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第三章「侍女ですが、○○○に昇格しました。」

(30)☆

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☆☆☆

 ソランジュはその夜ナタンが密かに押さえてくれた、一般人向けの宿屋でアルフレッドが戻るのを待った。

「決着を付けてくる」――そう告げてソランジュをここに置いたきり、もう何時間が過ぎただろうか。

 待ち兼ねて窓辺に手をついて外を眺めていると、気が付くとラビアン山脈全体が茜色に染まり、音もなく峰と峰の間に日が落ちていった。

 日中は住人たちのパレードであれほど賑やかだったのに、夜の今は嘘のようにひっそりと静まり返っている。

 代わって、澄み渡った夜の空には無数の星々が煌めいていた。強く光るものもあれば、控えめなものも、白いものも、赤みを帯びたものも、孤独に輝くものも、星雲となっているものもある。

 一方、満月は今夜だけは主役の座を譲るとでもいうかのように、片隅でひっそりと静かに青白い光を放っていた。

 ふと、幼い頃在りし日の母が寝しなに語ってくれたお伽噺を思い出す。

『人は死ぬと天に昇って星になるの。そうしてずっと私たちを見守ってくれるのよ』

 死者が死の間際に放った最後の思いが、光となって星は輝いているのだろか。

 父と母の星はどれだろうかと満天の夜空を探す。

 南で寄り添い合っているあの二つの星だろうか。せめて天では再び結ばれ、幸福であってほしかった。

 星の瞬きに目を凝らす間に、背後の扉がカタンと音を立てる。

 振り返ると鎧と鎖帷子を外し、シャツとズボン、軍靴の軽装のアルフレッドが足を踏み入れていた。

「……っ」

 思わず息を呑む。

 東門前で助けられ、この宿屋に連れて来られるまでは、非常事態の連続で再会を喜ぶ余裕などなかった。

 改めて今無事にまた会えたのだと実感し、引き離される苦痛が転じての歓喜、衝撃と感動で胸が一杯になり、その場で立ち尽くして動けなくなってしまう。

「待たせたな」

 アルフレッドが目の前に立つ。

 長い黄金の巻き毛を掻き分け、骨張った大きな手で頬を覆われ上向かされる。

 何よりも愛する黒い瞳がすぐそばにあった。

 どちらからともなく声もなく抱き合う。

 逞しい胸に顔を埋めると力強く脈打つ心臓の鼓動の音が聞こえた。

 アルフレッドもソランジュの存在を確かめるように、髪に頬を埋め、背に手を回してぐっと、息もできないほど深く抱き締めた。

 再び名を呼ばれた気がして顔を上げる。

 アルフレッドの目に映る、星の煌めきに目を奪われる間に、唇をそっと重ねられる。そよ風のような優しい口付けだった。

「ん……」

 口付けは次第に深くなり、やがて唇を割られ舌を絡め取られる。

「ん……ふ」

 アルフレッドは時折目元や頬に場所を変えて、何度も口付けを繰り返した。

 黒い瞳と黄金色の瞳が見つめ合う。

 互いにただ愛する人の温もりを確かめたかった。

 横抱きにされ簡素なベッドに横たえられると、髪がシーツに擦れる音が聞こえる。

 まだその音が耳に残るうちに、そっと頬に唇を押し当てられた。

「ソランジュ」

 ただ名を呼ばれているだけなのに、もう身も心も熱で蕩けてしまう。

 寝間着と肌の間に長い指が滑り込んできて、やわやわと乳房を揉み込まれる、はあっと熱い息が喉の奥から押し出された。

「あ……ン」

 弾力のある乳房がアルフレッドの思うままに形を変える。

「んあぁ……」

 時折ピンと立った薄紅色の先端を広い手の平で擦られると、つい身を捩らせ、シーツを握り締めてしまった。

 ソランジュの快感を感じ取ったのか、アルフレッドが寝間着を剥ぎ取り、今度は肌に唇を這わせる。

 時折強く吸われ、赤い痕が白い肌に散るたびに、耐え切れずにアルフレッドの頭を抱き締める。夜風に冷やされた黒髪の感触と、これから始まる官能の一夜にぶるりと身を震わせた。

 頂に吸い付かれ、強弱を変え、緩急を付けて吸われるごとに背筋から首筋に掛けて電流が走る。

「あ……あっ……」

 歯で軽く囓られると視界に一つ、二つ火花が散った。

「あんっ」

 背を仰け反らせ、快感を逃そうとしたのだが、離すまいとするかのようにぐっと腰を抱き寄せられる。

「……っ」

 脚の間の柔らかな白い肉を割って無骨な手が押し入ってくる。

「あっ……」

 すでに蜜で濡れたそこに剣でかたくなった指が触れる。つぅと爪先でなぞられただけで体がビクリと跳ねた。

 閉じていた媚肉を指先でくちゅりと開かれたかと思うと、指の一本が内壁を弄るようにして中に入り込んでくる。

「あ……あっ」

 慣れぬ感触に反射的に腰が浮いたのだが、すぐに手首をシーツに縫い留められ、腰を押さえ付けられてしまった。

「あ、るふれっど……さ……」

 名を呼ぼうとして唇を奪われる。

「ん……んっ……」

 アルフレッドは桜桃を思わせるソランジュの唇を食み、舌先で輪郭をなぞり、最後に深く口付けた。
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