好きなのは貴方じゃない

少なすぎる荷物のワケ

二人が乗り込むと馬車が動き出した。スティファニアはじっと窓の外を眺めている。長年暮らしていた王都の屋敷、街並み。感傷に浸りながら眺めているように見えた。だがスティファニアの心境はそれとは異なる。



(やっとこの家から解放される。でもそれが結婚・・・しかも会った事もない相手と・・・王太子妃になるって信じて疑わなかった。ジェラルド様と幸せになるんだって・・・思ってたのに・・・バカよね。そう、お父様が言う通りだわ・・・群がるご令嬢が面倒で、女避けに使われていただけ。私はただの道具に過ぎなかったんだわ。愛おしそうに見つめられる瞳も、優しくとってくれた手も・・・すべて演技。この一月の間何も連絡すらなかった・・・困るのは道具としての女避けが居なくなることぐらいかしら。殿下の事、すぐにでもそんな女性見つかるわね・・・私が心配する事でもないわ)



向かいに座っていたレスタは、じっとスティファニアを見ていた。その視線にスティファニアが気付く。


「あの・・・何か？」

「えっ？・・・あ、あぁ！す、すみません」

「随分と見られていたようですが、何かおっしゃりたい事がおありなのですか？」

「特には・・・い、いえっ！」


何もないと言いかけたレスタはガバッと顔を上げると、スティファニアに問うた。


「あの・・・一つだけ」

「何でしょう？」

「荷物、やはり少なすぎます。侯爵家に戻って追加で積み込みしましょう！何なら荷馬車を追加しても・・・」

「必要ありませんわ」

「どうして・・・」

「聞きたかったのは理由でしょう？・・・私には着飾るドレスもアクセサリーも、もう必要ありませんの。押し付けられた女と一緒にパーティーなどには男爵様もご一緒になられないでしょうから、着飾る必要もありません。私は屋敷の与えられた部屋で大人しくしておりますから、服も数着あれば事足りましょう。お気遣いなど無用です」


レスタは思った。これはもう諦めに等しい。外に出る気すらないと言っているのだ。なんなら書類が受理されて夫婦となった二人は、屋敷で顔を合わせることもないまま過ごすことになりかねないと。