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本編

*下僕失格(4)

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※ここから先はエッチなシーンになります。苦手な方は飛ばしてください。










 今度こそすっぽんぽんになった私は、アトス様にそっとベッドに横たえられた。影の落ちたタンザナイト色の瞳にクラクラとなる。

 アトス様に初めて抱かれている真っ最中に、私が猫族特有のフェロモンを出していると聞いたことがあったけれども、アトス様も絶対に何か放っているに違いない。そうでもなければ見つめられただけで、救急車を呼ぶレベルで心臓が高鳴るなんて変じゃない!? 

 なら、アトス様はどうなのだろうと首を傾げる。私の体を見て同じように思ってくれているのだろうか。ドキドキしていてくれれば嬉しいし、結婚した相手が私でよかったと思ってほしいな……。

「あのう……」

 アトス様の目を恐る恐る見上げる。

「どうしたんだい?」

 アトス様は私の髪を撫でる手を止めた。

「猫の耳と尻尾、出しておいたほうがいいですか?」

 切れ長の目がかすかに見開かれる。

「アイラ、なぜそんなことを聞くんだ?」

 私はちょっと気まずくなって、目を逸らしながら説明した。

「アトス様、猫が好きでしょう? ちょっとでも猫っぽい方いいかなって思って……」

 そう、アトス様の猫好きは伊達ではない。お屋敷のノッカーはライオンの代わりに白猫、壁を飾る絵は黒猫一家の肖像画、玄関広間にある彫刻は虎猫。大きな壺にはシャム猫の絵付けがされ、絨毯と壁紙はハチワレの白黒靴下猫だ。極めつけに寝室の枕とオフトゥンには、肉球がオシャレにアレンジされた刺繍が、所狭しと施されているレベルなのだ……!!

 ちなみに、アトス様のお屋敷の使用人となる条件は、アトス様と同じレベルの猫好きであり、猫を主人とみなして下僕となれるかどうか――この一点だと最近執事から聞いている。道理で全員私にゲロ甘だったはずだわ……。

「私、人間の体だと普通ですから……そうした方がアトス様も楽しめるかなって……」

 アトス様はしばしの沈黙ののち、小さく溜め息を吐いて私の頬を被った。

「アイラ、君はいい子だな。いい子過ぎて不安になる」

 いい子と言うよりは自信がないだけです……。

 これはきっと前世のトラウマもある。社畜になりがちなのもこの性格からだろうな。自分に価値があると思いたくて、ついできることがないかを探してしまう。

「そんなことはしなくてもいい」

 アトス様は私の目元に唇を落とした。

「確かに私はどちらも好きだが、それは飽くまで君の一部だからだ。人の姿の君のままで十分だ」

「で、でも……」

 まだうだうだしている私がもどかしくなったのだろうか。アトス様がいきなり私の右手首を掴む。そして、自分の左胸にぐっと押し当てたのだ。

 私は信じられない思いに息を呑んだ。アトス様の心臓は驚くほど、ううん、私よりもドキドキしていたからだ。それだけではなく、人前でのクールな態度からは信じられないほど、肌は火がついたように熱くなっている。

 アトス様は唇の端に笑みを浮かべた。

「これでわかってもらえただろうか? 私はどうしようもないほど興奮している。無茶苦茶にしたい思いを理性でどうにか押さえているだけだ。君に嫌われたくはないからね」

 タンザナイト色の瞳の中で、恋の甘い光と欲望の激しい炎が交互に揺れる。私がその美しさに見惚れる間に、そっと私の左の膨らみに手が添えられた。やわやわと揉み込まれてつい、「んっ……」と声が出てしまう。アトス様の指は長く、手の平は大きく、優しさは猫の姿で撫でられる時と同じだった。痛くないよう、私が気持ちよくなるよう力を加減してくれている。

「君も私に興奮しているようだ。胸があっても心臓の鼓動がわかる」

 指先で頂をきゅっと摘ままれると、ピンとかたく立つのが自分でも感じ取れて、恥ずかしさに口を押さえた。

「耐えることはない。感じることは恥ずかしいことではないし、この部屋には私と君しかいないのだから」

「で、でも……」

 そんなことを言われても無理だ。ロストバージンの時には、再会への感動やその場の勢いもあって、恥ずかしくはあったものの、フィニッシュまで突っ走ることができた。だけど、今夜は完全にシラフでコトに及ぼうとしているのだから。

 やっぱりちょっと恥ずかしいです――そう言おうとした次の瞬間のことだった。前触れもなく唇と言葉を奪われる。熱く荒い吐息を注ぎ込まれて、喉まで焼け焦げてしまいそうだった。

「んんっ……」

 間から強引に入り込んできた熱い舌が、反射的に逃げようとした私のそれを絡め取る。身じろぎをしようとしたものの、二の腕を掴まれて動けない。さっきとは打って変わった力の強さだった。

 どれくらいそうしていただろうか。アトス様はゆっくりと唇を離すと、「……君といると余裕がなくなるな」と苦笑した。

「下僕失格だが、許してくれ。噛み付いてくれても、引っ掻いてくれても構わないから」

 そして、また唇を重ねて瞼を閉じたのだった――
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