14 / 51
第一話「月の光と胸の痛み」
014.はじめての胸の痛み(1)
しおりを挟む
結局クルトはクマ男を店に残して支払いを済ませ、食べきれなかった魚をお持ち帰りに包んでもらい、私を小脇に抱えて強風のブースト・ジャンプで宿屋に戻った。
クマ男は今度は座ってうなだれたまま追いかけてすら来なかった。
クルトはその後何ごともなかったかのように、ランクBのソロのクエストを次々こなし、お金を稼いでポーションや薬草を買い溜めていった。
私はその間もクマ男が気になっていたけれども、クマ男はあれからちらりとも現れず、クルトも話に出さずどうしようもなかった。
そんな中で私たちはマーヤでの二週間目を迎えた。
私たちのいる宿屋は第三通りの片隅にある。大通りからは少し外れているけれど、安くてきれいで居心地がよかった。
一階は小さな食堂になっていて、入り口の扉の上には豚の形をした鉄の看板、隣にはお肉の塩漬に使ったタルが置かれている。これは「こんな料理があるよ」「こんなに美味しいよ」って宣伝のためなんだそうだ。
私はそのタルのフタに座り日向ぼっこをしていた。
まだ午前だけれどもお日様が当たって気持ちがいい。私は暖かさにうとうととしながら、時々我に返って慌てて座り直していた。
ちょっと前起きたばかりなのに、いけにゃいいけにゃい。
通りがかりの女の人二人が立ち止まり、私を見つめながらささやき合っている。
「あれ……あの猫置物じゃないわよね?」
「ホンモノでしょう。ほら、少し動いた」
「七ヶ月くらい? きっとまだ子猫よね」
私は思わずカッと目を開けた。もう子猫じゃないのに!!
「あ、ほら、やっぱり生きていた」
「かーわいっ♪ 触らせてくれるかな?」
落ち込んで尻尾をタルの上からだらんと垂らす。
もう一歳にもなっているのに……。
見るとその二人だけではなく後ろに男の人もいる。男の人は右の肩に大きな袋を引っかけ、「んん……?」と首を傾げて私を見ていた。縦も横も大きいちょっと頭がさみしい人だ。
私は心の中で「あっ」と声を上げた。
『――クマ男!!』
「ああチビクロ、やっぱりお前だったか」
クマ男がどすどすと樽に近づいて来る。女の人二人は「きゃっ」と声を上げ、そろってどこかに走って行ってしまった。
今日のクマ男はレザー・アーマーを着ていない。ロングソードも置いてきたのか、生成りのズボンに長袖のシャツ、紐で前をくくるベストを着ている。ごくふつうの街の人間の服装だった。
クマ男は腰を屈めて私のいる高さに合わせた。
「お前たちこんなところに泊まっていたのか。まあ、大通りの辺りにゃ花街もあるからなぁ。さすがにお嬢ちゃんにゃ見せたくはなかったか」
『はなまち?』
「あ、こっちの話こっちの話。ガッハッハ」
私は不思議に思いながらもクマ男に尋ねる。
『今日クマ男はクエストじゃないの?』
「ん……いや、もうクエストはな……。今日は実家の手伝いなんだ。取引先が近くにあるのさ」
クマ男はなんだか気まずそうだ。私には答えず宿屋の二階に目を向ける。
「あー、お前がここにいるってことは、クルト・フォン・ハンスもここか?」
クマ男は今度は座ってうなだれたまま追いかけてすら来なかった。
クルトはその後何ごともなかったかのように、ランクBのソロのクエストを次々こなし、お金を稼いでポーションや薬草を買い溜めていった。
私はその間もクマ男が気になっていたけれども、クマ男はあれからちらりとも現れず、クルトも話に出さずどうしようもなかった。
そんな中で私たちはマーヤでの二週間目を迎えた。
私たちのいる宿屋は第三通りの片隅にある。大通りからは少し外れているけれど、安くてきれいで居心地がよかった。
一階は小さな食堂になっていて、入り口の扉の上には豚の形をした鉄の看板、隣にはお肉の塩漬に使ったタルが置かれている。これは「こんな料理があるよ」「こんなに美味しいよ」って宣伝のためなんだそうだ。
私はそのタルのフタに座り日向ぼっこをしていた。
まだ午前だけれどもお日様が当たって気持ちがいい。私は暖かさにうとうととしながら、時々我に返って慌てて座り直していた。
ちょっと前起きたばかりなのに、いけにゃいいけにゃい。
通りがかりの女の人二人が立ち止まり、私を見つめながらささやき合っている。
「あれ……あの猫置物じゃないわよね?」
「ホンモノでしょう。ほら、少し動いた」
「七ヶ月くらい? きっとまだ子猫よね」
私は思わずカッと目を開けた。もう子猫じゃないのに!!
「あ、ほら、やっぱり生きていた」
「かーわいっ♪ 触らせてくれるかな?」
落ち込んで尻尾をタルの上からだらんと垂らす。
もう一歳にもなっているのに……。
見るとその二人だけではなく後ろに男の人もいる。男の人は右の肩に大きな袋を引っかけ、「んん……?」と首を傾げて私を見ていた。縦も横も大きいちょっと頭がさみしい人だ。
私は心の中で「あっ」と声を上げた。
『――クマ男!!』
「ああチビクロ、やっぱりお前だったか」
クマ男がどすどすと樽に近づいて来る。女の人二人は「きゃっ」と声を上げ、そろってどこかに走って行ってしまった。
今日のクマ男はレザー・アーマーを着ていない。ロングソードも置いてきたのか、生成りのズボンに長袖のシャツ、紐で前をくくるベストを着ている。ごくふつうの街の人間の服装だった。
クマ男は腰を屈めて私のいる高さに合わせた。
「お前たちこんなところに泊まっていたのか。まあ、大通りの辺りにゃ花街もあるからなぁ。さすがにお嬢ちゃんにゃ見せたくはなかったか」
『はなまち?』
「あ、こっちの話こっちの話。ガッハッハ」
私は不思議に思いながらもクマ男に尋ねる。
『今日クマ男はクエストじゃないの?』
「ん……いや、もうクエストはな……。今日は実家の手伝いなんだ。取引先が近くにあるのさ」
クマ男はなんだか気まずそうだ。私には答えず宿屋の二階に目を向ける。
「あー、お前がここにいるってことは、クルト・フォン・ハンスもここか?」
5
お気に入りに追加
1,455
あなたにおすすめの小説
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
異世界着ぐるみ転生
こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生
どこにでもいる、普通のOLだった。
会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。
ある日気が付くと、森の中だった。
誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ!
自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。
幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り!
冒険者?そんな怖い事はしません!
目指せ、自給自足!
*小説家になろう様でも掲載中です
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます
久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。
その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。
1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。
しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか?
自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと!
自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ?
ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ!
他サイトにて別名義で掲載していた作品です。
転生したらチートすぎて逆に怖い
至宝里清
ファンタジー
前世は苦労性のお姉ちゃん
愛されることを望んでいた…
神様のミスで刺されて転生!
運命の番と出会って…?
貰った能力は努力次第でスーパーチート!
番と幸せになるために無双します!
溺愛する家族もだいすき!
恋愛です!
無事1章完結しました!
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!
雨宮羽那
恋愛
いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。
◇◇◇◇
私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。
元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!
気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?
元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!
だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。
◇◇◇◇
※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。
※アルファポリス先行公開。
※表紙はAIにより作成したものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる