好きなのは貴方じゃない

agapē【アガペー】

文字の大きさ
上 下
52 / 53

まがいものの天使

しおりを挟む


その様子をダンテが見逃すはずもない。


「おい、ショーン、ティファはやらんぞ」

「?」


隣でダンテが何を言い出したのだろうと、スティファニアは不思議そうに見つめる。やるとやらないとかそんな話は一切していなかったはずだ。一体何の話でどこから会話が切り替わったのだろう、自分が話を聞いていなかったのだろうかと。


「滅相もありません!で、ですが、天使様は愛でる分には構いませんよね?」


天使を愛でる?伝説か何かの話をし始めたのか。それにしても料理人が焦っているのがわかる。料理人は確かに天使と言った。辺境では、言い伝えなどがあり、天使に会うことができるということなのだろうか。スティファニアは困惑しながらダンテの顔をじっと見つめていた。


「愛でる分には構わん。だが手を出してみろ。罰くらいじゃすまされんからな」


ぶんぶんと料理人は首を勢いよく縦に振り、もちろんですと頷いている。ダンテは料理人に罰くらいじゃ済まされないと言った。やはり言い伝えや伝説の禁忌に振れれば、どんな屈強な男であろうと無事では済まされないもだろう。食事も済ませ、ダンテがスティファニアを食後の茶に誘い、今は、サロンでくつろいでいる。


「ダン様」

「なんだ?」

「辺境の地では天使様にお会いできるのですか?」

「天使?・・・あぁ・・・そうだな。今は辺境にいる」

「今は?という事は、天使様は場所を移られる事があるのですか?」

「うむ・・・移ることもあるやもしれん。だが、天使はこの辺境の地をとても気に入ってくれたようだ」

「そうなのですか?・・・あの・・・」

「ん?」

「私も会えますでしょうか?」

「天使にか?」

「はい!」

「・・・毎日見ているだろう」


ダンテの何を言っているんだと言わんばかりの態度に、スティファニアは困惑する。まさか、辺境伯邸の誰かが天使だというのだろうか。斜め上の発想をし始めたスティファニアに、ダンテはもう一言付け加える。


「鏡を通してな?」

「・・・鏡?」


ますますわからないといった表情のスティファニアに、ダンテはくつくつと笑い、白状する。


「天使はお前だ、ティファ」

「へっ?・・・わ、私ですか!?」


ダンテが何を言いだしたのかと一瞬固まってしまった。天使というのは、こんな容姿ではないはずだ。天使と例えるならば、実家の侯爵家の妹、ミレイニアのような可憐な少女を指すのではないかと思う。きっとダンテも、辺境伯邸の皆も、ミレイニアを見れば、自身がまがい物の天使であったと気付くだろう。そんな事が頭をよぎったスティファニアの顔からは、表情が抜け落ちていた。




しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)

青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。 だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。 けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。 「なぜですか?」 「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」 イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの? これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない) 因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

いつまでも甘くないから

朝山みどり
恋愛
エリザベスは王宮で働く文官だ。ある日侯爵位を持つ上司から甥を紹介される。 結婚を前提として紹介であることは明白だった。 しかし、指輪を注文しようと街を歩いている時に友人と出会った。お茶を一緒に誘う友人、自慢しちゃえと思い了承したエリザベス。 この日から彼の様子が変わった。真相に気づいたエリザベスは穏やかに微笑んで二人を祝福する。 目を輝かせて喜んだ二人だったが、エリザベスの次の言葉を聞いた時・・・ 二人は正反対の反応をした。

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

誰にも言えないあなたへ

天海月
恋愛
子爵令嬢のクリスティーナは心に決めた思い人がいたが、彼が平民だという理由で結ばれることを諦め、彼女の事を見初めたという騎士で伯爵のマリオンと婚姻を結ぶ。 マリオンは家格も高いうえに、優しく美しい男であったが、常に他人と一線を引き、妻であるクリスティーナにさえ、どこか壁があるようだった。 年齢が離れている彼にとって自分は子供にしか見えないのかもしれない、と落ち込む彼女だったが・・・マリオンには誰にも言えない秘密があって・・・。

処理中です...