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第二王子アークトゥルス
第二王子は絶望し切望する
しおりを挟むアークトゥルスは力なく、ラビリアの隣に倒れるように横になった。
「ラビィ・・・」
「アーク様・・・」
「こんなことになってしまって・・・すまない」
「謝らないでください。まるで過ちを犯したいみたいではないですか」
「過ち・・・」
「アーク様、心配はいりません。そんなに怯えないでください」
「・・・怯える・・・?」
アークトゥルスの身体は小刻みに震えていた。ラビリアに言われるまで、自身が震えているとは気づかなかった。
(僕は怯えて・・・何に・・・ラビィを傷付けた・・・失うのが怖い・・・)
「ラビィ・・・」
アークトゥルスは縋り付くように、しっかりとラビリアを抱きしめた。ラビリアは、アークトゥルスの髪を梳きながら優しく頭を撫でた。
「らびぃぃ・・・うっ・・・ひくっ」
「アーク様、何も心配はいりません。ラビィはここにおりますよ?」
「らびぃぃぃ・・・らびぃぃ・・・うぐっ、ぐずっ・・・らびぃぃ・・・」
ひとしきり泣いて落ち着いてくると、冷静になった頭にある事が浮かんできた。
「ラビィ、結婚式を早めよう」
「何故です?」
「こんな事になってしまった以上、もし子ができてしまったら、お腹が目立ってしまうだろう?婚前交渉もよくないし・・・」
「心配は入りませんよ?」
「しかし!結婚式は大事だ!一生に一度だぞ?それを最高の状態でできなかったなんて、悔いしか残らないじゃないか・・・」
「アーク様、私を見てください」
「ラビィ・・・」
「ご心配いりませんと言ってるでしょう?」
「何故だ・・・どうして・・・あっ、そうか、そうなんだな・・・こんな僕は嫌いか・・・捨てるのか・・・」
「何を言ってるんです、捨てませんよ。一度屋敷に戻って、お父様にこうなる事の許可を貰いました。その後、王太子様のところへ行き相談をした上で、馬車を出してもらったのです。避妊薬を飲みましたので、なんの心配もありませんわ」
「ラ、ラビィ!身体は大丈夫なのか!?・・・そこまで・・・してくれていたのか・・・」
「アーク様はきっと気にされると思ったのです。お優しいアーク様の事です、きっと盛大に後悔なさると思っておりました。後悔して辛い思いを持ったままにはして欲しくなかったのです」
「ラビィ・・・僕の事は何でもお見通しか・・・」
「何年一緒にいると思っているのです?もう、小さいうさぎではないのですよ?」
アークトゥルスはラビリアの肩に顔を埋める。
「お願いだ・・・僕を・・・僕を、捨てないで・・・」
「捨てません、捨ててあげません。ラビリアはアーク様のものです。アーク様が手放さない限り、離れてあげません」
「手放すわけないよ!こんないい女、手放すわけないだろう!」
「ふふっ」
「なんで笑うの・・・」
「こんな弱ったアーク様初めてです」
「格好悪い・・・僕は嫌だ。格好いい僕だけ見せたいのに」
「それでは飽きてしまいますわ」
アークトゥルスは慌てて顔を上げる。
「えっ!?それは困る!絶対に嫌だ!ラビィに飽きられてしまったら・・・僕は生きる屍になってしまう・・・」
「そこは死んでしまうとかではないのですね?」
「あぁ、ラビィがこの世にいる限り、僕はこの世から離れられる気がしない。だから死ぬ勇気はない」
「聞いてください。私のお父様の話。お母様に言ったそうです。君の魅力は誰も気付かなくていい、僕だけが知っていればいいんだって。あのお父様がそんな事を言うのですよ?
弱いところも、格好悪いところも全て含めてアーク様です。私だけに見せてください。皆様が知らないアーク様は、私だけのアーク様です。格好悪いアーク様も愛おしいのです」
「ラビィ・・・もう、僕はラビィなしでは生きていけないよ・・・ラビィは僕にとっては空気のような存在だな。いつも当たり前にある。なかったら息ができなくて苦しくて死んでしまう」
「アーク様がきちんと息ができるように。当たり前の毎日が大切に思えるように、いつまでもお側におりますね」
「ラビィ・・・ありがとう・・・愛してる。ラビィだけをずっとずっと愛すると誓う。だから、どこにも行かないで。僕の側にいて・・・ラビィ、愛してる」
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次回
またかくれんぼが始まったよ
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