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本編
下僕失格(3)
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そして、お母さんから届いたと言う手紙を、すぐに読ませてくれたのだそうだ。
『クラウス様
お久しぶりでございます。私、ミルヤを覚えているでしょうか。その節はお世話になりました。
ヴァルトの亡くなったあの事故の直後、行方をくらまし申し訳ございませんでした。わけは説明しかねますが、そうするしかなかったとだけお伝えいたします。
とは言っても、陛下からすでに事情をお聞きしているのなら、今回の手紙ですべてを理解されるかもしれませんね。それでも、あくまでその件については、ご存知ないと仮定してお願いします。
私にはアトスという息子がおります。もちろんヴァルトの子です。今年十二歳になりました。
初めは父親について教える気はありませんでした。平凡でも穏やかな生涯を送れればと思っておりました。
アトスは六歳までは私の血を濃く引いているように思われました。あの頃のアトスはそれは可愛かったものです。毎日撫で倒しておりました。そして、アトスが息子でよかったと溜め息を吐いたものです。
ところが、アトスの魔力は成長するごとに増大し、十二歳ごろには私の血は掻き消えたのかと思うほど、ヴァルトにそっくりになっていきました。
私は魔術師ではございませんから、この子の才能を伸ばす術を知りません。また、これはアトスを産んでからずっとなのですが、体調が不安定で、近頃は自分の能力も持て余し気味です。これでは私はアトスを育てるどころか、重荷となってしまうでしょう。
クラウス様、どうぞアトスを立派な魔術師にしていただけませんか。養育費として、これまで貯めたお金を同封します。
また、私はこれから姿を消しますが、どうか探さないでください。そして、アトスにもこの手紙を読ませていただければと思います。
息子にも書き置きをしたかったのですが、私はもうペンを握ることが難しくなっているのです。
アトス、急にいなくなってごめんね。母さんはいつもお前を見守っているからね。
ミルヤより』
私は話を聞いてウ~ニャと唸った。
なんとも謎の多い手紙だ。お母さんはなぜ隠れてアトス様を育てていたのか。なぜ女の子でなくてよかったと思ったのか。なぜアトスを残して失踪したのか。
おまけに陛下も関わっていたみたいだ。ヴァルトの死の前後に何があったのだろう。
アトス様は私の耳いじりながら語り続ける。
「父がヴァルトと知って驚くのと同時に、もちろん、私も恐らく君と同じ疑問を持ちました」
昔何があったのかと何度も総帥を問い詰めたけれども、総帥はまだ言えないと答えるばかりだった。陛下も気まずそうに話を逸らすのだそうだ。
「しかし、その件について以外は、陛下も養父もこの十二年、私に大変よくしてくださった。だから、手紙の内容はもう忘れてしまおうと思っていた」
アトス様は私を膝の上でひょいとひっくり返すと、喉、首を揉んで摘んで、お腹をやわやわとマッサージしてくれた。
あ、そこ、そこぉ……。アトス様ってゴッドハンドの持ち主だわ……。いつもこの手で天国に行っちゃうんだわ……。気持ちよすぎて液体になっちゃうんだわ……。
アトス様は蕩ける私を見下ろしながら、小さな溜め息を吐いてこう呟いた。
「ところが、君との結婚が決まってから、式が終わり次第すべてを話したいと、先日養父が頭を下げてきた。昔、父と母と陛下と養父に何があったと言うのか」
う~む、どれだけ脳みそをフル稼働してもわからない。
私が一番気になる謎は、お母さんがなぜ突然いなくなり、どこに行ったのかということだ。だって、いくら子どもがある程度大きくなって、託せる人がいても、私だったら置いていくだなんて有り得ない。
ペンを握るのが難しいと書かれていたそうだから、病気の療養に行ったのかとも思ったけれども、なら探さないでくださいなんて言うのはおかしい。居場所を教えておいた方がアトス様だって安心するのだから。
私はそこではっとして目を見開いた。
誰かを探しに行ったんじゃない? 子どものアトス様と同じくらい大切な人、決して放っておけない人だ。例えば旦那様や恋人とかーー
心臓が大きく鳴って早鐘を打ち始める。
魔術師ヴァルトは二十五年前、山火事に巻き込まれて死んだと聞いている。だけど、遺体は見つかっていないはずだ。多分燃え尽きたと言うことだったけれども、そもそもまだ生きていたのだとしたら? お母さんが手がかりになるものを見付けていたのだとしたら?
いや、そんなはずが、でもあり得なくはないと頭がぐるぐるとなる。しかし、猫の頭ではそこが限界だったのだろう。一本しかない思考回路がついにショートしてしまった。
すっかり疲れてアトス様に身を委ねる。どちらにしろ結婚式が終わったら、総帥が昔何があったか打ち明けてくれるそうだから、それを待ったほうがいいだろう。
アトス様も同じように考えているのか、手紙についてはもう話さなかった。ふと唇の端に笑みを浮かべて私を見下ろす。タンザナイト色の瞳には甘い光が浮かんでいた。
「この話は終わりにしましょう。ちょうど月も隠れたことだ。そろそろ人の姿に戻ってくれませんか」
月が隠れたらなぜそうなるのだろう?
私はハテナと首を傾げつつも、アトス様の膝の上で一回転。たちまち体が大きくなる。
ちなみに、前みたいなスッポンポンではない。目の色と同じエメラルドグリーンのワンピースを着ている。アトス様が人間に戻った時には服になるよう、あのリボンを改造してくれたのだ。
やっぱり魔術って便利だわ。
アトス様は感心する私を膝の上に載せると、頬にキスをし、続いて耳を軽く齧ってきた。
「ひゃんっ!」
体がびくりと震えておかしな声が上がる。
「君の体は人間になっても素直ですね」
更に今度は背に手が回され、ワンピースの後ろのボタンを、素早く外されてしまった。
「あ、アトス様……っ」
エッチは久しぶりなので、長い指に肌をなぞられて焦る。
「私、まだお風呂に入ってなくて……」
「構いません」
直後、下着ごと服を一気にずり下げられ、熱い唇が剥き出しになった肩に押し当てられた。
「私は嫉妬深い男ですからね。君の体は月にも見られたくはないから」
私はここでようやく「月が隠れたから」の意味を理解したのだった……。
『クラウス様
お久しぶりでございます。私、ミルヤを覚えているでしょうか。その節はお世話になりました。
ヴァルトの亡くなったあの事故の直後、行方をくらまし申し訳ございませんでした。わけは説明しかねますが、そうするしかなかったとだけお伝えいたします。
とは言っても、陛下からすでに事情をお聞きしているのなら、今回の手紙ですべてを理解されるかもしれませんね。それでも、あくまでその件については、ご存知ないと仮定してお願いします。
私にはアトスという息子がおります。もちろんヴァルトの子です。今年十二歳になりました。
初めは父親について教える気はありませんでした。平凡でも穏やかな生涯を送れればと思っておりました。
アトスは六歳までは私の血を濃く引いているように思われました。あの頃のアトスはそれは可愛かったものです。毎日撫で倒しておりました。そして、アトスが息子でよかったと溜め息を吐いたものです。
ところが、アトスの魔力は成長するごとに増大し、十二歳ごろには私の血は掻き消えたのかと思うほど、ヴァルトにそっくりになっていきました。
私は魔術師ではございませんから、この子の才能を伸ばす術を知りません。また、これはアトスを産んでからずっとなのですが、体調が不安定で、近頃は自分の能力も持て余し気味です。これでは私はアトスを育てるどころか、重荷となってしまうでしょう。
クラウス様、どうぞアトスを立派な魔術師にしていただけませんか。養育費として、これまで貯めたお金を同封します。
また、私はこれから姿を消しますが、どうか探さないでください。そして、アトスにもこの手紙を読ませていただければと思います。
息子にも書き置きをしたかったのですが、私はもうペンを握ることが難しくなっているのです。
アトス、急にいなくなってごめんね。母さんはいつもお前を見守っているからね。
ミルヤより』
私は話を聞いてウ~ニャと唸った。
なんとも謎の多い手紙だ。お母さんはなぜ隠れてアトス様を育てていたのか。なぜ女の子でなくてよかったと思ったのか。なぜアトスを残して失踪したのか。
おまけに陛下も関わっていたみたいだ。ヴァルトの死の前後に何があったのだろう。
アトス様は私の耳いじりながら語り続ける。
「父がヴァルトと知って驚くのと同時に、もちろん、私も恐らく君と同じ疑問を持ちました」
昔何があったのかと何度も総帥を問い詰めたけれども、総帥はまだ言えないと答えるばかりだった。陛下も気まずそうに話を逸らすのだそうだ。
「しかし、その件について以外は、陛下も養父もこの十二年、私に大変よくしてくださった。だから、手紙の内容はもう忘れてしまおうと思っていた」
アトス様は私を膝の上でひょいとひっくり返すと、喉、首を揉んで摘んで、お腹をやわやわとマッサージしてくれた。
あ、そこ、そこぉ……。アトス様ってゴッドハンドの持ち主だわ……。いつもこの手で天国に行っちゃうんだわ……。気持ちよすぎて液体になっちゃうんだわ……。
アトス様は蕩ける私を見下ろしながら、小さな溜め息を吐いてこう呟いた。
「ところが、君との結婚が決まってから、式が終わり次第すべてを話したいと、先日養父が頭を下げてきた。昔、父と母と陛下と養父に何があったと言うのか」
う~む、どれだけ脳みそをフル稼働してもわからない。
私が一番気になる謎は、お母さんがなぜ突然いなくなり、どこに行ったのかということだ。だって、いくら子どもがある程度大きくなって、託せる人がいても、私だったら置いていくだなんて有り得ない。
ペンを握るのが難しいと書かれていたそうだから、病気の療養に行ったのかとも思ったけれども、なら探さないでくださいなんて言うのはおかしい。居場所を教えておいた方がアトス様だって安心するのだから。
私はそこではっとして目を見開いた。
誰かを探しに行ったんじゃない? 子どものアトス様と同じくらい大切な人、決して放っておけない人だ。例えば旦那様や恋人とかーー
心臓が大きく鳴って早鐘を打ち始める。
魔術師ヴァルトは二十五年前、山火事に巻き込まれて死んだと聞いている。だけど、遺体は見つかっていないはずだ。多分燃え尽きたと言うことだったけれども、そもそもまだ生きていたのだとしたら? お母さんが手がかりになるものを見付けていたのだとしたら?
いや、そんなはずが、でもあり得なくはないと頭がぐるぐるとなる。しかし、猫の頭ではそこが限界だったのだろう。一本しかない思考回路がついにショートしてしまった。
すっかり疲れてアトス様に身を委ねる。どちらにしろ結婚式が終わったら、総帥が昔何があったか打ち明けてくれるそうだから、それを待ったほうがいいだろう。
アトス様も同じように考えているのか、手紙についてはもう話さなかった。ふと唇の端に笑みを浮かべて私を見下ろす。タンザナイト色の瞳には甘い光が浮かんでいた。
「この話は終わりにしましょう。ちょうど月も隠れたことだ。そろそろ人の姿に戻ってくれませんか」
月が隠れたらなぜそうなるのだろう?
私はハテナと首を傾げつつも、アトス様の膝の上で一回転。たちまち体が大きくなる。
ちなみに、前みたいなスッポンポンではない。目の色と同じエメラルドグリーンのワンピースを着ている。アトス様が人間に戻った時には服になるよう、あのリボンを改造してくれたのだ。
やっぱり魔術って便利だわ。
アトス様は感心する私を膝の上に載せると、頬にキスをし、続いて耳を軽く齧ってきた。
「ひゃんっ!」
体がびくりと震えておかしな声が上がる。
「君の体は人間になっても素直ですね」
更に今度は背に手が回され、ワンピースの後ろのボタンを、素早く外されてしまった。
「あ、アトス様……っ」
エッチは久しぶりなので、長い指に肌をなぞられて焦る。
「私、まだお風呂に入ってなくて……」
「構いません」
直後、下着ごと服を一気にずり下げられ、熱い唇が剥き出しになった肩に押し当てられた。
「私は嫉妬深い男ですからね。君の体は月にも見られたくはないから」
私はここでようやく「月が隠れたから」の意味を理解したのだった……。
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