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第1章異能バトルの世界へ
第2.5話 主人公とヒロイン
しおりを挟む【黒磯side】
≪風の国シルフィタウンー城下町風鈴の路ー≫
ここはいつ来ても面白い街だ。風の王である那留風 翠静が治める風の国【シルフィタウン】。那留風 翠静。200歳。肉体年齢は25歳ぐらいだろ。Sランク異能力◆風・天候操作。父である国王が病気で死んでしまった為若くして王になった若王。国民の評判は良く、優しくてイケメンな王だと慕われている。
この国は年中風が吹いていて止むことはなく土地の土も良質こともあるが天候も王の自在に操れる為か何不自由なく米や麦そして果樹などを収穫することができ、水が枯れることはなく必要な水量は雨を呼び寄せれば蓄えられる。
食料や水にまず困ることはない。【翠の国】までとはいかないがここの草木や花はなかなか綺麗だ。空気も上手い。
見渡せば風車と風鈴が其処ら中にあるがこれは国の為に必要な“装置”。永遠に吹き続く風は自然のものではなく“装置”によって生み出されたもの。この風車や風鈴が風の力で動く度に風を装置の大元の中に蓄えることが出来る仕組みだ。風車や風鈴をよく見ると花のような印の様なものが書かれている。一人の男を連想させる異能:“継続と増加付与の印”。
加董 与一の仕業だな。風の国の宰相。年齢は那留風と同じ200歳。肉体年齢は20歳。那留風の右腕。Bランク異能力◆能力付与か。なかなかいい異能を持ってる。国の連中は風操作を持つ那留風を祭り上げているが実の所真の実力者は加董だ。最初この装置を起動する時は那留風が能力を使っていただろうが今はほとんど那留風の力を感じられない。
情報によると人気のある風の王は仕事を放り出して女遊びに明け暮れているらしい。その貯まった仕事も加董が負担している。加董のランクはBランクのせいか他の連中に見下されているが那留風だけはそんな加董を庇っているとのことだ。那留風の幼馴染みだということで那留風の配慮で宰相に置いてあるが実の所は………自分の変わりに労働してくれる“駒”が欲しかっただけだろう。どっちも全くバカな連中だ。自分の異能に溺れたバカと体を削ってまでそんなバカを信じ続ける愚か者。…………実に人間って愚かで愉快。
この国の面白い所はそこだけじゃない。国の中でも上位を争う有名な風の国【風の国シルフィタウン】。このいる連中は毎日平和に暮らしているが城下町から出た瞬間“無法地帯”になる。風鈴も風車もない。云わば“風の加護対象外区域”となっている。風の王に見放された場所ということ。那留風と加董は貧民区生まれだ。異能力を覚醒させた奴らは各々≪私欲の為≫、≪この国の秩序の為≫に行動をした。……今貧民区がこの有り様なのは加董は知らない。視察は那留風の部下に“強制的”に担当されている為偽りの報告書を見て貧民区の人間達が何も不自由なく生活しているとでも安心仕切っているのだろう。………違和感は感じてるんじゃないかな。そうじゃなければ加董は那留風よりもタチの悪い“愚か者”だ。
貴族連中は肥えたくり貧民連中は痩せ細り死んでいく。貧民達は“生きる為”に家族だった子を貴族達に売り貴族達は“娯楽”の為に下民の奴隷を飼う。いらなくなれば他の貴族に売り飛ばすか。始末すればいい。
偽りだらけのこの国は嘘だらけの王である那留風にはピッタリだろう。……ふふ。タイムリミットまで残り僅かだけれど那留風は気づくことは出来るかな?まぁ。連中のことは僕には関係のない話だ。
五階建てのなかなか質のいいホテルに辿り着く。僕の目的は“ここ”にある。
ビルに入ると至って“普通のホテル”。エレベーターに入り階のボタンを決まられた順番で押すと一般人には行けない存在しない地下に降りることが出来る。
この地下には風の王である那留風がリーダーである組織【風清弊絶】のアジトが存在する。因みにその名を発案者である加董はここの存在も一切知らない。
【風清弊絶】とは風習をよくし弊害や悪事をなくすという四字熟語。その名に相応しい国の秩序を影から守る特殊部隊組織だと言った所か。…………奴らからしたら。鵺っくんが読んでいた【異能大戦】………確か略して【イノセン】だったか?その【イノセン】の主人公が所属する組織がここ【風清弊絶】だったな。…………ヒロインもいたっけ。
「!あ~!クイナさん♡遅いですよ~!」
許可もなく僕の腕に絡んできた白髪の女。白色の胸の露出を出し丈の短い着物を着て熱い目で僕を見つめてくる。とても不快だ。何より組織の一員でもないこの女が彼の象徴でもある≪氷の結晶≫の髪飾りをつけているのが腹立たしい。
気持ちの悪い女だが僕の“目的”はこの女白石 氷華の中にある【星屑の涙】だ。記憶によればこの世界のヒロインだったけ?鵺っくんはこの女が好きらしいけれど。鵺っくんの美的感覚は変わっている。こんな雌豚どこがいいのか。さっぱりだ。……いや。鵺っくんが好いている白石氷華は本来の白石氷華か。今のこの姿を鵺っくんが見たらどうなるかな?
白石氷華。年齢は不明。肉体年齢は17ぐらい。異能力◆≪氷結≫と≪癒し≫。
「あわわっ!氷華さん~!そんなに近づかないで下さいよぉ。」
わざと赤くさせ慌ててやると勘違いしたのか可愛いと耳に囁き自らの胸を僕の腕に押しつけてくる。…………殺したい。
因みに僕は氷河のPhantomである首領黒磯棗じゃなく冴えないモブキャラ≪クイナ≫として変装している。名前の頭文字だけ取ってつけ合わしただけの適当な偽名だ。服装は厚底眼鏡とボロボロの髪に安っぽいよれよれなカッターシャツにサスペンダー付きの黒ズボンそしてボロい茶色ブーツが今の僕が着ているスタイル。
「ねぇ今日こそ私と付き合ってよ!クイナさん♡」
「いや!だから駄目だって断ってるじゃないですか!貴方と僕じゃ釣り合わないって。」
頭がおかしい女。何度も僕に絡んで付きまとってくる迷惑だ。………いっそその気にさせて中にある【星屑の涙】を奪ってしまおうか。………いや。ここは我慢だ。下手にこの女から【星屑の涙】を奪えばこの世界が壊れ兼ねない。まだ“その時”じゃない。
「周りはクイナさんの魅力が分からないからよ。私なら貴方の魅力を理解できるわ。」
“理解出来る”だと?お前ごときが僕の何が分かる?…………僕を芯から理解出来るのはたった“一人”だけだった。
「ありがとうございます。氷華さん。」
僕は中のドス黒い感情を抑え笑いながら忌々しいこの女の腕を優しく丁寧に退かしてやった。
「でも貴女は女性なんですよ?そう簡単に男性に触れてはいけません。」
「!でもっ私貴方のことが好ーー」
「ごめんなさい。」
「ッ!!」
告白が断られて泣き崩れるこのシーンを僕は一体何回見なくてはいけない?いい加減鬱陶しい。
この女が僕に気があることは知っていた。正しくはこの女の中にある別の魂の女だ。夢月の能力で記憶を覗いてみたらどうやらこの女の魂は鵺っくんと同じく異世界人。ただ違うのはここの世界が鵺っくんの場合は【少年漫画】。白石氷華の場合は【乙女ゲーム】だということ。勿論この女は僕が【氷河のPhantom】の首領黒磯棗であることを知っている。
「お前ッ!!よくも氷華をまた泣かせたなぁぁ!!」
「ぐっ。」
理由を聞かず感情的に僕を殴ったこの単細胞は主人公にあたる【炎羅寺 焔】。年齢150歳。肉体年齢18。異能力◆炎・身体強化 Aランク。正義感の強い哀れな男。赤色に黄色がかったメッシュ。炎が燃え盛るような暑苦しい長髪を後ろに一纏めしている。動きやすそうな肩出しの赤色のチャイナ風の上着に白色のロングスボンに黒色のカンフー靴。
「やめてぇ!!焔ぁ!クイナさんは悪くないのぉ!!わたしがッ………私が無理に告白しちゃったから。」
「ッ氷華は悪くねぇ!!悪いのは氷華の気持ちを無下にしたこの野郎が悪りぃんだっ!!」
「………焔ぁッ。」
抱き合っちゃって。あほくさ。なんの茶番劇なんだ?
炎羅寺焔は白石氷華に好意を持っている。だからその女に好意を持たれているいも臭い僕を敵視しているみたいだ。コレがこの世界の主人公だなんて笑えるな。本当。
「おいおい。芋くんさぁ。何うちのマドンナ泣かせちゃってんの?」
背後にいた黄緑色の長髪に黄色の眼をしたチャラそうな男が僕に近づく。
「氷華ちゃんに告られていい気になってんじゃねぇよ。ゴミ虫が。」
「ひぃッ!?」
低い声で僕を怯ませようとしているが僕からしたらお前の方が“ゴミ虫”なんだけどまぁ“クイナ”は能力なしの無能として通してるからね。ここは怯えている演技でもしといてやるか。
胸元を開けた白色のカッターシャツに黒色のロングズボンに茶色のブーツを着ただらしのないこの男は。
「兄貴!」
「翠静さん。」
「おう!焔にそして………氷華ちゃん♡」
「きゃあ♡」
「兄貴何抱きついてんだよ!氷華が嫌がってるだろ!!」
「うるさいよ。焔。悔しかったらお前も氷華に抱きついてみなよ。まぁ。童貞に出来たらだけど。ププッ。」
「う、うるせぇ!!」
吐き気のする寸劇はまだ続くのか?まったく毎回毎回よく飽きないな。
お前達は正義の味方気取りだろうが本当に助けを求めている人間に目を暮れない“偽善者共”だ。頭がハッピーでおめでたいよ。全く。お前達が今イチャついている間貧民達は今日生きるか死ぬかの瀬戸際なのにね。
はぁー。【風清弊絶】のリーダーいやこの風の国【シルフィタウン】の王。那留風 翠静。王としての品格が備えていないな。覇気もない。誰だ。こんなゴミを一国の王にした奴は。因みに炎羅寺が那留風のことを“兄貴”だというのは血の繋がりではなくただ那留風に助けられてから親しみを込めて呼んでるだけ。どうでもいいけど。
彼の血の繋がったお兄さんは那留風なんて比べるまでもない強者だ。……弟があんなので彼にちょっとばかり同情するよ。ーーーー【炎帝】に。
「ドンマイな。クイナ。」
「マスター。」
僕の肩に手を置いて労ってくる黒のエプロンを着た男前な茶髪の男はここの組織にあるバーのマスターで“クイナ”の上司にあたる男。【茶葉陽 薫】。異能力◆創意工夫・温度調節。Bランク。
「……レモンパイ焼いたが食うか?」
「はい。頂きます。」
“温度調節”が自在に操れる為、絶妙の温度で淹れるお茶、珈琲はなかなか絶品だ。また“創意工夫”によりアレンジを加えたレシピで作る食事やデザートもどの高級レストランより上手い。
ここの連中はBランクだと見下しているが誰もこの男の本当の価値を分かっていない。
「おい!!葉っぱ野郎!!俺が頼んだカツサンドはまだなのか!?」
「もう既に作ってあるだろ?そこに置いている。よく見ろ。」
「うるせぇ!!誰がこんな冷めきったゴミを食べるか!!」
指摘されて腹を立てたのか難いのデカイ男が茶葉陽の作ったカツサンドを叩き落とした。男は追い討ちをかけて踏み潰すとカツサンドはパンやカツそして野菜はぐちゃぐちゃになりソースで床を汚す。
「………悪いな。後で“お詫び”なものをくれてやるからな。…………他の連中にバレて横取りされてもいけねぇから。後で“表”に行こうぜ。」
茶葉陽は怒ることなく笑って男に詫びを言う。
「………たく。しょうがねぇな。今度からちゃんとやれよ。」
「ああ。今度はちゃんとやるよ。」
茶葉陽の態度に呆気を食らった男はその場を離れ他のメンバーの奴らと喋り始めた。
無言で片付けようとしていた茶葉陽だったが僕も一緒に片付けるのを手伝う。
「クイナ。ありがとうな。」
「いえ。別にいいんですよ。」
「ふ。そうか。」
後で面白いものを見せてもらうから。
◆◆◆◆◆◆◆◆
【風清弊絶】のアジトであるホテル出て少し離れた路地裏で物陰に隠れて僕は二人の男を傍観していた。
一人はカツサンドを潰した片足を切断された愚かな男。
そしてーーーーもう一人は。
「ぎゃあああッ!!!!」
「………ったくよ。“食べ物は粗末にしちゃいけない”って習っていないのか?このボケが。」
カツサンドを作った血だらけのマスター茶葉陽。
この馬鹿な男は禁忌を犯した。茶葉陽の作った料理を無駄にしたことだ。
「おい。」
「なっ……ぎゃあああッ!!!!」
次の瞬間男の左手が茶葉陽に切断されて男は痛みのあまり泣き喚く。汚い声。茶葉陽はぐちゃぐちゃになったカツサンドを瀕死の男の近くに置いた。
「悪いな。もうすぐ出来るからな。お詫びの品の豚の丸焼きが。」
「!?ッ“お詫び…の…品”……って…おれ…に言ったん…じゃ…。…」
確かに誰のお詫びの品かなんて彼は言ってなかったものね。ふふ。
「はぁ?何意味を分からないこと言ってやがる?このゴミめ。俺が“お詫び”をしたいのは“カツサンドさん”に決まってるだろうが!!」
「ヒィッ!?」
ふふ。茶葉陽は食材は勿論特に自分が作った料理を大切にしない人間に容赦はしない。彼のレベルは周りから見たらBランクと判断されるだろうが実の所。
「“温度調節上昇”。」
「ぎゃあ”ああぁッぃあ”つ”い”ぃ!!」
男の体温が茶葉陽に支配され男の体温がどんどん上昇していき限界を越えた瞬間に発火した。まさに“豚の丸焼き”だ。
茶葉陽は丸焦げになった男だったものに近づき喰らいつき不味そうな肉を食べていった。肉だけではなく彼は骨さえ残さずに全て平らげてしまった。
「ふぅ………まずッ。…なぁ。……いるんだろ?クイナ。いや。ーーーーーーーーリーダー。」
「いや君の能力はいつ見ても“愉快”だね。ーーーー【暴食】茶葉陽 薫。 」
ここのアジトでは上司にあたるが茶葉陽は本来僕の部下だ。彼には僕と共に【風清弊絶】に潜入をしている。
「それで?何日もここに来なかったのは何かアクシデントでもあったのか?」
「ふふ。“アクシデント”だなんてとんでもない!」
「?」
茶葉陽と【強欲】にはまだ鵺っくんのことを伝えていない。彼のことを教えたらどうなるんだろうな。
「茶葉陽。僕はとっても≪幸運≫の持ち主さ。」
「マジでどうした?」
ふふ。僕が久しぶりに機嫌が良いものだから茶葉陽が面白い顔してるね。そんなに驚かなくてもいいのに。
「………僕ね。恋人が出来ちゃった。それもまた一目惚れ!」
ふふ。やっぱ≪運命≫ってあるもんだ。■■は何もなかった僕の前に現れたんだ。彼の美しい容姿に確か僕は間抜けな顔をしていたと思う。
「……………………は?」
低い声と共に彼の包丁が僕の喉元に当てる。丸焼きになった男に向けた殺気よりもよりドス黒い殺気を僕に向けた。
「どういうつもりだ?“クロ”。」
ふふ。怒ってる怒ってる。
「どうもこうもそのままの意味だけど?ていうかその名で呼ぶなよ。“ブラウン”。その名で僕を呼べるのは“彼”だけだ。」
“クロ”は“彼”が名付けてくれた大切なモノ。“ブラウン”という名も“彼”がこの男に付けてくれたモノだ。
「ッお前の恋人はアイツだけだろう!!お前だから俺は■■を諦めたのにッ!!」
「落ち着いてよ。茶葉陽。」
コイツが■■のことを好いていたのは前から知っていた。だがその隙を与えることなく僕は■■と付き合った。
「落ち着けられる訳がない。落ち着け訳がないだろうがッ!!クソックソックソ!!」
「茶葉陽。」
喉元に当てられいた刃先が僕の喉に食い込み皮膚が破れ血を流し始めた。この男がここまで食べ物以外で取り乱すなんて■■、君はすごいな。
取り乱していた茶葉陽は真顔になり殺気を膨れ上げていく。おいおい。ここは敵地のアジト前なのに好き勝手しちゃってさ。僕の異能の一つ“結界”がなければすぐにバレていただろうに。
「…………その恋人を殺すしかないのか。」
「…………………………は?」
茶葉陽の愚かな発言に僕は笑うのを止めた。威圧を当て茶葉陽は吹っ飛んでしまう。僕はそのまま近づき彼の前髪を乱雑に引っ張り持ち上げた。
「は?殺す?何それ?何勝手に話を進めてんの?なぁ?」
「ぐぶっ!!」
形勢逆転ではないか。元から僕は彼に本気は出してもないしね。僕は感情のまま彼を殴った。
「安心しなよ。僕が愛してるのは一生■■だ。」
「ならッ何故恋人なんかを作れるッ!!」
コイツは何も分かっていない。……分からない方が都合がいいか。
茶葉陽の胸ぐらを掴み僕の方へ引き寄せた。この男に“警告”をちゃんと解るように。
「いいか?お前は僕のすることに口出しは無用だ。………もしまたそのふざけた言動を言ってみろ。お前が昔の吉見でも殺すぞ。」
「ッわか…った………。」
鵺っくんは誰も殺させない。“僕のモノ”だから。邪魔する奴は全員殺す。
理解してくれた茶葉陽を解放してやると彼は咳ごみ呼吸を整えていた。……少々圧をかけ過ぎたかな。
「……お前は■■の生まれ変わりである白川氷華に一切靡くことはなかった。だがその“新入り”には御執着だ。」
「うんうん。それで?」
ふふ。やっぱ他の幹部達とは違い茶葉陽は理解が速い。
「……ッ……まさか!!」
「それじゃ!僕用事があるからじゃあね♡」
その慌て様。気づいたか。でもわざわざ僕が答えを出すことはない。ここにいる用事も終わったしテレポートで帰るか。あっちでは面白いことになってるだろうしね。
今は茶葉陽も一人で考えたいこともあるだろうし。
「………嘘だろ。そんな筈は。ッ■■。俺は………。」
(その≪恋人≫が■■の“本物”の生まれ変わりとでも言うのか!?棗!?)
◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ーーーー僕は風の国に行く前に夢月と会話をしていた。
「棗さん。本当に良かったの?」
「何がだい?」
この子と僕だけが他の幹部達が知らない鵺っくんのことを知っている。
「鵺っくんが心配かい?」
「だって銀さんと一緒なんだもん。“雷迅銀”は裏切り者なんだよ!!」
そう。鵺っくんの記憶を覗いた時に雷迅が【裏切り者】だということが発覚した。その事実も僕と夢月しか知らない。雷迅のことは僕は薄々気づいていたが敢えて放置していた。だいたい雷迅の本来の主は検討はついている。
「大丈夫だよ。夢月。心配無用さ。」
「で、でも問題は銀さんだけじゃないでしょ?」
ふ。心配する夢月の頭を撫でてやると顔を赤させて戸惑っていた。夢月は鵺っくんに懐いている。理由は解る。■■にも懐いていたから。
「彼は大丈夫。」
「………棗さんが言うならそうなのかも。」
そうだ。鵺っくんは大丈夫。彼は……………ふふ。面白いよね。本当。
「棗はこれから何処に行くの?もしかしていつもの所。」
「そうだよ。」
「うげぇ。僕そこの国嫌い。“嘘”ばかりだもん。特に王様が大嫌い。」
夢月が顔を歪めて風の国に悪態をついていた。………この子の方が利口じゃないか。那留風。
「“風の国”か。でも鵺楼お兄さんの記憶ではもうすぐで漫画の一話目が開始するんでしょ?」
「そうだね。」
「“風の国”も終わりか~。」
≪イノセン≫の一話目の舞台は【風の国シルフィタウン】。その国で生き残るのは僕の部下である茶葉陽を除外して主人公の炎羅寺 焔とヒロインの白石 氷華のみ。
そして国を破滅へ導いた首謀者が【加董 与一】。
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