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本編

※飼い主はあなたです(5)

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 アトス様の脱衣術はもはや芸術で、一体いつ、どこで練習したのかと説明を求めたいほど、器用に、素早く、リズムすら感じさせて、次はシャツのボタンを片手で外していった。

 着痩せするスタイルらしく、現れた広い肩幅と筋肉のついた胸、引き締まったお腹に目を瞬かせる。生身の男の人の体なんて初めて見たからだ。

 正確にはお父さんと弟たちの裸は、水浴びやお風呂で見たことがある。でも、お父さんは猫族がご先祖にいるからか、モフモフというより胸毛、腕毛、背中、下半身に至るまで毛むくじゃらで、筋肉も埋もれてしまってよく見えない。弟たちについてはまだほんの子どもだから、体もアレも全部ちっちゃくて可愛いものだった。

 だけど、アトス様の体は紛れもない、一人の男性を感じさせるものだった。立体感があって、生々しく、なのに綺麗だ。

 そのエロさに見ていられずに目を逸らす。ところが、すぐにまた伸し掛かられ、頬を掴まれ目を覗き込まれた。

「アイラ、どうして私を見ない?」

「ど、どうしてって……」

 切れ長の目がすぐそばどころか、睫毛の触れる距離にあって、嫌でもそのタンザナイトの瞳を見つめてしまう。この青紫には嘘を吐くことも、誤魔化すこともできない。私は観念して理由を打ち明けた。

「そ、その、男の人の裸見るの初めてなんです」

 それどころか、恋愛なんてものに縁がなかったから……。

 すると、アトス様はくすくすと笑って私の頬にキスをした。

「君は猫の時いつも裸なのに、そちらは恥ずかしくないのかい?」

 指摘されてはっとする。
 
 い、言われてみればそうだった……! 猫バージョンの私はいくら毛が生えているとは言え、堂々とストリートキングしているのに等しい。獣の猫はどうして恥ずかしくないんだろうか!? 

 それ以前に、アトス様に体を晒していたのだと、かっと頬が熱くなるのと感じた。自分からチューした時は平気だったのに!

 だって、私の体はスタイル抜群というわけじゃない。胸とウエストは一応あるけれど、お尻は大きい方だし足も長いわけじゃない。つまり純日本猫(!?)体型ってことなのよ……。

「ご、ごめんにゃさい……」

 謝る私にアトス様が首を傾げた。

「どうして謝るんだい」

「も、もっと足腰がすらっとしてて、こんな安産体型じゃないとよかったんですけど……」

 自分がエッチする日が来るなんて思わなかったから……! ひたすら働いてそれで終わるものかと思っていたんだにゃ! 

 アトス様は驚いたように目を見開いたけど、すぐにくすくすと笑って私の後頭部に手を回した。

「君は本当に人でも猫でも可愛いな。うん、可愛い」

か、可愛い!?  可愛いって言ったね!? 二度も言った!! お父さんにも言われたことないのに!!!

 ああ、もう死んでもいいかもしれない。好きな人から褒められるなんて、来世も来来世もありえないんじゃないかしら。

「もう、思い残すことはないですぅ……」

 感極まって鼻をすする私の目を長い指が拭う。

「何を言っているんだ。これから思い残すものを作るんだろう」

 私はきょとんとアトス様を見つめた。

「お、おもいのこすもの?」

「嬉しいこと、楽しいこと、それから」

 そのタイミングで耳を齧られ、つい「にゃんっ」と声を上げてしまう。でも、アビシニアンもどきの時みたいに嫌じゃない。

「気持ちいいことだ。アイラ、愛しているよ」

 首筋に顔を埋められて、心臓のドキドキが止まらない。右胸に触れられた時には、一瞬破裂するかと思った。長い指と大きな手の平、何よりも体温がリアルでたまらない。

「んっ……」

 猫耳と尻尾がピクンと反応した。ゆっくりと優しく揉まれたからだ。かと思うと、下から持ち上げるようにされる。続いて右の胸に口づけられ、肌を吸われた時には、「んっ」と瞼をかたく閉じてしまった。そのまま何度かピリリと痛みを感じて、恐る恐る瞼を開けると、肌に赤い印がつけられていた。

 アトス様が薄い唇の端に笑みを浮かべる。

「君は、いつ、どこにいくかわからないから、首輪だけでは不安でたまらないんだ。だから、マーキングさせてもらったよ。当分は消えないだろうね」

「そ、そんな……」

 これでは人前では服は脱げなくなる。何をされたかすぐにバレてしまうだろう。触れられたことで湯だった頭でもわかる。アトス様は今度は左胸に唇を付けた。まだキスマークを付けるつもりらしい。

「あ、アトス様、いけませんっ。も、もし誰かに見られたら……」

 アトス様の二の腕を掴んで訴えたものの、その美貌は涼しい表情のままだった。

「アイラ、何も心配することはない。君がこれから服を脱ぐのは私の前だけだ」

 えっ。

「これからは君の入浴の時も、着替えの時も、抱き合う時も、すべて私が服を脱がせる。何せ私は君の下僕だからね」

 ええーっ!? 下僕ってそういう意味なんですか!?――と突っ込む間もなく、胸の谷間に顔を埋められる。

 キスマークを舌で丹念に辿られ、胸の頂を唇に飲み込まれると、頭も体もまたカッと熱くなって、次第に何も考えられなくなっていった。
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