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結末(1)
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「アデライード・ドゥ・シャルトル公爵令嬢! 今この時を以ってお前との婚約を破棄させてもらう!」
舞踏会の広間に威勢のよいの声が響き渡る。お……コホン、私はありえない事態に呆気に取られ、目の前の殿下をまじまじと見つめてしまった。
――私はアデライード・ドゥ・シャルトル。
宰相として名高いシャルトル公爵の一人娘である……とりあえず。幼いころから王太子・フィリップ殿下の婚約者として教育を受けてきた。政治にも、経済にも、語学にも、文学にも、芸術にも、すべてに力を尽くしておのれを磨きに磨いてきたのだ。
今日は卒業パーティのプログラムの一つである舞踏会であり、アデライードの名に恥じないようにと美しく装ってきた。コルセットで腹を締め付けた時なんか、一瞬意識があの世に飛んでいったぞ。
ところが殿下はそんな私の血の滲む努力を無視し、居丈高な口調で断罪を始めたのだ。どうやら隣にいる垢抜けないちょいブスの、ピンクのドレス姿の小娘のためらしい。アネットだとか言う男爵家の養女だ。
「お前は前の舞踏会で、わざとアネットのドレスにワインを掛けたそうだな!」
「まったく身に覚えがございませんわ」
「嘘を吐くな! 他でもないアネットがそう証言しているんだぞ! 往生際の悪い……」
アネットは最近殿下と親しいようだと噂になっていた。けれどもまさか王太子がそんな真似などするはずがない。無能な国王に代わって一手に国政を引き受ける、宰相の娘である私を敵に回すだなどと、有り得るはずがないと思い込んでいたのだ。
ところが殿下はパパン以上のアッパラパーだったらしい。広間の貴族たちは息を呑んで殿下を見守っていたが、視線がだんだん可哀想な何かを見るものになっている。その変化にすら気が付いていないようだ。
「ドレスだけではない。お前はアネットの母の形見であるペンダントを投げ捨てたそうだな! そんな非道な女と結婚などできるか!!」
「……」
アネットは殿下に縋り付いている。ああ、よりによって嫁入り前の令嬢が、あんなに男にくっついてみっともない。恥も慎みもない躾のなってない女なんだな。
私は次第に馬鹿らしくなってしまい、「……かしこまりました」と溜め息を吐いた。
「非道だか極道だか存じませんが、殿下が婚約を破棄したいとの旨を、陛下と父の宰相にお伝えいたしますわ」
殿下の顔色が変わった。
「なっ……父上と宰相は関係ないだろう! これは私たちの問題だ!」
「そうは参りません。私たちの婚約は国の取り決めであり、契約です。その契約を殿下の一存で破棄しようと言うのです。シャルトル家、および私個人への謝罪に賠償に、話し合わなければならないことは山ほどありますわ」
私は「覚悟なさいませ」と言いつつ、音を立てて扇子を閉じた。
「なっ……謝罪に賠償だと!?」
「シャルトル家を侮辱したこと……父がそう簡単にお許しになると思わないでくださいな」
「ま、待て、待つんだアデライード!!」
恐らく父は、シャルトル公爵は王太子を許さないだろう。前々からあの王太子は駄目だと愚痴を零していたのだ。今後の話し合い次第では、第二王子に継承権が移る可能性もある。
いずれにせよこれで王太子とアデライードの婚約は破棄された。
スキップを踏みたい気分になる。私は意志の力でどうにかそれを抑えて、足早に大広間を出て行った。
舞踏会の広間に威勢のよいの声が響き渡る。お……コホン、私はありえない事態に呆気に取られ、目の前の殿下をまじまじと見つめてしまった。
――私はアデライード・ドゥ・シャルトル。
宰相として名高いシャルトル公爵の一人娘である……とりあえず。幼いころから王太子・フィリップ殿下の婚約者として教育を受けてきた。政治にも、経済にも、語学にも、文学にも、芸術にも、すべてに力を尽くしておのれを磨きに磨いてきたのだ。
今日は卒業パーティのプログラムの一つである舞踏会であり、アデライードの名に恥じないようにと美しく装ってきた。コルセットで腹を締め付けた時なんか、一瞬意識があの世に飛んでいったぞ。
ところが殿下はそんな私の血の滲む努力を無視し、居丈高な口調で断罪を始めたのだ。どうやら隣にいる垢抜けないちょいブスの、ピンクのドレス姿の小娘のためらしい。アネットだとか言う男爵家の養女だ。
「お前は前の舞踏会で、わざとアネットのドレスにワインを掛けたそうだな!」
「まったく身に覚えがございませんわ」
「嘘を吐くな! 他でもないアネットがそう証言しているんだぞ! 往生際の悪い……」
アネットは最近殿下と親しいようだと噂になっていた。けれどもまさか王太子がそんな真似などするはずがない。無能な国王に代わって一手に国政を引き受ける、宰相の娘である私を敵に回すだなどと、有り得るはずがないと思い込んでいたのだ。
ところが殿下はパパン以上のアッパラパーだったらしい。広間の貴族たちは息を呑んで殿下を見守っていたが、視線がだんだん可哀想な何かを見るものになっている。その変化にすら気が付いていないようだ。
「ドレスだけではない。お前はアネットの母の形見であるペンダントを投げ捨てたそうだな! そんな非道な女と結婚などできるか!!」
「……」
アネットは殿下に縋り付いている。ああ、よりによって嫁入り前の令嬢が、あんなに男にくっついてみっともない。恥も慎みもない躾のなってない女なんだな。
私は次第に馬鹿らしくなってしまい、「……かしこまりました」と溜め息を吐いた。
「非道だか極道だか存じませんが、殿下が婚約を破棄したいとの旨を、陛下と父の宰相にお伝えいたしますわ」
殿下の顔色が変わった。
「なっ……父上と宰相は関係ないだろう! これは私たちの問題だ!」
「そうは参りません。私たちの婚約は国の取り決めであり、契約です。その契約を殿下の一存で破棄しようと言うのです。シャルトル家、および私個人への謝罪に賠償に、話し合わなければならないことは山ほどありますわ」
私は「覚悟なさいませ」と言いつつ、音を立てて扇子を閉じた。
「なっ……謝罪に賠償だと!?」
「シャルトル家を侮辱したこと……父がそう簡単にお許しになると思わないでくださいな」
「ま、待て、待つんだアデライード!!」
恐らく父は、シャルトル公爵は王太子を許さないだろう。前々からあの王太子は駄目だと愚痴を零していたのだ。今後の話し合い次第では、第二王子に継承権が移る可能性もある。
いずれにせよこれで王太子とアデライードの婚約は破棄された。
スキップを踏みたい気分になる。私は意志の力でどうにかそれを抑えて、足早に大広間を出て行った。
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