29 / 53
ダンテはかまいたい
しおりを挟むダンテに、やりたいことは何でも一緒にと言われ、ダンテの執務室や私室も案内された。そして今、またダンテが側にいる。
「スティファニア、苦手なものはないか?」
「はい、特にはありません」
ニコニコしているダンテ。ダンテがシャワーを浴び、念入りに身体を洗い、真っ赤になってバスルームから出てきてから、そう時間も経たないうちにスティファニアと食事がしたいと部屋を出てきたらしい。スティファニアはこの屋敷に来てからというもの、使用人部屋に住み、使用人達と一緒に食事をしている。ダンテが一緒に食事をと、スティファニアの部屋の場所をレスタに訪ねると、なんと使用人部屋の一角に案内されたのだ。これにはダンテが憤慨した。リオネルは何をやっているんだと。だがスティファニアが止めに入った。この部屋を希望したのは自分で、自らここに住み、使用人の皆と食事がしたかったのだと。それを聞いて、ダンテの態度は仕方ないと軟化した。そして、今に至るわけである。使用人達も一緒に、食卓を囲んでいる。せめてもダンテとスティファニアに、給仕をしようと動きかけた使用人達に、スティファニアが悲しそうな顔をしたからだ。それに気付いたダンテが、いつものように皆も席に着けと指示をした。そして、ダンテは目的のためにスティファニアの横に陣取る。
「ほら、これもうまいぞ?」
そう言いながら、スティファニアの口元にスプーンやフォークで食事を運んでいる。
「ダンテ様、もうお腹いっぱいです・・・」
「そうか・・・」
残念そうにしょぼんとするダンテだったが、食べられないものを無理に食べさせるわけにはいかない。
「あまり食べてないな・・・スティファニアは随分と少食だ。だからこんなに細いのか」
ダンテが心配そうにスティファニアを見るが、それは誰と比べているのかと、スティファニアはもちろん、使用人達も苦笑いしている。
「ダンテ様こそあまり食べていないです。さっきから私に食べさせてばかりですよ?」
「ん?・・・では、食べさせてくれるか?」
当たり前のように言ってくるダンテに、少しだけ驚きつつも、自分もして貰ったからと、お返しのつもりでスティファニアもフォークを手に取った。
「はい、ダンテ様」
ダンテは嬉しそうに、大きく口を開けた。口に含んだ食事はもちろん美味しいが、スティファニアに食べさせて貰う事で、何倍にも美味しく感じられた。そして新たな感情があることに気付く。なんだか気恥ずかしい。子どものような行為をしているというわけではなさそうだ。むず痒いような恥ずかしいような、この気持ちは、なんなのだろうと思いながら、口元に運ばれる食事に、今はこの甘い時間を素直に享受しておこうとニコニコしながら食事を平らげていく。その食事量に、スティファニアはただただ驚いていた。
17
お気に入りに追加
113
あなたにおすすめの小説
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
忙しい男
菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。
「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」
「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」
すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。
※ハッピーエンドです
かなりやきもきさせてしまうと思います。
どうか温かい目でみてやってくださいね。
※本編完結しました(2019/07/15)
スピンオフ &番外編
【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19)
改稿 (2020/01/01)
本編のみカクヨムさんでも公開しました。
前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る
花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。
その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。
何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。
“傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。
背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。
7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。
長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。
守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。
この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。
※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。
(C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。
王太子殿下から婚約破棄されたのは冷たい私のせいですか?
ねーさん
恋愛
公爵令嬢であるアリシアは王太子殿下と婚約してから十年、王太子妃教育に勤しんで来た。
なのに王太子殿下は男爵令嬢とイチャイチャ…諫めるアリシアを悪者扱い。「アリシア様は殿下に冷たい」なんて男爵令嬢に言われ、結果、婚約は破棄。
王太子妃になるため自由な時間もなく頑張って来たのに、私は駒じゃありません!
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
稚拙ながらも投稿初日(11/21)から📝HOTランキングに入れて頂き、本当にありがとうございます🤗 今回初めてHOTランキングの5位(11/23)を頂き感無量です🥲 そうは言いつつも間違ってランキング入りしてしまった感が否めないのも確かです💦 それでも目に留めてくれた読者様には感謝致します✨
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる