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15、君だけ特別だ

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王妃が去った応接室で、テオドールとバージルは無言で天井を仰ぎ、ソファに体を預けていた。

テオドールがぽつりと呟く。

「王妃様は長年苦しい思いをされていらっしゃったのだな・・・」

「ああ、気丈に振る舞っていらっしゃるのが嘘みたいだ」

「お気持ちにお応えする事で、王妃様の心を軽くして差し上げる大役を任されてしまったな、バージル」

「ああ・・・しかし、少し引っかかった事がある」

「何をだ?」

「王妃様は途中、運命だとおっしゃった・・・」

「ああ、確かにな」

「運命か・・・どういう意味なんだろうな」

それからどうやって自室に戻ったのか覚えていない。気付けばベッドに腰掛けていた。

気付いた事実と知らされた過去に少しだけ、いやかなり心が掻き乱されていた。

本当に自分でいいのか。

彼女を幸せにできるのか。

最初はそんなことを考えていた。

しかし時間が経つにつれ、彼女の手を取る自分がいて、彼女を抱きしめる自身を想像する。

他の男が彼女と・・・考えがそうなった時、バージルははっとした。

「俺はミーティア王女殿下が好き・・・なのか」

思考を巡らせているうちに、自分ではない他の男が彼女の隣に立つ。

その事に胸が痛み、嫌だと思う自分がいた。

バージルは遅い初恋をしていた。



ある日の昼下がり、バージルはテオドールから頼まれた警備計画書を、第一騎士団に届けた帰りに王宮の通路を歩いていた。

ふと視線を向けた先にキラキラ光る金色が目に入った。

ミーティアがいた。

ミーティアのすぐ後ろには、背の高い若い男の護衛騎士がついていた。

その光景をしばし見つめていたバージルは、胸にちくっと痛みを感じた。

護衛騎士の立つその場所に、嫉妬している自分がいたのだ。

(俺・・・やっぱり・・・)

溜め息をついて立ち尽くしていたバージルに、ミーティアが気付いて駆け寄ってくる。

また突進してくるのかとバージルは身構えたが、衝撃は訪れず一歩手前で止まったようだ。

「ごきげんよう、ミーティア王女殿下」

「ごきげんよう、バージル。こんな所で会うなんて珍しい!どうしたの?」

ミーティアは不思議そうに首を傾げている。

(うん、可愛いな)

「テオドールに用事を頼まれて、第一騎士団からの戻りですよ。

それにしても・・・押し倒さない事を学んだんですね」

「うっ、本当に悪い事してたって反省してるわ。

侍女から言われたのよ、バージルが怪我したらいけないから辞めましょうって。

もし打ち所が悪かったら記憶が無くなって姫様の事忘れてしまわれるかもって脅されたわ」

「よかったです、王女殿下の周りに良識な大人がいて」

「ちょっと、子供扱いしないで!」

「すみません」

「あっそうだバージル、これからはティアって呼んで」

「恐れ多くとも王女殿下、立場がありますので・・・」

「ティアって呼んで!」

「・・・参りましたね・・・ティア?」

ミーティアの顔がぱあっと笑顔になる。

(やっぱ天使だな・・・)

「バージルにだけ、特別よ」

「それは光栄ですね」

「敬語もやめて。最初に騎士団で会った時は敬語じゃなかったわ」

「あの時は、王女殿下だと知りませんでしたからね」

「ダメよ!敬語はなし!」

(ああ、これ諦めないやつね・・・)

「わかったよ、これでいいか?」

「うん!」

「君がティアなら、俺はジルだ」

「へっ?」

「俺の愛称だ」

「・・・ジ・・・ル」

「誰も呼んでないからティアだけ特別だぞ」

バージルがニカっと笑うと、ポカンと口を開けていたミーティアの顔が次第に赤く染まっていく。

(うわ・・・その反応は反則だろ・・・)

つられてバージルもほんのり赤くなってしまった。

その光景を、物陰から見ていた男がいた。

第二騎士団・副騎士団長のトーマスだ。

「これはこれは、報告しなくちゃねぇ」

トーマスは踵を返し立ち去った。





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