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第一話「月の光と胸の痛み」

018.仲直りと杖探し(2)

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 道具屋は行ったことがあるけれど、武器屋に来たのははじめてだ。私は目をまん丸にしてお店の中を見まわした。やっぱりとても大きなお店だ。私たちがいる宿屋の部屋の十倍はある。

 一階は戦士のためのフロアで剣や槍、盾やアーマーがたくさんあった。二階の半コーナーが魔術師向けで、隅っこのコートかけには防御機能のあるローブやマント、ジャケットが吊るされている。

 魔力強化のための指輪や首飾りもあって、お金を払うカウンターの奥の棚に並べられていた。おじいさんの魔術師がお店の人に出して見せてもらっている。

 そんなお爺さんを背にしながら、私たちは壁に立て掛けられた、数え切れないほどの杖を眺めていた。店員さんがぴたりとクルトの隣に張り付き、次から次へと話しかけてくる。

「では、こちらなどいかがでしょう? 上部の宝玉は水と土をアクアマリンと結合させたものです。回復に最適ですよ! もちろん氷の全体攻撃にもおすすめです」

 クルトは手渡された杖の具合を確かめる。悪くはないけど決めかねているみたいだ。二十分ほど前から風、火、水、土、いろんな属性の杖を手に取っては考えている。

「お客様はどのようなものをお探しで?」

 クルトは杖を店員さんに返すと、「光か闇属性の杖はないか?」と尋ねた。

 店員さんは「おや」と目を見開きクルトを眺める。

「お客様は光と闇を操れるんですか。それは素晴らしい!!」

 ところがすぐに肩を落とし、やれやれといった風に首を振った。

「ただ光と闇の属性はご存知のようにレアもので、当店にも一、二点あるかないかなんです。お調べしてみますがそれも剣だったように思います」

「……そうか」

 クルトは顎に手を当てた。店員さんにお礼を言い、「候補にしておく」と告げる。店員さんは「かしこまりました」と笑った。

「こちらの商品でしたらまだ在庫がございますので、ご安心ください」



*



 結局クルトの気に入る杖は、”安心と信頼のウォルフス堂”にも、”武器と防具の欠けぬ牙"にも、大通りのどのお店にもなかった。

 クルトも私も探し疲れてしまい、大聖堂の幅広の階段に腰掛ける。前の広場ではこれから大聖堂に行く人、帰る人が行き交い、同じくらいの数の鳥があちこちで群れになっていた。

「見つからないものだな」

 クルトは溜息を吐き今ある杖を改めて眺めた。私は肩から飛び降りクルトの膝によじ登る。近くで見ると確かに杖の先にひびが入っていた。

「光や闇のぞくせいのある杖じゃないといけないの?」

「いけないわけでもない。ただ、光と闇は汎用性が高いからな」

 クルトはこの世界の成り立ちを語った。まずなにもないところに神様が光と闇を降ろし、その光と闇が重なり合い世界が生まれた。同時に月と太陽が現れ夜と朝と時間ができる。

 次に余った光と闇が四つに分かれて凝り、風、火、水、土の四元素が成った。つまり光と闇は四元素のおおもとなのだ。そして世界のすべての生き物は、この六つが組み合わさり、魂を与えられた存在だ。

「光と闇はすべての源であり、どんな属性の魔術とも相性がいい。ただ、光と闇の元素を物質と結合させるのは難しい。よほど優れた鍛冶師でなければな……。難しいとは聞いていたがここまでないとは」

 クルトは杖を置き私の頭を撫でた。

「とりあえず一番安い杖を買って、それでしのぐしかない。となると慣れた風と炎がいいか」

 クルトはマーヤで大きな買い物をするよりも、使い捨ての杖を買おうかと考えているみたいだった。

「そうと決まれば少し遅れたが昼飯だな。ルナ、何か食べたいものはあるか?」
 
 私はクルトを見上げ『じゃあ、串焼き!!』と目を輝かせる。

「串焼き?」

『うん、大通りの第三通りとの交差点に屋台があったの。トリとウサギのお肉がすごくいいにおいだったんだ』

「……」

 クルトは「よし」と笑い私を肩に乗せた。

「じゃあそれにするか。パンもどこかで買わないとな」
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