流星姫は平凡騎士をご所望です

１１、あの頃と変わらない

食堂を出て、預けていた馬を取りに向かおうとしていたところで、声をかけられた。

「あら、テオドールにバージルじゃない？」

「ん？ああ、エミリアか」

「なに、バージル、そのなんだお前かみたいな反応！」

勝気な女は、ワルシャワ公爵家長女エミリア２５歳。近衛騎士団・騎士団長レオニード、第一騎士団・騎士団長クリスフォードを兄に持ち、テオドール、バージル、トーマス、エミリア、エミリアの双子の妹シルビアは、学園で同学年だった。

「別にそんな意味で言ってねーよ」

「そうにしか聞こえないように言ってるじゃないの！」

「まあ、二人とも、人目があるからほどほどにな」

バージルとエミリアは、顔をあわせれば口喧嘩をする。

どちらかと言えば、エミリアの方が過剰に反応するだけなのだが、毎回近くにいるテオドールが仲裁に入る事になる。

「こんな時間に二人でサボりでもしてたんでしょ？」

「お前さ、そんな言い方しかできねーのかよ、だから嫁の貰い手がないんだよ」

「何ですってーーー！！！」

エミリアがバージルを追いかけまわす。

こうなるとエミリアの体力がなくなるまで、手の付けようがない。

「テオ・・・」

後ろから声を掛けられ振り向くと、そこには双子の妹であるシルビアがいた。

「テオ、いつもエミリアがごめんなさい」

「いや俺は単なる観客だ、何も迷惑はしてないから心配するな」

「でも、いつもエミリアをなだめてくれるから」

「それでシルビアから心配してもらえるなら役得だな」

シルビアは顔が赤くなっているのを自覚し、うつむいた。

「テオは、まだ結婚しないの？」

「俺は、騎士団の仕事でいっぱいいっぱいだからな。

奥さんになった人に苦労かけさせたくないからね、まだきちんとは考えられないかな」

「そっか」

つい聞いてしまったものの、なんとなく気まずくなり、無言の静かな時間が流れる。

「ちょっと、待ちなさいよー！」

「まだ追いかけっこしてる・・・」

「あいつらは相変わらずだな」

テオドールが苦笑している横顔をシルビアはずっと見つめていた。

「逃げ足早いんだから！」

バージルを追いかけていたエミリアが、体力が尽きたのか戻ってきた。

「シルビア、用事済んだ？無駄に疲れたわ、帰るわよ！」

「うん、わかった」

「じゃあ、テオドール、またねー」

「ああ、気を付けてな」

姉妹は馬車に乗り込み帰って行った。

「やっと帰ったか、あいつ」

「まったくお前らはいつまで経っても変わらないな、まだ学園にいるみたいだ」

「おっさんみたいな事言うな」

「あの頃二人は噂されていたな。懐かしいな」

「噂って？」

「二人は付き合ってる、あれは痴話喧嘩だって」

「おいおい、やめてくれよ、あんなガサツな女無理だぜ」

テオドールとバージルは昔の話をしつつ、馬を引き取って第二騎士団の詰所へと帰って行った。