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第1章異能バトルの世界へ
第4話 盆陣鵺楼という男
しおりを挟む俺と妹には名前も親もいない。いや。記憶がないのが正しいか。
でも別にどうってことはなかった。俺には妹がいたから。妹さえいればいい。……妹さえ“幸せ”なら何でも出来た。
陽炉には感謝してる。途方にくれボロボロになった俺達を救ってくれたのもアイツだ。陽炉がお世話になっていた孤児院へ俺達を連れて行って手続きしてくれた。陽炉は【公安警察】のトップで常に忙しく子育て出来る環境ではない。何度も俺達に謝っていたが別に気にしなくてもいいのに。
ただこの孤児院は“問題”があった。院長の爺がロリコン変態爺だった。陽炉は“そのこと”を一切知らなかったらしい。………陽炉に欠点があるとするなら自身を拾ってくれた院長を信頼し過ぎ調査することを少々怠ったことだ。
妹が爺のターゲットになり手を出されそうになった。俺はぶち切れていたと思うが思考は逆に冷めていた。
………体温も急激に下がってく感じがした。普通なら逆に体温が上がっていくものじゃないかって?俺もそこは知らん。
ただあの時は目の前の“汚物”を消すことだけを考えていた。
気がつくと院長を始めとする孤児院の関係者は全員死んでいた。孤児達は皆俺を“化け物”のような目で見ていたが妹だけは俺を抱き締めて“助けてくれて。ありがとう。”なんて言っていた。……血濡れていた兄に抱きつくなんて無防備にも程があるかもしれない。………だがあの頃の俺は妹の優しさに救われていたのかもしれない。
普通なら俺は捕まり少年院に入る所だったが陽炉と“彼の裏の仲間”が全て揉み消した。
“院長と孤児院関係者の奴らの意見の食い違いによる乱闘”。そう片付けた。勿論バレない様に陽炉は隠蔽もした。俺は別にそんなことはしなくていい。俺を付き出せば全て解決すると陽炉に訴えたが陽炉はただ笑って“何も心配するな”と言って笑っていた。可笑しな男だ。己がもっとも嫌う犯罪に手を染めてまで俺達を救うなんてこの男に何のメリットがある?俺は陽炉の行動が理解不能だった。
残された孤児の子供達は何故かあの時あった惨劇の記憶が一切なくなっていた。周りの連中はショックで記憶を失ったとでも思っているのだろうが多分“陽炉の仲間”が何かしたに違いない。陽炉にはこのような芸当は出来ないだろう。まぁ。俺は妹が無事ならそれで良かった為追及はしなかった。俺と妹は結局陽炉が引き取ることになった。やはり仕事は忙しい為俺達といる時間は少なかったが空いた少ない時間を休むことなく俺達に費やしてくれた。
それから陽炉は少し変わった。信頼する相手でも警戒を怠らなくなった。……少し疲労で痩せてしたな。休息さえ俺達が重みになり取れない状態だ。………このままでは陽炉が疲労で倒れてしまう。俺達は早く自立し陽炉を解放しなければいけなかった。
ただ二人で生活するにも“金”がいる。金を稼げる方法を探していたがまだ餓鬼だった俺を雇う所はいない。八方塞がりの状態だったがふて寝していた陽炉がつい先まで読んでいたであろう散らばった資料を盗み読んだ。そこには【標的】と記された男の情報が載っていた。何々ふーん。………どうやら人身売買を“裏”で行っている腐れ外道らしい。
要するに陽炉は公安の仕事をやりながら裏で法律で裁けない奴らを消していっているみたいだ。
「?何見て………!?ッ見るな!!」
陽炉は焦って俺から資料を奪おうとしたがそれを避け、そのまま資料の内容を詳細まで細かく読むことが出来た。“法”で裁けない奴を殺して金を稼いでるのか。なる程ね。
「良いじゃん。……コイツを“殺す”んでしょ?俺にヤらせてよ。陽炉。」
“殺す”ことは俺にとって“簡単”だった。院長達を殺す時俺は何も感じなかった。ただ目の前の“ゴミ”を処理するだけの作業。ただそれだけ。……“金”が欲しい俺からすれば都合が良かった。
「………………お前は…何言ってるんだ?」
陽炉が理解が出来ない顔をしてて笑った。ただ単純のことなのに。俺が餓鬼だからか?
「だからさ俺を使えよ。俺は金が欲しいし陽炉もコイツの様な“ゴミ”を排除したい。Win-Winじゃん。」
“条件”は悪くない案件だと思うが陽炉は決して首を縦に降ることはなかった。お人好しめ。
納得出来ないのなら実力を見せればいい。俺は陽炉に気づかれないように【標的】の情報をかき集め先回りをすることにした。
◆◆◆◆◆◆◆
ーーーー森林に囲まれた人気のない廃坑ビル。“人身売買取り引き”現場。
「よ!遅かったな。陽炉。」
「……これはッお前が?」
俺が座っているのは【標的】の死体。そして周りにはその部下達の死体の山。全員俺が殺した。ついでにいた“取り引き相手側”も一緒に始末した。準備運動にもならなかった。体が思うまま動いている。どうやら俺の体には“殺しの才能”があるらしい。
「ああ。これで“合格”だろ?陽炉。」
「本当にッお前は無茶苦茶だよ!!………ああ。合格だとも!!ただッ!!無茶は絶対するな。………それを守れんのならこの取引はなしだ!!」
ようやく“お人好し”の陽炉に認められ俺は【標的】を次々に殺して行った。お金を稼ぎ続け結構金が貯まった。俺達はある程度大きくなったら陽炉の元から出ていった。そして二階建ての家を買った。妹には“何も教えていない”。未成年でも雇えて貰える≪夜の道路警備員≫をやっていると誤魔化している。
俺は妹の平穏の為に“裏の顔”を隠し続けている。だから“表”では俺は“凡人”でいなくてはならない。それよりも面倒くさいのは嫌いだ。
「お前達名前は本当に“それ”でいいのか?」
「ああ。“これ”がいい。」
「私も!!」
俺達の名前は“自立”するまでつけない様に陽炉にも言っていた。そして名前は二人でもう決めていたのだ。
「【盆陣 鵺楼】に【盆陣 織田姤】ね。……“凡人野郎”に“凡人オタク”って適当過ぎないか?」
「馬鹿だな。適当で良いんだよ。俺達は。な?」
「うん!!」
陽炉は最後まで名前を変更することを進めたが俺達は割りと気に入っている。
そこから俺達兄妹の新たな生活が始まった。
二人で暮らす生活に慣れ始めた頃“師匠”の消息が途絶えた。俺も探したが少しの情報も見つからなかった。まぁ。あの人なら大丈夫だろ。俺が“唯一勝てなかった人”だし。仕事には支障はなく師匠の腹心に仕事の後釜をさせていた。こうなることが分かっていたのか。あの人。
ーーその1ヶ月後。俺達はいつも通り平和に暮らしていた。…………妹が結婚して送り出すまで俺の役目だった。
………だが“白梟の集団”に襲撃され全てが水の泡になってしまった。
爆破しても奴らは“無傷”だったが俺は深手を負いながらも奴ら全員残さずに始末した。呼びつけた陽炉が迎えに来るまで妹を安全を確保しようとしていたが。
気を失っている妹の頭上に瓦礫が降り注ぎそうになり俺は瞬時に飛び走り妹を安全な場所に投げ飛ばすが俺は瓦礫にそのまま押し潰されてしまう。妹とは泣きじゃくっていたが陽炉が俺の想いを察して強引に妹を車に乗せてこの場から離れていってくれた。陽炉には餓鬼の頃から世話になってばかりだ。アイツは俺達兄妹にとって“父親”のような存在だった。
ありがとう。陽炉。お前がいてくれて良かった。
妹が守れたのなら悔いはなかったがまさか俺が“漫画の世界”にトリップするとは思わなかった。
そういや白梟の奴ら“やるべきことは終わった。最後のパーツは揃った”と言ってたな。俺が≪イノセン≫の世界にトリップしたのは奴らのせいで間違いない。
その“最後のパーツ”とは俺のことだろう。不意を喰らった際に奴らの一人に触れた左側の脇腹には気づいたら≪11≫という印が浮き上がっていた。
ということは俺は≪11人目の異世界人≫ということだ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
【氷河のPhantom本拠地≪Alastor≫ーーー黒磯棗の部屋】
氷河のPhantomの本拠地【Alastor】に張ってある結界を心臓部である制御装置≪雪水晶≫を破壊する為に“裏切り者”だった 雷迅 銀が部下達を引き連れて【Alastor】の襲撃に掛かっていたが仲間の一人が俺とメイドである【華原 桃花】ちゃんがいる部屋に襲撃し俺の“逆鱗”に触れたブタ野郎を始めとする殆どの襲撃者達を次々に殺していったのである。
なんやかんやで結界的に俺が雷迅止め、何故か雷迅に懐かれてしまったのだが“全てを知っていた”であろう黒磯 棗が突然現れ雷迅は何処かに飛ばされてしまった。黒磯棗に俺は拐われ何故か桃花ちゃんはにこやかに“いってらしゃいませ”と手を振って見送りをしていた。
そして今。黒磯棗の【瞬間移動】で黒磯 棗の部屋にいるのだが……。
「……あの。いい加減離して貰いますかね。棗さん?」
「………………………やだ。」
ベッドに投げられ黒磯も横になり、そのまま“抱き枕”状態になっていた。後ろから俺の腹を腕でホールドして強く抱き締められるから身動きも取れん。………あれから何時間経った?
「せめて風呂に入らせろ。」
「……一緒に入るのならいいよ。」
「え。絶対やだ。」
「…………ムスッ………じゃあ駄目。」
この野郎~。ふざけんな!返り血でこっちとら気持ち悪いんじゃボケッ!!
何さっきから不機嫌なんだ?コイツは。
「いいからHA☆NA☆SE!!」
「い・や・だ。」
コイツ~!!成人過ぎまくりの爺の癖して駄々捏ねやがって!!織田姤さ~ん。見て下さいよ。貴女がお熱だった黒磯棗のこの姿を!いくら美貌が凄くてもこれは貴女も幻滅するんじゃ………。
俺はそっーと後ろに顔を向け黒磯の“無様な姿”を腹いせに拝むことにしたが………駄目だ。キラキラしてやがる。これは只の不機嫌な美青年の図にしかならん。クソッ!!イケメン○ね!!
「はぁ……。お前さぁ。何怒ってんだよ?」
「……………………。」
「無視かい!」
不機嫌になる原因が分からん!!逆にコイツに感謝してもらっていいだろうが!!手を出さないって言ったのに結果的にコイツの城を守ってやったしな。
な・の・に!!この野郎!!ずっと不機嫌なんだよ!!黒幕にずっーーと抱き枕されてる“一般人”の俺?疲れるわ!!
「…………だって。……………」
「あ?」
「僕が知らない間に銀君と仲良くなったのが気に入らない。」
「殴っていいか?」
マジで本気で殴っていいか?コイツ。今はうざったい幹部二人がいないし。
雷迅と仲良くだぁ?知らねぇっつうの!!ていうか“それ”もお前の計画の内なんだろ!!分かってて俺と雷迅を留守にさせたんだろうが!!
「僕の方がずっーーと君のこと“大好き”なのに。」
「…………お前さ。」
更に黒磯の腕の力が籠る。……これはこの世界についてずっと不可解に思っていた。
「なんでそんなに“俺”に執着するんだ?」
「………………………。」
コイツと俺は“初対面”の筈だ。……少しばかり普通の人間とは違うモノがあるからといって≪この世界≫ではそんな奴はそこら中にいる。
それに俺を見るコイツの眼差しが明らかに“最愛の人”を見ている目だ。雷迅の奴も俺のことを“違う何か”に見間違えていた。俺の推測からして俺の容姿はどうやら黒磯棗の亡くなった想い人に似ているらしい。………ん?奴の“想い人”ってすげぇ美人だと言っていたが俺に似ているとなるとそうではないらしい。
「………この際だから言っておくが俺はお前の想いには答えられないし。お前の“想い人”に俺を重ねても迷惑だ。」
結構キツイかもしれないが言うことは言っておかないと後々が面倒くさくなる。
それにコイツの“想い”に甘えてこの境遇にいるのは俺はごめんだね。
これで黒磯も現実に戻るだろう。……てっきり俺は黒磯の“想い人”の容姿は生まれ変わりである白石 氷華に似てるかと思ったが違うのか。
「っ。」
泣いてしまったか。………流石に言い過ぎたかも。確かに“想い人”に似た奴が現れたら懐いてしまうわな。黒幕でもコイツにも色々あったんだろう。
「………棗。………その悪い。少し言い過…。」
「っあははっ!!もう駄目!!笑っちゃう!!」
泣いているかと思いきや大爆笑。え?え?なんで?コイツが分からん。マジで。
「最っ高だよ!!告白されても的確にすぐ断る所なんて本当潔良いね!!鵺っくんは~!!あっ~可笑しい!!」
「待て待て。待て!!」
「ん?」
ここは一旦状況整理。頭が追い付かん。
「座れ。」
「え~。」
「座れ!!正座!!」
「はいはい。」
黒磯をベッドの上で強制的に正座させ俺は胡座をかく。
「………で?何が可笑しいんだ?笑う要素あったか?あ?」
「……ふふ。だって鵺っくん馬鹿なこと言ってるもん~。申し訳なそうにしてる所も可愛いったらもう!」
「馬鹿ぁ!?可愛いだぁ!?」
俺可笑しなこと言ったか?いやいやまともなことしか言ってないよな?
「馬鹿だよ。鵺っくんはさ。“前”から馬鹿だよ。」
「は?“前”からってなんだよ?」
意味が分からん。何柔らかい笑みしてんだこら。何も和む要素ないだろ。
「………“今は”分からなくていいよ。ただこれだけは覚えておいて。僕は君だけを“ずっと愛してる”。」
愛おしそうに俺を見ているその顔が何故か俺は“懐かしく……そして苦しかった”。
なんでそんな感情が流れてくるのか分からないがいい気はしない。言葉では違うと言っているがやはりコイツは俺を通して“想い人”見てるんじゃないのか?
「は?だから“想い人”と重ねーー。」
「違うよ。重ねていない。……何れ分かる時が来るさ。君にも。」
何故そんな真剣な顔で違うと言い切れる?俺には“何がある”と言うんだ?コイツは俺に何を望む?
「お前ってさ。マジ意味が分からん。」
「ふふ。“よく言われる”。」
あ”ーー!!腹立つ!!意味が分かんないことばかり頭がパンクしそうだ!!
「ほら。機嫌が良くなったのなら俺を元の部屋に戻せ。ついでに≪修復≫で綺麗にしろ。」
「え~。一緒に寝ようよ。」
「寝るか!!ボケッ!!」
もういいや。面倒くせぇ。コイツに言うだけのことは言った。後は俺の好き勝手やらさて貰うわ。
黒磯の異能力の一つ≪修復≫で俺と雷迅がバトった地下室での崩壊していた所全て瞬時に元通りにしていた。俺の案内された部屋も滅茶苦茶に崩壊してたからついでに直して貰おうっと。
…………なんかここに来て疲れることばかりじゃね?あ”ーー!!!!ここから早く逃げてぇぇ!!
◆◆◆◆◆◆◆
【黒磯side】
鵺っくんを無事に部屋に送った後、彼の要望通りに壊れた部屋を≪修復≫して元に戻してあげた。鵺っくんは返り血浴びすぎて気持ち悪かったのか。そのまま急いではしゃぎながらシャワー室に入っていった。ふふ。可愛い。
離れたくなかったけれど鵺っくんを少々苛め過ぎたのか怖い顔してたなぁ~。そんな所も可愛いんだけど。
鵺っくんには出来るだけ素顔でいるのは控えて貰わないと“幹部達”……と“他の国の王達”には彼の“素顔”を見せる訳にはいかない。
特に“炎の王と光の王”には。
この世界では【光の王国】を軸とした9ヵ国の国が囲んである。
≪西の大陸≫
【風鈴と風車に囲まれた風の街:シルフィタウン】
【宝石と鉱石が溢れる大地の国:ガイヤシティー】
【娯楽と欲望で賑わう金の国:クリューソス】
≪南の大陸≫
【花と聖女を称える翠の国:フラワーガーデン】
【毒の霧と沼地が広がる毒の国:ヴェレーノパルーデ】
≪北大陸≫
【歌と音を奏でる水の都:アクアミローディア】
【機械人形と発明を愛する電子の国:エネジーロイド】
≪東大陸≫
【和と雅を志す桜の国:桜乱華殿】
【龍と古き歴史が流れる炎の国:炎龍洸】
≪中央大陸≫
【秩序と正義を守護する光の帝国:ホーリーシャングリア】
彼らは平和と秩序の為に条約を立て同盟を組み、交流を深め国を脅かす国害級のモンスターを国で連携し討伐している。【光の王国】が取り仕切る【国家会議】を月に一回行われている。
実に滑稽だ。殆どの国の連中が“光の王”に支配されている構図じゃないか。だが無理もないだろう。【光の帝王】である≪剣聖・白石 聖夜 ≫は僕と同じ複数の異能所持者だ。それに加え神々の加護も備わっている為、敵に回すのは命取りだろう。コイツ一人で国を………いや世界に影響を及ぼす存在なのは確かだ。………まぁ。僕からしたらどうでもいい“存在”だけど。
白石聖夜は神々が造り出した≪最高傑作≫。短いサラサラな白い髪に銀河のような瑠璃紺の瞳。爽やかそうな好青年に見えるが腹の内は底が知れない男。
伝説級のあらゆる加護が備わった白い鎧、龍の頂点に立つ≪白龍の牙≫から造られた伝説級の剣を腰に常に装備している。
……■■の義兄だったこの男は義弟の■■にかなり執着をしていた。恋人だった僕にいつも敵対意識を向けてたっけ?…………実に不快だ。
……いざという時に弟のピンチに動かなかった奴がよく“最愛の弟”だと言えたものだ。この男だけは僕が残虐なやり方で散々苦しませてから殺してやるさ。
それは他の国の連中も同じことさ。この世界を“浄化”しなければ。
【金の国】と【炎の国】だけは唯一■■の救出に手を貸してくれた。≪金の王≫はいいとして■■を気に入っていた≪炎帝≫のことは気に食わないけど。………【炎の国と金の国】だけは残してあげるよ。……僕の邪魔をしなければね。
……世界ランクNo.2【炎の国】は“独立”しており唯一“光の王国”の支配下じゃない。“世界会議”には参加はしているみたいだけど。
主人公:炎羅寺 焔の兄にして【炎の国】の皇帝ーーーー≪炎帝:炎羅寺 暁煉≫“複数の異能所持者”だ。気功を操る武術の達人。異能なしでもこの男は強い。
背に紅い龍が描かれた皇帝服を身に纏う様は燃えさかる業火のような橙がかった紅色長い髪によく似合う。橙に焦がれる眼光には国を支えてきた歴戦の覇気が備わっている。
この男が一声発せれば軍全体が活気が高まり次々に敵を制圧させる。暁煉を支える【特殊軍隊】は過酷な修行で鍛え抜いた為か全員が武術のエキスパート。【炎の国】は“兵力”ならば世界ランクNo.1【光の国】を超える。それ程白石聖夜の実力が化物級だということ。
暁煉も龍神族の母を持ち半分が龍神の血が流れている≪半龍神人≫で武術の天才だから白石聖夜に並ぶ実力者だけどね。
国々の連中のほとんどは僕らの存在を気づいていない。
【憑依者】白石 氷華。【炎帝】炎羅寺 暁煉。【金の王】。【光の帝王】白石 聖夜。
以下この連中の以外は【氷河のPhantom】の存在を知り得ない。
……僕ら【氷河のPhantom】の本拠地である。
≪異空間≫
【終焉と絶望の狭間≪Alastor≫】
僕が支配する城は殆どの国に知り得ない未知の場所だ。地図にも“存在”していない。
主人公達にとってはここは“物語”の最終地点。
精々抗ってみせるといいさ。……もう誰にも“彼”を奪わせない。
その為には白石 氷華が持つ【星屑の涙】を手に入れなきゃね。……僕の側から離れない様に永遠に。
取り敢えずまずは銀君とお話しなければいけないな。
僕は銀君の部屋に【瞬間移動】をした。新しい黒スーツ姿の銀君は既に部屋にある椅子に座っていて僕の席まで設けていた。ついでに茶菓子まで用意してある。……毒は入れてないようだ。
「来たか。黒磯。」
「やぁ。銀君。準備が良いじゃないか。」
この男も■■に似た鵺っくんの存在が気になるんだろう。あれだけ■■に懐いていた男だ。無理はない。
「単刀直入に言う。あの方……鵺楼様は何者だ?」
「……………鵺っくんはね。」
察しがついたかな。あーあ。独り占めしたかったのに鵺っくんめ“素顔”を見せたら駄目じゃないか。………まぁ。あの銀君相手だもの。鵺っくんを攻めるのは違うか。
「………■■様の生まれ変わりなのだろう!?」
「…………………え?」
うん?
「そうなんだろ!?」
「え。あ~。」
ああ。そう取っちゃうんだ。そっか。“勘違い”しちゃったか。確信を得た顔で嬉しそうにキラキラしちゃって。……もしかしても茶葉陽も勘違いしちゃった感じ?
……………そりゃそうか。………まぁ。勘違いしてるのならそのまま勘違いしてればいいさ。
「…………そうなんじゃない?」
「?なんだ。その曖昧な反応は。」
「あはは。」
意外に二人は鈍いね。普段なら機転が利くのに。
鵺っくんは■■の生まれ変わりじゃない。それは彼の記憶を見て、より“確証”した。
■■は確かに“あの時”確実に“死んでいた”。
ふふ。人生何が起こるか。分からないものだ。
「嗚呼!なんという歓喜!!■■様の生まれ変わりであらせる鵺楼様をお守り出来るとは!!」
……ふふ。そうはさせないよ。君にはちゃんと“代償”を払って貰わなくちゃね。
「喜んでる所悪いけど。……取り敢えず“裏切っていた代償”として君には≪金の国≫に行って貰うからね。」
「な”っ!?」
「【金の王】からの伝言でなんか彼専用の護衛が体調崩して少しの間だけ“Sランク以上の護衛”が欲しいみたいだよ。」
【金の王国】と僕は繋がっている。彼の“要求”を叶える代わりにその報酬は多額の金が貰えている。流石は≪世界一大富豪≫な男だ。
「“金の王”なら俺など居なくても大丈夫だろ。」
「それが汗をかく作業はしたくないんだって。」
「はぁ!?一国の王なのであろう!?」
自分が一番な“ナルシスト”の彼らしい。銀ちゃんが怒っているけど仕方がない。
「報酬は既に貰っちゃったし。それに君は文句言えないよね?“銀ちゃん”?僕を“裏切ってる”から。」
「ぐぬぬっ。……承知した。」
偉い偉い。理解のある犬は好きだよ。……でも。
「分かってるとは思うけどーーーー次はないからね。」
「!?っ!!」
威圧を彼に放つと冷や汗を彼はかいていたがそのまま椅子に座っていて地に倒れることはなかった。苦しい筈なのに耐えているんだろうな。
「君は鵺っくんに救われていることを忘れるな。本来なら君は僕に殺されても可笑しくなかった。………鵺っくんに感謝することだ。」
「……ぐっ…!!」
“お仕置き”はここまでにするか。威圧を解くと銀君は呼吸を整えていた。
“これ”で済んだことを感謝するといい。
君は“原作”で裏切った日に【退場】していたのだから。
「それじゃ頼んだよ。」
「っ了…解…した。」
僕は銀君の部屋から出て行った。……白石聖夜には銀ちゃんが“既に失敗したこと”は仲間が帰ってない時点でバレているだろうな。
それにしてもあの最強の白部隊を一人で殆ど殺しちゃうなんてますます惚れちゃうな。鵺っくん。
君が来て僕は退屈しない。生きてる心地がするんだ。
………そういえば“現実世界”で鵺っくんを襲った“白梟の集団”。あの感じ何処かで?
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
【光の国:ホーリーシャングリア:聖なる宮殿≪聖領域≫】
【白石 聖夜side】
「それじゃ聖夜さん♡また来ますね♡」
「うん。いつでも気楽に来てよ。鈴。」
もう来ないで欲しい。鬱陶しいたらない。彼女は異世界から来た少女≪光坂 鈴≫。長い黒髪に翡翠の瞳をした若い娘だ。ヒラヒラとした服を着ている。………確か制服と言ったか?
どうやら僕に好意があるみたいだが興味がない。というよりあんな“下品な女”は心底無理だ。
………あれから連絡が誰からも来ていない。雷迅 銀死んだか?それとも裏切り?元々彼には鼻から期待はしていなかったが黒磯 棗がいる≪異空間≫に行くには幹部の一人が必要らしい。
「チッ……。使えないな。どいつもこいつも。」
ハッ!!いけないいけない。こんな悪い顔は英雄の≪剣聖:白石 聖夜≫の顔ではなかったな。
「ねぇ?君もそう思わないかい?」
僕は死にかけの白梟の仮面を被った無能の塵に笑顔で話掛けた。
「………ヒュゥッ………ヒュゥッ。…………」
ふふ。呼吸を荒げちゃって。大袈裟だな。ただ四肢を斬っただけじゃないか。
「…ヒュッ……お許…し下……さ…い!!聖……夜……ッ!!」
全く。軟弱だな~。まともに“仕事を出来ない”癖してまだ生きたいだなんて。
「は?許す訳ないでしょ?何言ってんの?」
「…………ヒッ!?ガハッ!!」
俺は思い切りコイツの顔面を殴った。……顔面の骨が折れる音がした。
「お前には僕の所に“あの子”を連れて来いと命令したよな?……で?お前が連れてきたのは?」
「ガッ!!…許…して…ぎゃあ!?…グフッ!?」
殴り続けた。感情に乗せて。
「俺に寄り付いてくる“下品な雌豚”じゃないか!!仕事しろよなぁ!!」
グチャッと潰れた感触がした。どうやらそのままコイツの顔面を潰してしまったらしい。……穢らわしい。鎧も汚れてしまった。後で替えを持って来て貰おう。
≪平行世界移動≫の能力を使って“秘密部隊である白梟達”を異世界にばらまけた。……全ては■■の為に。“11人の異世界人”を生け贄にして代わりに■■を蘇らせる筈だった。
だが“面白い発見”をした。……彼。≪盆陣鵺楼≫という男だ。この子は恐ろしい程に■■と瓜二つだ。
手に入れたい。鎖で繋いで僕だけのモノにしたい。
急いで部下にはここに連れて来る様に連絡を入れたんだけど今殺した奴は成果も上げずノコノコと帰ってきた。心底腹立たしい。
何処にいるか俺さえ分からない。……黒磯棗の所にいないことを祈るだけだ。
アイツは愛する弟■■を俺から奪った憎っき男だからな。……今すぐにでも殺してやりたいッ!!俺でもあの男の結界を破ることは出来なかった。黒磯棗め。それで上手く隠れたつもりかッ。ギリッ。
ふー。落ち着け。まだ時間はある。チャンスはいくらでもあるさ。………最後に笑うのはどっちかな。黒磯棗。
「それまで待っててね。“盆陣 鵺楼君”。」
…………… いつか“迎えに行くよ”。……そして歓迎する。我が光の国に。
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慎
BL
あるきっかけで前世の記憶を思い出し、ここが『王宮ラビンス ~冷酷王の熱い眼差しに晒されて』という乙女ゲームの中だと気付く。そのうえ自分がまさかのゲームの中の悪役で、しかも悪役は悪役でもゲームの序盤で死亡予定の超脇役。近いうちに腹違いの兄王に処刑されるという断罪フラグを回避するため兄王の目に入らないよう接触を避け、目立たないようにしてきたのに、断罪フラグを回避できたと思ったら兄王にまさかの監禁されました。
『オーディ… こうして兄を翻弄させるとは、一体どこでそんな技を覚えてきた?』
「ま、待って!待ってください兄上…ッ この鎖は何ですか!?」
ジャラリと音が鳴る足元。どうしてですかね… なんで起きたら足首に鎖が繋いでるんでしょうかッ!?
『ああ、よく似合ってる… 愛しいオーディ…。もう二度と離さない』
すみません。もの凄く別の意味で身の危険を感じるんですが!蕩けるような熱を持った眼差しを向けてくる兄上。…ちょっと待ってください!今の僕、7歳!あなた10歳以上も離れてる兄ですよね…ッ!?しかも同性ですよね!?ショタ?ショタなんですかこの国の王様は!?僕の兄上は!??そもそも、あなたのお相手のヒロインは違うでしょう!?Σちょ、どこ触ってるんですか!?
ゲームの展開と誤差が出始め、やがて国に犯罪の合法化の案を検討し始めた兄王に…。さらにはゲームの裏設定!?なんですか、それ!?国の未来と自分の身の貞操を守るために隙を見て逃げ出した――。
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