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第三章「侍女ですが、○○○に昇格しました。」
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☆☆☆
ソランジュはその夜ナタンが密かに押さえてくれた、一般人向けの宿屋でアルフレッドが戻るのを待った。
「決着を付けてくる」――そう告げてソランジュをここに置いたきり、もう何時間が過ぎただろうか。
待ち兼ねて窓辺に手をついて外を眺めていると、気が付くとラビアン山脈全体が茜色に染まり、音もなく峰と峰の間に日が落ちていった。
日中は住人たちのパレードであれほど賑やかだったのに、夜の今は嘘のようにひっそりと静まり返っている。
代わって、澄み渡った夜の空には無数の星々が煌めいていた。強く光るものもあれば、控えめなものも、白いものも、赤みを帯びたものも、孤独に輝くものも、星雲となっているものもある。
一方、満月は今夜だけは主役の座を譲るとでもいうかのように、片隅でひっそりと静かに青白い光を放っていた。
ふと、幼い頃在りし日の母が寝しなに語ってくれたお伽噺を思い出す。
『人は死ぬと天に昇って星になるの。そうしてずっと私たちを見守ってくれるのよ』
死者が死の間際に放った最後の思いが、光となって星は輝いているのだろか。
父と母の星はどれだろうかと満天の夜空を探す。
南で寄り添い合っているあの二つの星だろうか。せめて天では再び結ばれ、幸福であってほしかった。
星の瞬きに目を凝らす間に、背後の扉がカタンと音を立てる。
振り返ると鎧と鎖帷子を外し、シャツとズボン、軍靴の軽装のアルフレッドが足を踏み入れていた。
「……っ」
思わず息を呑む。
東門前で助けられ、この宿屋に連れて来られるまでは、非常事態の連続で再会を喜ぶ余裕などなかった。
改めて今無事にまた会えたのだと実感し、引き離される苦痛が転じての歓喜、衝撃と感動で胸が一杯になり、その場で立ち尽くして動けなくなってしまう。
「待たせたな」
アルフレッドが目の前に立つ。
長い黄金の巻き毛を掻き分け、骨張った大きな手で頬を覆われ上向かされる。
何よりも愛する黒い瞳がすぐそばにあった。
どちらからともなく声もなく抱き合う。
逞しい胸に顔を埋めると力強く脈打つ心臓の鼓動の音が聞こえた。
アルフレッドもソランジュの存在を確かめるように、髪に頬を埋め、背に手を回してぐっと、息もできないほど深く抱き締めた。
再び名を呼ばれた気がして顔を上げる。
アルフレッドの目に映る、星の煌めきに目を奪われる間に、唇をそっと重ねられる。そよ風のような優しい口付けだった。
「ん……」
口付けは次第に深くなり、やがて唇を割られ舌を絡め取られる。
「ん……ふ」
アルフレッドは時折目元や頬に場所を変えて、何度も口付けを繰り返した。
黒い瞳と黄金色の瞳が見つめ合う。
互いにただ愛する人の温もりを確かめたかった。
横抱きにされ簡素なベッドに横たえられると、髪がシーツに擦れる音が聞こえる。
まだその音が耳に残るうちに、そっと頬に唇を押し当てられた。
「ソランジュ」
ただ名を呼ばれているだけなのに、もう身も心も熱で蕩けてしまう。
寝間着と肌の間に長い指が滑り込んできて、やわやわと乳房を揉み込まれる、はあっと熱い息が喉の奥から押し出された。
「あ……ン」
弾力のある乳房がアルフレッドの思うままに形を変える。
「んあぁ……」
時折ピンと立った薄紅色の先端を広い手の平で擦られると、つい身を捩らせ、シーツを握り締めてしまった。
ソランジュの快感を感じ取ったのか、アルフレッドが寝間着を剥ぎ取り、今度は肌に唇を這わせる。
時折強く吸われ、赤い痕が白い肌に散るたびに、耐え切れずにアルフレッドの頭を抱き締める。夜風に冷やされた黒髪の感触と、これから始まる官能の一夜にぶるりと身を震わせた。
頂に吸い付かれ、強弱を変え、緩急を付けて吸われるごとに背筋から首筋に掛けて電流が走る。
「あ……あっ……」
歯で軽く囓られると視界に一つ、二つ火花が散った。
「あんっ」
背を仰け反らせ、快感を逃そうとしたのだが、離すまいとするかのようにぐっと腰を抱き寄せられる。
「……っ」
脚の間の柔らかな白い肉を割って無骨な手が押し入ってくる。
「あっ……」
すでに蜜で濡れたそこに剣でかたくなった指が触れる。つぅと爪先でなぞられただけで体がビクリと跳ねた。
閉じていた媚肉を指先でくちゅりと開かれたかと思うと、指の一本が内壁を弄るようにして中に入り込んでくる。
「あ……あっ」
慣れぬ感触に反射的に腰が浮いたのだが、すぐに手首をシーツに縫い留められ、腰を押さえ付けられてしまった。
「あ、るふれっど……さ……」
名を呼ぼうとして唇を奪われる。
「ん……んっ……」
アルフレッドは桜桃を思わせるソランジュの唇を食み、舌先で輪郭をなぞり、最後に深く口付けた。
ソランジュはその夜ナタンが密かに押さえてくれた、一般人向けの宿屋でアルフレッドが戻るのを待った。
「決着を付けてくる」――そう告げてソランジュをここに置いたきり、もう何時間が過ぎただろうか。
待ち兼ねて窓辺に手をついて外を眺めていると、気が付くとラビアン山脈全体が茜色に染まり、音もなく峰と峰の間に日が落ちていった。
日中は住人たちのパレードであれほど賑やかだったのに、夜の今は嘘のようにひっそりと静まり返っている。
代わって、澄み渡った夜の空には無数の星々が煌めいていた。強く光るものもあれば、控えめなものも、白いものも、赤みを帯びたものも、孤独に輝くものも、星雲となっているものもある。
一方、満月は今夜だけは主役の座を譲るとでもいうかのように、片隅でひっそりと静かに青白い光を放っていた。
ふと、幼い頃在りし日の母が寝しなに語ってくれたお伽噺を思い出す。
『人は死ぬと天に昇って星になるの。そうしてずっと私たちを見守ってくれるのよ』
死者が死の間際に放った最後の思いが、光となって星は輝いているのだろか。
父と母の星はどれだろうかと満天の夜空を探す。
南で寄り添い合っているあの二つの星だろうか。せめて天では再び結ばれ、幸福であってほしかった。
星の瞬きに目を凝らす間に、背後の扉がカタンと音を立てる。
振り返ると鎧と鎖帷子を外し、シャツとズボン、軍靴の軽装のアルフレッドが足を踏み入れていた。
「……っ」
思わず息を呑む。
東門前で助けられ、この宿屋に連れて来られるまでは、非常事態の連続で再会を喜ぶ余裕などなかった。
改めて今無事にまた会えたのだと実感し、引き離される苦痛が転じての歓喜、衝撃と感動で胸が一杯になり、その場で立ち尽くして動けなくなってしまう。
「待たせたな」
アルフレッドが目の前に立つ。
長い黄金の巻き毛を掻き分け、骨張った大きな手で頬を覆われ上向かされる。
何よりも愛する黒い瞳がすぐそばにあった。
どちらからともなく声もなく抱き合う。
逞しい胸に顔を埋めると力強く脈打つ心臓の鼓動の音が聞こえた。
アルフレッドもソランジュの存在を確かめるように、髪に頬を埋め、背に手を回してぐっと、息もできないほど深く抱き締めた。
再び名を呼ばれた気がして顔を上げる。
アルフレッドの目に映る、星の煌めきに目を奪われる間に、唇をそっと重ねられる。そよ風のような優しい口付けだった。
「ん……」
口付けは次第に深くなり、やがて唇を割られ舌を絡め取られる。
「ん……ふ」
アルフレッドは時折目元や頬に場所を変えて、何度も口付けを繰り返した。
黒い瞳と黄金色の瞳が見つめ合う。
互いにただ愛する人の温もりを確かめたかった。
横抱きにされ簡素なベッドに横たえられると、髪がシーツに擦れる音が聞こえる。
まだその音が耳に残るうちに、そっと頬に唇を押し当てられた。
「ソランジュ」
ただ名を呼ばれているだけなのに、もう身も心も熱で蕩けてしまう。
寝間着と肌の間に長い指が滑り込んできて、やわやわと乳房を揉み込まれる、はあっと熱い息が喉の奥から押し出された。
「あ……ン」
弾力のある乳房がアルフレッドの思うままに形を変える。
「んあぁ……」
時折ピンと立った薄紅色の先端を広い手の平で擦られると、つい身を捩らせ、シーツを握り締めてしまった。
ソランジュの快感を感じ取ったのか、アルフレッドが寝間着を剥ぎ取り、今度は肌に唇を這わせる。
時折強く吸われ、赤い痕が白い肌に散るたびに、耐え切れずにアルフレッドの頭を抱き締める。夜風に冷やされた黒髪の感触と、これから始まる官能の一夜にぶるりと身を震わせた。
頂に吸い付かれ、強弱を変え、緩急を付けて吸われるごとに背筋から首筋に掛けて電流が走る。
「あ……あっ……」
歯で軽く囓られると視界に一つ、二つ火花が散った。
「あんっ」
背を仰け反らせ、快感を逃そうとしたのだが、離すまいとするかのようにぐっと腰を抱き寄せられる。
「……っ」
脚の間の柔らかな白い肉を割って無骨な手が押し入ってくる。
「あっ……」
すでに蜜で濡れたそこに剣でかたくなった指が触れる。つぅと爪先でなぞられただけで体がビクリと跳ねた。
閉じていた媚肉を指先でくちゅりと開かれたかと思うと、指の一本が内壁を弄るようにして中に入り込んでくる。
「あ……あっ」
慣れぬ感触に反射的に腰が浮いたのだが、すぐに手首をシーツに縫い留められ、腰を押さえ付けられてしまった。
「あ、るふれっど……さ……」
名を呼ぼうとして唇を奪われる。
「ん……んっ……」
アルフレッドは桜桃を思わせるソランジュの唇を食み、舌先で輪郭をなぞり、最後に深く口付けた。
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