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過去(8)

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 ちょいブスが何を吹き込んだのかは知らない。なんにせよ王太子はアネットと人前でもべたべたとし、行動を常にともにするようになった。

 俺と王太子が婚約者であると言うことは、この学園の者なら誰でも知っている。でもって、俺はなぜだか妙に慕われている。「抱かれたい生徒ナンバーワン」にも選ばれたくらいだ。

……なんで俺が数あるイケメンを押し退け、堂々の一位になっていたんだ? 男だってばれてないのに!? どこからどう見ても女なのに!?

 と、ともかく、そんな状況で白い目で見られるのは、俺ではなくあのバカップルなのだ。問題視されるのは生徒からだけじゃない。

 この学園は王国からの公的な援助と、王族と貴族からの寄付で運営されている。そして、生徒たちは成績だけではなく、言動をくまなくチェックされているのだ。それらの行動は学期末にすべて両親だけではなく、王国の重鎮らに知られることになる。

 王太子とアネットはそれをわかっているんだろうか。わかってなけりゃあ究極のアホだし、わかっているのなら至高のバカでしかない。

 俺はずきずきと痛む頭を押さえつつ、その日放課後になるのを待って、例の色ボケトリオを教室に呼び出した。アネットがどう王太子を惑わしたのかを知るためだ。

 結果、色ボケトリオは俺に怯えて正座をしながら、口々にこう答えてくれたのだった。

「あ、アネットにはありのままのあなたでいいのと言われたんです」

「私の前では無理をしなくてもいいのよとも慰められました」

「あなたはあなたでじゅうぶん価値があるんだからとも……」

「……」

 俺はがっくりと脱力してしまった。お前らそんなチョロくていいのかよ。

 ありのままでいいやつなんて、貴族には一人もいねーんだよ。王太子だけじゃなく、俺もアディも、閣下もだ。

 俺たちは王族、あるいは貴族として、この王国の税金で生活している。支配層だと考えられているからだ。そして、支配する側にふさわしくあるためには、常に姿勢を正し威厳を保たなければならないのに。

 俺のシラケた視線に気付いたのか、トリオは「申し訳ございません!」、と頭を掃除していない床に擦り付けた。

「今思えばほんとうに愚かだと思います」

「で、ですが、おかしいんです。アネットの言葉を聞いていると、酒を飲んだように気分が良くなって……」

「そのとおりだと頷いてしまうんです」

「……」

 まあ、終わったことを責めても仕方がない。俺は色ボケトリオを解放し、この事態をどう収拾したものかと頬杖をついた。

 王太子が自覚してくれればいいのだが、もし、一年経ってもしてくれなければ――。

 俺はある決意をすると席を立った。
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