15 / 47
身も心も縛られて(6)
しおりを挟む
その夜は薫と体を重ねるようになってから、初めて訪れた穏やかで静かな一時となった。
窓の外では雪が音もなく降り続けている。明日にはこの古い街は一面に白く染まるのだそうだ。真琴は雪景色を実際に見たことはなかったが、穢れや心の闇を払うかのような、清らかな色をしているのだろうと思えた。
「……なんだか寒いね」
ベッドの中で真琴がぽつりとそう呟くと、薫は腕を伸ばして真琴を抱き寄せ、包み込むように胸の中に抱き締めた。
薫の一際高い体温を肌で感じ、パジャマ越しの規則正しく力強い、命の音を瞼を閉じて耳で聞く。
泣きも抗いもしない真琴が不思議だったのだろうか。薫は鳶色の髪を愛おしそうに撫で、口付けを繰り返しながら耳元に囁いた。
「……今夜は触っても嫌がらないんだな」
「……」
それからどれだけの時が過ぎたのだろうか。真琴は「ねえ、薫」と義弟の名前を呼んだ。
「薫は、私が薫を好きじゃなくてもいいの……?」
いいや、それは違うと思う。好きであるのには違いない。世界で一番大切な存在なのだから。だが、その「好き」は恋ではない。
薫は真琴を抱く腕にぐっと力を込め、「構わない」となんの迷いもなく言い切った。
「無理だってわかっているから。だったら、そんなもの初めから求めない」
「薫……」
「だけど、俺は真琴が好きだから」
だから、犯して脅して自分のものにした。それ以外の選択肢はなかったと語った。
「……恋人じゃなきゃ駄目だったの? 家族じゃいけなかった?」
「家族は、いつか別れることになる。それに、真琴が他の男と結婚したら……そいつの子どもが生まれでもしたら、真琴の心から俺は消える」
忘れられるなど許せないし、受け入れられるはずもない。自分にとっても真琴にとっても、互いだけが唯一でありたかった。
恨まれてでも、憎まれてでも、恐れられてでも、これまでの関係を破壊してでも、真琴の体と心におのれを刻み付け、生涯癒えない傷跡にしたかったのだと薫は打ち明ける。
確かに、真琴の心身は傷付いた。傷の深さのあまりに痕になるどころか、今でもズキズキと痛み、絶えず血を流し続けている。悪夢となった卒業式のあの夜と、薫への恐怖を忘れられる日は、もう一生来ないだろう。
「薫を忘れるだなんてないよ……」
「それでも、許せない。……俺以外の誰も見てほしくないんだ」
可能なら鎖で手足を拘束し、檻に閉じ込めてしまいたい。薫は最後に苦しげにこう呟いた。
「……愛しているんだ」
自分以外の何者かが真琴の心を占めるのが許せない。我慢できない。もしそうなってしまえば、息をすることすら苦しくなる。死んでしまう。
「真琴、愛してる」
「薫……」
薫の愛は真琴には理解できなかった。だが、恐ろしかった薫を哀れだと感じていた。
薫は奪うような愛し方しかできないのだ。なぜそうなってしまったのかはわからないが、本人にもどうしようもない激情なのだろう。
そして、真琴は薫を見捨てるのか、みずからの幸福を取るのかと問われれば、薫を選ぶようにしか愛せなかった。
「真琴」
薫が目を覗き込み、なんの気紛れなのか、真琴の意志を問う。
「……抱いてもいいか?」
黒い瞳には拒絶されることへの恐れが見え隠れしていた。真琴は、ああ、薫も怖かったのだとようやく悟った。だから、「真琴が欲しい」と懇願された時、瞼を閉じて「……うん、いいよ」と応えたのだ。
薫の言う通り、どれだけひどい仕打ちをされてもこの手を拒めない。求められれば身を委ねる以外の選択肢はない。
パジャマのボタンが一つ一つ外され、下着は取り払われてベッドの下に捨てられ、対の豊かな乳房がふるりとまろび出る。何度となく薫に揉みしだかれ、吸われたことで、その頂は触れられるだけでピンと立ち、肌は熱を持つように作り変えられていた。
薫も服を脱ぎ再び真琴に伸し掛かる。
「真琴、好きだ」
節張った大きな二つの手が、真琴の更なる官能を引き出そうと、柔らかな曲線を描く全身を這い回る。熱い唇が顔に、首に、胸に、腹にキスの雨を降らす。
続いて膝ですらりとした真琴の足を割り開き、ゆっくりとその分身で女の部分を貫いていった。
「あっ……」
熱の固まりに徐々に隘路を押し広げられ、確実に最奥を征服される感覚に、真琴は白い喉を晒して体を仰け反らせる。
「真琴だけを、愛している」
薫が言葉とともに腰を大きく引き、再び胎内に押し込み、その動きを激しくして繰り返すのと同時に、室内に真琴の喘ぎ声と濡れた淫らな音が響き渡った。
「あっ……あっ……薫ぅ……」
これで薫が満足するのかどうかはわからない。だが、もうその激情と欲望を受け入れるしかないのだと、真琴は快感に曖昧になりゆく意識の中で感じていた。
窓の外では雪が音もなく降り続けている。明日にはこの古い街は一面に白く染まるのだそうだ。真琴は雪景色を実際に見たことはなかったが、穢れや心の闇を払うかのような、清らかな色をしているのだろうと思えた。
「……なんだか寒いね」
ベッドの中で真琴がぽつりとそう呟くと、薫は腕を伸ばして真琴を抱き寄せ、包み込むように胸の中に抱き締めた。
薫の一際高い体温を肌で感じ、パジャマ越しの規則正しく力強い、命の音を瞼を閉じて耳で聞く。
泣きも抗いもしない真琴が不思議だったのだろうか。薫は鳶色の髪を愛おしそうに撫で、口付けを繰り返しながら耳元に囁いた。
「……今夜は触っても嫌がらないんだな」
「……」
それからどれだけの時が過ぎたのだろうか。真琴は「ねえ、薫」と義弟の名前を呼んだ。
「薫は、私が薫を好きじゃなくてもいいの……?」
いいや、それは違うと思う。好きであるのには違いない。世界で一番大切な存在なのだから。だが、その「好き」は恋ではない。
薫は真琴を抱く腕にぐっと力を込め、「構わない」となんの迷いもなく言い切った。
「無理だってわかっているから。だったら、そんなもの初めから求めない」
「薫……」
「だけど、俺は真琴が好きだから」
だから、犯して脅して自分のものにした。それ以外の選択肢はなかったと語った。
「……恋人じゃなきゃ駄目だったの? 家族じゃいけなかった?」
「家族は、いつか別れることになる。それに、真琴が他の男と結婚したら……そいつの子どもが生まれでもしたら、真琴の心から俺は消える」
忘れられるなど許せないし、受け入れられるはずもない。自分にとっても真琴にとっても、互いだけが唯一でありたかった。
恨まれてでも、憎まれてでも、恐れられてでも、これまでの関係を破壊してでも、真琴の体と心におのれを刻み付け、生涯癒えない傷跡にしたかったのだと薫は打ち明ける。
確かに、真琴の心身は傷付いた。傷の深さのあまりに痕になるどころか、今でもズキズキと痛み、絶えず血を流し続けている。悪夢となった卒業式のあの夜と、薫への恐怖を忘れられる日は、もう一生来ないだろう。
「薫を忘れるだなんてないよ……」
「それでも、許せない。……俺以外の誰も見てほしくないんだ」
可能なら鎖で手足を拘束し、檻に閉じ込めてしまいたい。薫は最後に苦しげにこう呟いた。
「……愛しているんだ」
自分以外の何者かが真琴の心を占めるのが許せない。我慢できない。もしそうなってしまえば、息をすることすら苦しくなる。死んでしまう。
「真琴、愛してる」
「薫……」
薫の愛は真琴には理解できなかった。だが、恐ろしかった薫を哀れだと感じていた。
薫は奪うような愛し方しかできないのだ。なぜそうなってしまったのかはわからないが、本人にもどうしようもない激情なのだろう。
そして、真琴は薫を見捨てるのか、みずからの幸福を取るのかと問われれば、薫を選ぶようにしか愛せなかった。
「真琴」
薫が目を覗き込み、なんの気紛れなのか、真琴の意志を問う。
「……抱いてもいいか?」
黒い瞳には拒絶されることへの恐れが見え隠れしていた。真琴は、ああ、薫も怖かったのだとようやく悟った。だから、「真琴が欲しい」と懇願された時、瞼を閉じて「……うん、いいよ」と応えたのだ。
薫の言う通り、どれだけひどい仕打ちをされてもこの手を拒めない。求められれば身を委ねる以外の選択肢はない。
パジャマのボタンが一つ一つ外され、下着は取り払われてベッドの下に捨てられ、対の豊かな乳房がふるりとまろび出る。何度となく薫に揉みしだかれ、吸われたことで、その頂は触れられるだけでピンと立ち、肌は熱を持つように作り変えられていた。
薫も服を脱ぎ再び真琴に伸し掛かる。
「真琴、好きだ」
節張った大きな二つの手が、真琴の更なる官能を引き出そうと、柔らかな曲線を描く全身を這い回る。熱い唇が顔に、首に、胸に、腹にキスの雨を降らす。
続いて膝ですらりとした真琴の足を割り開き、ゆっくりとその分身で女の部分を貫いていった。
「あっ……」
熱の固まりに徐々に隘路を押し広げられ、確実に最奥を征服される感覚に、真琴は白い喉を晒して体を仰け反らせる。
「真琴だけを、愛している」
薫が言葉とともに腰を大きく引き、再び胎内に押し込み、その動きを激しくして繰り返すのと同時に、室内に真琴の喘ぎ声と濡れた淫らな音が響き渡った。
「あっ……あっ……薫ぅ……」
これで薫が満足するのかどうかはわからない。だが、もうその激情と欲望を受け入れるしかないのだと、真琴は快感に曖昧になりゆく意識の中で感じていた。
0
お気に入りに追加
697
あなたにおすすめの小説
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
ヤンデレ旦那さまに溺愛されてるけど思い出せない
斧名田マニマニ
恋愛
待って待って、どういうこと。
襲い掛かってきた超絶美形が、これから僕たち新婚初夜だよとかいうけれど、全く覚えてない……!
この人本当に旦那さま?
って疑ってたら、なんか病みはじめちゃった……!
彼氏に別れを告げたらヤンデレ化した
Fio
恋愛
彼女が彼氏に別れを切り出すことでヤンデレ・メンヘラ化する短編ストーリー。様々な組み合わせで書いていく予定です。良ければ感想、お気に入り登録お願いします。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。
そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。
相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。
トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。
あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。
ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。
そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが…
追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。
今更ですが、閲覧の際はご注意ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる