上 下
26 / 211

26、月夜のデート

しおりを挟む
ミーティアがライアンに襲われる事件が発生した。

お互いの存在と温もりを確かめるように寄り添って過ごした。

陽も落ちて暗くなった頃。

「ティア、月夜のデートにお誘いしても?」

「うん!」

「ははっ、寒いからあたたかくしてな」

二人は昨晩と同じ庭園に向かい、ベンチに並んで座ると静かに星を眺めた。


バージルは、どう話を切り出すか思案していた。しばらくして、バージルは自分の不安と揺らいでる気持ちを露わにするようにミーティアに問いかける。


「ティア・・・」

「なに?」

「俺はしがない子爵家の次男で、跡取りでもない」

「そうなのね」

「騎士団でも役職にも就いてないし、目立った功績もない」

「知ってる」

「歳も10離れてる」

「そうね」

「先に死ぬかもしれない」

「そんなの時が経ってみないとわからないわ」

「地位も名誉も、何も持ってない男だぞ」

「ジルがいてくれればいい」

「・・・」


あまりにも当たり前のように返答してくるミーティア。バージルは意を決して話を進める。


「陛下がデビュタントの夜会で、ミーティアの婚約を発表するらしい」

「何よそれ、聞いてないわ!」

「陛下のお考えで」


バージルの言葉を遮り、感情を露わにする。


「お父様ったらわたくしに何も聞かずに決めるなんて!ジル以外認めないって今日話したばかりなのに!わたくしお父様に抗議してくるわ!」

立ち上がり駆け出そうとするミーティアを、バージルは腕を引いて抱き止める。

「待て」

「あんまりよ・・・」

ミーティアのサファイアのような瞳が次第に潤み出し、耐えきれず涙が落ちた。

「ティア、最後まで聞け。まだ何も話してない」

「うっ・・・いや・・・聞きたくない」

「じゃあ、夜会のエスコートはできないな」

「うっ・・・バージルがいい、バージルじゃなきゃダメなの」

「陛下はな・・・夜会のエスコートを任せる事に、条件を出された。覚悟ができたならエスコートをもって意を示せと」

「条件って?お父様は何を?」

何も言わないバージルをミーティアが不安そうな顔で覗き込む。

「・・・ジル?」


「陛下は・・・陛下からのお言葉だ。ミーティアが選んだ男を婚約者とする。お前に覚悟ができたなら、夜会でのエスコートをするようにと」

「それって・・・」

「ティアが選んだ俺を認めて下さっている。夜会で婚約発表を行い、周知すると・・・」


「ジル・・・は、嬉しくないの?」

「嬉しいよ・・・だが・・・」



バージルはあと少し、あと少しの、一歩を踏み出す為の勇気が欲しかった。







ーーーーーお知らせーーーーー

近日、新作投稿開始します

仮タイトル

【影、落ちました】

王家の侍従で影としての裏の顔も持つノアール。ある日、落ちてしまう。屋根から!?

感情を表に出さないノアールは、ある1人の令嬢から絆され、感情に抑えが効かなくなってしまう。

別人のようになってしまったノアールは、独占欲丸出しの、まるでじゃれつく大型犬!?

女性にべったり独占欲丸出し、怖がり甘えたな年上男子が好きな方は是非!!




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

若社長な旦那様は欲望に正直~新妻が可愛すぎて仕事が手につかない~

雪宮凛
恋愛
「来週からしばらく、在宅ワークをすることになった」 夕食時、突如告げられた夫の言葉に驚く静香。だけど、大好きな旦那様のために、少しでも良い仕事環境を整えようと奮闘する。 そんな健気な妻の姿を目の当たりにした夫の至は、仕事中にも関わらずムラムラしてしまい――。 全3話 ※タグにご注意ください/ムーンライトノベルズより転載

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

婚約者が巨乳好きだと知ったので、お義兄様に胸を大きくしてもらいます。

恋愛
可憐な見た目とは裏腹に、突っ走りがちな令嬢のパトリシア。婚約者のフィリップが、巨乳じゃないと女として見れない、と話しているのを聞いてしまう。 パトリシアは、小さい頃に両親を亡くし、母の弟である伯爵家で、本当の娘の様に育てられた。お世話になった家族の為にも、幸せな結婚生活を送らねばならないと、兄の様に慕っているアレックスに、あるお願いをしに行く。

女性執事は公爵に一夜の思い出を希う

石里 唯
恋愛
ある日の深夜、フォンド公爵家で女性でありながら執事を務めるアマリーは、涙を堪えながら10年以上暮らした屋敷から出ていこうとしていた。 けれども、たどり着いた出口には立ち塞がるように佇む人影があった。 それは、アマリーが逃げ出したかった相手、フォンド公爵リチャードその人だった。 本編4話、結婚式編10話です。

可愛すぎてつらい

羽鳥むぅ
恋愛
無表情で無口な「氷伯爵」と呼ばれているフレッドに嫁いできたチェルシーは彼との関係を諦めている。 初めは仲良くできるよう努めていたが、素っ気ない態度に諦めたのだ。それからは特に不満も楽しみもない淡々とした日々を過ごす。 初恋も知らないチェルシーはいつか誰かと恋愛したい。それは相手はフレッドでなくても構わない。どうせ彼もチェルシーのことなんてなんとも思っていないのだから。 しかしある日、拾ったメモを見て彼の新しい一面を知りたくなってしまう。 *** なんちゃって西洋風です。実際の西洋の時代背景や生活様式とは異なることがあります。ご容赦ください。 ムーンさんでも同じものを投稿しています。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

処理中です...