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突然の出会い
しおりを挟む手を繋いで畑に来た二人。ダンテはスティファニアが植えた種の付近に手を引いていく。
「ティファ」
「はい」
「見てみろ」
「!・・・芽が出てますわ!」
スティファニアの植えた茄子の種から芽が出たらしく、土から顔を覗かせていた。しゃがみ込んでじっと見つめるスティファニア。ダンテは、スティファニアが夢中になっている事に目を細め、嬉しそうに眺めていた。そこへ人が近付いてくる。
「辺境伯様、少々よろしいでしょうか。砦の警備の件で」
やってきたのは辺境騎士団の副団長である、テオフィル・エーベル。エーベル子爵でもあり、メイド長の夫でもある。
「今でないといけないのか」
「できれば急ぎです。敷地内に侵入者がおりまして、尋問したところ隣国の者でした」
「・・・そうか」
それだけ言うと、ダンテはしゃがみ込むスティファニアに目線を合わせるように自身もしゃがみ込む。
「ティファ、少しだけ行ってくる。すぐに戻るからここにいてくれ。テオフィル、レーナを寄越せ」
「はっ」
「ティファ、行ってくる」
「はい、お待ちしてますね」
スティファニアは立ち上がりダンテを見送る。離れていくのは寂しさを感じるが、あの大きな背中は辺境を、しいては国を守る要だ。それが誇らしげでもある。姿が見えなくなると、スティファニアは再度しゃがみ込み、メイド長のレーナが来るのを待つ。水をあげようと立ち上がり、ジョウロに水を汲むと、大きく育ってと思いを込めて水をかけていた。足音がし、レーナが来たのかと振り返ると、そこには体躯のいい男が立っていた。
「・・・新入りか?見ない顔だな」
「えっと・・・新入り、です」
「そうか・・・」
男はスティファニアの顔をじっと見つめたまま、何も言わず立ち尽くしている。
「あの・・・」
スティファニアに声をかけられ、男はハッとする。
「あぁ、すまない。辺境伯がこちらに行ったと聞いたんだが」
「辺境伯様なら、騎士様が呼びにおいでになられまして、ご一緒されましたわ。砦の警備の件とおっしゃってましたが」
「そ、そうか。すまない」
それだけ言うが、男は立ち去る気配がない。そこへ慌てたレーナがやってきた。
「すみません、何かございましたか!?」
メイド長のこの態度に、スティファニアは自身に、男は自身に言ったのだろうと各々が思う。男は次に何を話そうかと考えていたところに邪魔が入ってしまったなと、釈然としない気持ちで引き下がることにした。
「悪かったな。ありがとう」
そう言った男は踵を返し立ち去ろうとしたが、ふと立ち止まる。背を向けたままスティファニアに問いかける。
「・・・名は何と言うんだ」
「ス・・・」
言いかけて一瞬悩んだ。本名を言っていいのだろうか。誰かも名乗りもしない相手に、軽く教えることはないのだろうかなどと考えて答える。
「スティです」
「そうか。俺はリオネルだ」
それだけ言うとリオネルは立ち去っていった。メイド長は、これは大変だと、ダンテにすぐさま報告せねばいけないと気を引き締めた。
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