められたアルティリアの我慢は限界であった。伯爵家に必要ない。そう言われたアルティリアは父親に告げた。
「私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。私はそれで構いません」
こうしてアルティリアは、新たなる人生を送ることになった。
彼女は伯爵家のしがらみから解放されて、自由な人生を送ることになったのである。
同時に彼女を虐げていた者達は、その報いを受けることになった。彼らはアルティリアだけではなく様々な人から恨みを買っており、その立場というものは盤石なものではなかったのだ。
今さら、私に構わないでください
ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。
彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。
愛し合う二人の前では私は悪役。
幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。
しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……?
タイトル変更しました。
腹黒伯爵の甘く淫らな策謀
茂栖 もす
恋愛
私、アスティア・オースティンは夢を見た。
幼い頃過ごした男の子───レイディックと過ごした在りし日の甘い出来事を。
けれど夢から覚めた私の眼前には、見知らぬ男性が居て───そのまま私は、純潔を奪われてしまった。
それからすぐ、私はレイディックと再会する。
美しい青年に成長したレイディックは、もう病弱だった薄幸の少年ではなかった。
『アスティア、大丈夫、僕が全部上書きしてあげる』
そう言って強姦された私に、レイディックは手を伸ばす。甘く優しいその声は、まるで媚薬のようで、私は抗うことができず…………。
※R−18部分には、♪が付きます。
※他サイトにも重複投稿しています。
乙女ゲームの悪役に転生って、冗談やめてください…!
飴之ゆう
恋愛
公爵令嬢エリューシア・イルファス
それが今の『私』だ。
『わたくし』には前世の記憶がある。日本人であるという記憶が。
ここは『私』が前世プレイしていた乙女ゲーム「アザレア~あなたに愛される幸せ~」の世界に酷似している。そして『わたくし』はアザレアの、悪役令嬢。破滅エンドしかないが運営さんのおかげ(?)でチート能力がそなわった、そんな悪役。
破滅なんていや!絶対回避してみせます!
これは破滅系チート悪役に転生してしまったとある日本人のお話。前世の記憶のために苦労するエリューシアの愛と友情の(?)物語である。
今後は不定期で更新したいと思います。2000字前後で書いてます。
小説家になろうさまにて改稿版の投稿はじめました。
1章1話から3章20話まで改行を加えるなど修正作業中です。徐々に進めるので違和感のあるところもあると思いますがご了承下さい
公爵家の隠し子だと判明した私は、いびられる所か溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
実は、公爵家の隠し子だったルネリア・ラーデインは困惑していた。
なぜなら、ラーデイン公爵家の人々から溺愛されているからである。
普通に考えて、妾の子は疎まれる存在であるはずだ。それなのに、公爵家の人々は、ルネリアを受け入れて愛してくれている。
それに、彼女は疑問符を浮かべるしかなかった。一体、どうして彼らは自分を溺愛しているのか。もしかして、何か裏があるのではないだろうか。
そう思ったルネリアは、ラーデイン公爵家の人々のことを調べることにした。そこで、彼女は衝撃の真実を知ることになる。
【R-18】踊り狂えその身朽ちるまで
あっきコタロウ
恋愛
投稿小説&漫画「そしてふたりでワルツを(http://www.alphapolis.co.jp/content/cover/630048599/)」のR-18外伝集。
連作のつもりだけどエロだから好きな所だけおつまみしてってください。
ニッチなものが含まれるのでまえがきにてシチュ明記。苦手な回は避けてどうぞ。
IF(7話)は本編からの派生。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる