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恋した君と愛する君
寝起きの絶望
しおりを挟む傷も癒え、マーガレットに心も癒されたサイラス。日常へと戻りクライスの補佐などを行いつつ日々を過ごしていた。
「う・・・ん・・・朝か・・・ん・・・?・・・レット?」
サイラスは朝目を覚まし、一緒に寝たはずの寝台にマーガレットがいない事に気付く。辺りを見渡すも、部屋の中にもいない。
「レット!!どこに行った!?レット!!!」
寝台から転げるように起き上がると、部屋を飛び出した。
「レット!レット!」
屋敷中駆け回って探すも、マーガレットの姿が見当たらない。
「おい、レットを見てないか!」
すれ違いざまメイドに声をかけた。
「奥様でしたらキッチンにいらっしゃいますよ?」
「キッチン?・・・あぁ、わかった」
キッチンに行くと確かにマーガレットがいた。勢いよく抱きつき腕の中に捕らえた。サイラスはマーガレットの肩に頭を乗せぐりぐりと押し当てる。何が起きたのかと使用人達はびっくりしていたが、次第に微笑ましく笑顔になっていく。
「レット、勝手にいなくなるな!」
「サイラス様、目を覚まされたのですね」
「あぁ・・・」
「もう・・・サイラス様、夜着のままじゃないですか」
「だって、起きたらレットがいなくなっていたんだぞ!」
「起こしては悪いと思いまして」
「別に構わん、いや、なんなら起こせ!おはようのキスをしろ」
「・・・もう、それでは、サイラス様が起きるまで私は寝台から出れないですわ」
「それでいい!寝起きに絶望を味合わせるな」
「・・・屋敷の中にはちゃんとおりますよ。どこにも行ってません」
「ダメだ、俺が起きるまで寝台から出るな・・・起きたらレットがいないなど、生きた心地がしない・・・」
「ちゃんとおります、勝手にいなくなったりしませんよ?」
「・・・それでもだ。いつかレットが俺の前から消えてしまうんじゃないかと怖いんだ。気が気じゃないんだ!」
「・・・もう・・・サイラス様、甘えん坊さんですね?」
「・・・悪いか・・・ダメか?甘える俺は嫌いか?」
「いいえ、好きです」
「レット!!!」
サイラスは、ぱぁっと笑顔になり、マーガレットをぎゅうぎゅうと抱きしめた。
「サ、サイラス様、苦しいです!」
「あぁ、す、すまん・・・でも、もうちょっと甘えさせろ」
マーガレットは、しばらく解放してもらえず、結局そのまま朝食は指定席となってしまったサイラスのお膝の上に座らせられていた。
怪我をしてからのサイラスの様子に、使用人達は、サイラスがこんなにも甘えるようなところがあったのかと驚いていた。小さい頃に母親を亡くし、次期当主として育てられたからか、自立していて聡明な子どもだった。その反動なのか、今はマーガレットに存分に甘える男になった。しかし、使用人一同、いい奥様に恵まれたと喜んで、微笑ましく眺めるようになった。
サイラスとマーガレットは、サイラスが怪我をした夜会の日から身体を重ねることはなくなった。子を成せ、公爵家の跡取りとして育てるという父親の言葉に、マーガレットとの子を取られることを許せなかった。
マーガレットに欲情をぶつけていた時は、食事に避妊薬を混ぜるように使用人に指示していた。王女であったマーガレットの変わりとして娶った妻との間に、子を成す事を考える事などできなかったのだ。少し色が違えど、そっくりな彼女でも、それは本物のマーガレット王女ではない。
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