上 下
88 / 117

88.口説かれないのがおかしいの!?

しおりを挟む
 けれどエドワードにとっては、私が口説かれてない事の方がおかしいらしい。ラウルがウィルの事を嫌いならば、ウィルの嫌がる事をするはずだ。私にくだらない嫌がらせをするよりも、私を奪った方が遥かにウィルにダメージを与えられる。

「さすが、エドワード様!! 性格悪いだけあって、人が嫌がる事がよく分かりますね」

「はぁ? 性格が悪いからじゃなくて、頭がいいから分かるんだろ」

 エドワードの頭がいいのは確かだが、性格が悪いのも事情だ。

「でもラウル様はどうしてウィルバート様の事を嫌いなんでしょう?」

 ラウルの私を見る目には憎しみがこもっていた。ウィルみたいな優しい人が、人に恨まれるような事をするとは思えない。

 けれどエドワードにはラウルの気持ちが分かるらしい。

「どうやっても自分では手に入れる事のできない物を、簡単に手にする事ができる奴は憎いだろ」

「羨ましくはなるかもしれませんが、憎いとは思いませんよ」

「お前はそうかもしれないが、憎いと思う奴もいるんだ」

 エドワードは意味ありげな顔で私を見た。

「特にその相手が、心底惚れてる女に他の女を好きだと思われるような間抜けだったらなおさらな」

 それは言外にウィルバートを間抜けと言っているんだろうか? そうだとしたら、かなり失礼だ。

「エドワード様は、ウィルバート様がまだ私の事を好きだと思ってらっしゃるんですか?」

「どう見てもそうだろ」
 当たり前だとでも言うかのようにエドワードは頷いた。

 だから違うんだってば。それはもう昔の話で、ウィルの心はもう、グレースのものなのだ。

 エドワードは私の話を軽く笑い飛ばすと、「そう言えば……」っと話を変えた。

 その話は王宮に私の亡霊が出たというものだった。

「亡霊ですか?」

「そうだ。殿下が言うには、お前の誕生日に亡霊が現れてプレゼントを持っていったんだとよ」

 エドワードは亡霊の存在なんて信じていないのだろう。まるで笑い話でもしているかのような口調だ。

 けれど私にはその話に心当たりがあった。

「もしかして、そのプレゼントってこれじゃありませんか?」

 私が取り出した指輪を見たエドワードが驚いて目を見開いた。

「お前……これをどこで手に入れたんだ?」
 そう詰めよられても、ノックやタルーナの話はできない以上、本当のことは言えないやしない。

「夜中に机に置いてあった……みたいな感じですかね」

 こんなに歯切れが悪いんじゃ疑われるかと思ったけれど、意外にもエドワードは信じたみたいだ。異世界からの客人には未知の力があるのか……的な事を考えているのかもしれない。何かを考えこむように、真面目な顔をして黙ってしまった。

 未知の力があるのは私じゃなくて、ノック達本の神様なんだけど、まぁいっか。

 エドワードの態度からしたら、本当にこの指輪はウィルから私へのプレゼントなのかもしれない。そう思うと無性にウィルに会いたくてたまらなくなってしまった。

「あの……エドワード様……私はいつか王宮に戻れるのでしょうか?」

 まだしばらくはこのままの生活を送る覚悟をしていた私にとって、エドワードの返事は予想外のものだった。

「お前には、春喜宴に出席されるレジーナ殿下と共に王宮入りしてもらう」

 とうとう戻れると喜ぶ私に、エドワードはクギをさした。 

「戻れはするが、まだ全て解決したわけじゃないからな。解決するまでウィルバート殿下には会えないし、レジーナ殿下つきの侍女として振る舞うんだ」

 王宮には私の顔を知っているメイドが多くいるので、レジーナ殿下の侍女のふりをしてひっそりとしておくことが王宮に戻る条件だとエドワードは言った。

 もちろんそんなこと、何の問題ない。ウィルに会えないのは寂しいけど、それでもそばに行けるだけで今は嬉しい。

 レジーナ様は私の事情を知っているからいいとして、問題はオリヴィア達だ。
 まだ私の素性をばらすわけにはいかないので、私はもうしばらくエドワードの恋人のアリーとして過ごさなければならない。

 ということで、今夜の夕食会では久しぶりに恋人に会えて嬉しいという演技をするよう指示されている。

 エドワードにさりげなくラウルの事を観察してもらいたかったのだが、残念なことにラウルは夕食会にはいなかった。その変わりと言ってはなんだが、オリヴィアは絶好調だった。

「二人とも思う存分イチャイチャできた?」
 目を輝かせているオリヴィアには悪いが、とりあえず笑って誤魔化すしかない。

 セスはセスで、エドワードに会えた事が余程嬉しいのだろう。いつも通りの不機嫌顔ではなく機嫌が良さそうな様子でのんびりと食事をしている。

 たわいのない会話から、話題は来たる春喜宴のことへと変わっていた。

「エドワード!! あなたアリーを何だと思っているの?」
 オリヴィアがエドワードに噛み付いた。

 春喜宴は私と出るのかと聞かれたエドワードが、私はレジーナ様の侍女のふりをして王宮へ入ることになっていると説明したのだ。

「恋人に侍女のふりをさせるなんて、最低だわ」

「アリーのことは大切に思っていますよ。だからこそ、アリーには目立たぬようレジーナ殿下の部屋付きの侍女のフリをさせるのです」

 さすがエドワード。全く動揺することなく、目立って私が嫌な思いをしないためだともっともらしい説明をする。

「じゃあエドワードはアリーを春喜宴に全く出さないつもりなの?」

「もちろんですよ。アリーには数日間部屋で待機していてもらう予定です」

「エドワード、あなたねぇ……アリーがあなたのためにどれだけ努力してるか分かってるの?」

 怒りで顔を真っ赤にしているオリヴィアを何とかなだめなくては。

「オリヴィア様が怒ってくださるのはとても嬉しいですが、私もエドワード様に従う方がいいと思います」

「アリーったら、あんなにダンスも練習したじゃない。好きだからって、何でもかんでもエドワードの言いなりになったらダメよ」

 別に私はエドワードのことが好きで言いなりになってるわけじゃなーい。そう叫びたいけど、もちろんそんなことはできやしない。

「オリヴィア、エドワードにはエドワードなりの考えがあるのですよ。あなたが口をはさむことではありません」

「エドワードがどんな考えを持っていようと、アリーに侍女の真似をさせるなんて私は絶対に許せないわ」

 レジーナ様に何を言われてもオリヴィアは絶対に認めないの一点張りだ。

 困っちゃったな。
 オリヴィアが私のことを思ってくれるのはありがたいけれど、今回はエドワードの言うとおりにした方がいいと思うのよね。

「オリヴィア様ありがとうございます。でも私はまだ上手に踊れませんし、そういう場に出るよりは侍女として扱っていただく方が気が楽なので……」

「アリーが良くても、私はアリーが侍女として扱われるなんて嫌なの」

 子供のように駄々をこねるオリヴィアに、
「わたしのアリーをそこまで思ってくれるなんて有難いことですね」
 エドワードは余裕の微笑みを向けた。

「わたしのアリーとかって言ってるけど、アリーに捨てられても知らないんだからね」 

「アリーがわたしを捨てるなんてあるわけないじゃないですか」

 エドワードが私の肩に腕をまわして引き寄せた。

「ねっ、アリー?」

「そ、そうですね」

 ラブラブな恋人の演技をしなくちゃいけないと分かっていても、居心地悪くて笑顔がひきつってしまう。

「どうかしら?」
 はんっとオリヴィアが鼻で笑った。
「エドワードは知らないだけで、アリーとラウル兄様は深夜に密会する仲なのよ」

 へっ?
 オリヴィアは一体何を言ってるの?

「ほぅ……」
 オリヴィアの言葉にそう呟いたエドワードのニヤリと笑った顔を見て、嫌な予感がする。

「ねぇ、アリー。エドワードみたいな冷たい男なんかやめて、ラウル兄様と結婚してよ。そうすれば私達姉妹になれるし」

「ええ!?」

「おい、オリヴィア! 何言ってんだ!? 冷たい男なんて言ったら、エドワードに失礼だろ」

 いやいや、引っかかる所はそこじゃないでしょ。私とラウルが結婚……って所に突っ込んで欲しかった。

 エドワードはこの状況を楽しんでいるとしか思えないような顔でオリヴィアに尋ねた。

「オリヴィア殿下はアリーと姉妹になりたいとおっしゃるんですか?」

「えぇ、そうよ。どの兄様でもいいから、アリーと結婚して欲しいなって思ってるの。だからはっきり言ってエドワードは邪魔なのよね」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…

ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。 しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。 気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ★9/3『完全別居〜』発売
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

王宮医務室にお休みはありません。~休日出勤に疲れていたら、結婚前提のお付き合いを希望していたらしい騎士さまとデートをすることになりました。~

石河 翠
恋愛
王宮の医務室に勤める主人公。彼女は、連続する遅番と休日出勤に疲れはてていた。そんなある日、彼女はひそかに片思いをしていた騎士ウィリアムから夕食に誘われる。 食事に向かう途中、彼女は憧れていたお菓子「マリトッツォ」をウィリアムと美味しく食べるのだった。 そして休日出勤の当日。なぜか、彼女は怒り心頭の男になぐりこまれる。なんと、彼女に仕事を押しつけている先輩は、父親には自分が仕事を押しつけられていると話していたらしい。 しかし、そんな先輩にも実は誰にも相談できない事情があったのだ。ピンチに陥る彼女を救ったのは、やはりウィリアム。ふたりの距離は急速に近づいて……。 何事にも真面目で一生懸命な主人公と、誠実な騎士との恋物語。 扉絵は管澤捻さまに描いていただきました。 小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。

未亡人メイド、ショタ公爵令息の筆下ろしに選ばれる。ただの性処理係かと思ったら、彼から結婚しようと告白されました。【完結】

高橋冬夏
恋愛
騎士だった夫を魔物討伐の傷が元で失ったエレン。そんな悲しみの中にある彼女に夫との思い出の詰まった家を火事で無くすという更なる悲劇が襲う。 全てを失ったエレンは娼婦になる覚悟で娼館を訪れようとしたときに夫の雇い主と出会い、だたのメイドとしてではなく、幼い子息の筆下ろしを頼まれてしまう。 断ることも出来たが覚悟を決め、子息の性処理を兼ねたメイドとして働き始めるのだった。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

悪役令嬢はお断りです

あみにあ
恋愛
あの日、初めて王子を見た瞬間、私は全てを思い出した。 この世界が前世で大好きだった小説と類似している事実を————。 その小説は王子と侍女との切ない恋物語。 そして私はというと……小説に登場する悪役令嬢だった。 侍女に執拗な虐めを繰り返し、最後は断罪されてしまう哀れな令嬢。 このまま進めば断罪コースは確定。 寒い牢屋で孤独に過ごすなんて、そんなの嫌だ。 何とかしないと。 でもせっかく大好きだった小説のストーリー……王子から離れ見られないのは悲しい。 そう思い飛び出した言葉が、王子の護衛騎士へ志願することだった。 剣も持ったことのない温室育ちの令嬢が 女の騎士がいないこの世界で、初の女騎士になるべく奮闘していきます。 そんな小説の世界に転生した令嬢の恋物語。 ●表紙イラスト:San+様(Twitterアカウント@San_plus_) ●毎日21時更新(サクサク進みます) ●全四部構成:133話完結+おまけ(2021年4月2日 21時完結)  (第一章16話完結/第二章44話完結/第三章78話完結/第四章133話で完結)。

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

天然王妃は国王陛下に溺愛される~甘く淫らに啼く様~

一ノ瀬 彩音
恋愛
クレイアは天然の王妃であった。 無邪気な笑顔で、その豊満過ぎる胸を押し付けてくるクレイアが可愛くて仕方がない国王。 そんな二人の間に二人の側室が邪魔をする! 果たして国王と王妃は結ばれることが出来るのか!? ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

処理中です...