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第一王子レグルス

王子に耳と尻尾が見えた

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レグルスが学園で最終学年の時、リシェルが入学してきた。レグルスは毎日リシェルをジャンク侯爵家まで送り迎えしている。朝は1学年の教室まで送り、クラスの男子生徒に牽制をしてから自身のクラスへと戻っていく。時間があればすぐリシェルの教室へやってくる。ランチも一緒、帰りもすぐに迎えにくる。もう、暇さえあればべったりだった。周りの生徒は二人の隙に入ることさえ叶わない。それは、レグルスの牽制のせいでもあった。男子生徒達は言う。


「ジャンク侯爵令嬢に手を出そうもんなんら、レグルス殿下に殺されるな・・・」


レグルスが学園を卒業し、リシェルが通う残り2年の間も、送り迎えは必ずレグルスが行った。


「リシェ、数時間会えないのがさみしい」

「帰りもまた迎えにきてくださるんでしょう?」

「それはもちろんだ!リシェ、他の男と話すなよ?他の男を見てもダメだ」

「仕方のないこともありますわ。好意をよせているのはレグルス様だけです」

「うぅぅん・・・それでも不安なんだ」

「行ってきますのキスでもしますか?」

「へっ!?こ、こんな所でか!?」


今は馬車から降りて、校門の前であり、登校する生徒達がたくさん通りすぎている。


「レグルス様がしてくれないなら、他の人を見つけないといけま・・・んっ」


レグルスは慌てて口を塞ぐようにキスをした。まわりの目など気にする余裕はなかった。他に人を見つけるなど言われては、不安がさらに大きくなってしまったのだ。


「リシェ、今日は帰ろう!こんな所にリシェを置いておくのは不安だ!リシェが他の男に掻っ攫われるかもしれん・・・リシェ・・・他の男の事など考えれないようにしなくてはならんな・・・帰って、たくさんキスをして、何も考えられないように・・・」

「それでは、レグルス様、帰りもお待ちしてますわね」

「えっ!?リシェ!!」


気付けばリシェルはだいぶ離れた位置にいた。


「リシェが遠い・・・」


護衛についていた黒紫星の影と御者に支えられ、王宮に戻された。他の男にとられやしないかと、そわそわして執務にも身が入らない。バージルに呆れられながらも、なんとか執務を終わらせ、急いで学園にリシェルを迎えに行く。いつも通りの時間に迎えにきたがリシェルが一向に出てこない。


「リシェになにかあったんじゃないか!?他の男に言い寄られて・・・はっ・・・もしかして、他の男に力付くで押し倒されているかもしれん!!」


もうこうなるとレグルスをとめられるものはいない。


「リシェ!どこだ!?リシェー!!リシェがいない・・・攫われたのか?なぁ、リシェ見てないか?リシェ、どこだ!!」

「ジャンク侯爵令嬢なら先生のお手伝いで図書室に向かわれましたが?」

「そうか!助かった」


生徒の一人に図書室に向かったことを聞いたレグルスは一目散にかけて行った。


「リシェ!」


図書室に飛び込んだレグルスには、信じられない光景か目に入った。本を取ろうとしていたリシェルの後ろから、覆いかぶさる男が目に入った。正確には同じ本に手を伸ばす男がいた。


「貴様、リシェに手を出すな!」

「はい?」

「レグルス様?」


レグルスは勢いよく駆け出すと、リシェルを抱きしめ、自分の腕でしっかりと抱きしめて、床に崩れるように座った。


「リシェ・・・」

「レグルス様どうしたのです?」

「どうもこうも、危ないじゃないか!他の男に襲われるところだったんだぞ?」

「他の男って・・・先生ですよ?」

「こいつは俺の同学年だった男だ!教師になったばかりでまだ若い!何が起こるかわからないんだぞ!」

「はぁ、レグルス殿下はちっとも変わりませんね?あまり執着が酷いと嫌われますよ?」

「なっ・・・嫌われ・・・僕がリシェに嫌われ・・・そんな・・・」

「先生は届かなかった本をとっていただこうとしただけです。勘違いはダメですよ?ちゃんと謝りましょう?」

「・・・うっ」


「ごめんなさいも言えない王子様は嫌いです」

「そんな・・・カール・・・すまなかった」


怒られた犬のように耳と尻尾が見えた。どうにも、きゅーんと鳴いているように。



「はははっ、未来の国王もジャンク侯爵令嬢には頭があがらないのか」

「リシェに嫌われたら・・・いぎでいげないぃぃぃ・・・」


レグルスは、ぐずぐず泣きながら、リシェルの肩に頭をぐりぐり押し付けている。


「レグルス様?泣かないでください」

「だっでぇぇ・・・」

「レグルス様がもう離さないとおっしゃったんでしょう?私も離れないつもりですが、ダメなんですか?」

「ダメじゃないぃぃ・・・ずっどいっじょぉぉ」

「こりゃ、子どもと一緒じゃねーか」

「ふふっ、可愛いでしょう?」


リシェルはそっとレグルスの頭を撫でた。


「レグルス様、帰りましょう?ジャンク侯爵家にしますか?王宮にしますか?」

「ん?屋敷に帰るんじゃないのか?」

「あら、明日は学園がお休み・・・」

「王宮に行こう!今日はリシェは王宮にお泊まりだ!離さんぞ!もう、このまま連れて帰る!!」

「ちょ、ちょっと、レグルス様!先生から頼まれてた本を届けないと!」

「どれだ?俺が持っていく」

「持ってはいますが・・・」

「じゃあ、このまま行けばいいな。カール、邪魔した」

「はいはい」


今日も明日もずっとリシェルといられるとわかると、鳴いていた犬はどこへやら。リシェルを抱えて颯爽と歩くレグルスは王子様そのものだった。


この日を境に、迎えにくる時は学園内を探し回るようになったレグルス。


「リシェどこだ!リシェ!」

「リシェがいない!攫われた!」


学園内を探し回るレグルスはもう名物だった。



リシェルが卒業を迎え、学園では、卒業パーティが開かれた。リシェルに向けられる視線に、他の令息を牽制し、ひとときも離さず、ダンスはレグルスとのみ。誘ってくる令息の手は全てレグルスが払い退ける。ドレスやアクセサリーは、全て自身の瞳の色と同じサファイヤ色で飾り立てた。




ーーーーーーーーーーーーーー


次回


一体、どこでそんなおねだりの仕方を覚えたのかな?


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