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第1章異能バトルの世界へ
第1話 崩壊する平穏
しおりを挟む見知らぬ薄暗い部屋の中で負傷していた俺はベッドに寝かされていた。今横にいる男が負傷して倒れていた俺を助けここまで連れてきたらしい。
人間離れした美貌。全身を黒を統一させた男。サラサラした短い黒髪に見るからに光がない“闇”を感じる黒眼。ニヤニヤと怪しげに笑う顔。マフィアの首領の格好をした見るからに高そうな黒服。
「ちょっと僕とお話をしようか?お兄さん♡」
ねっとりとした色気がある中性的な声色。ここに今俺の妹がいたのであれば失神していただろうが俺は恐怖しかない。光の灯らない死んだ目で男は負傷でベッドで横たわる俺に優雅に足を組み胡散臭く笑っていた。内心何を考えているかなんて重要じゃない。
問題はどうやってこの腹黒サイコパス殺人鬼野郎から逃げ出すかだ!
クソッ。何でこんな面倒なことになっているんだよ。あれもこれも全て俺を襲った“白梟の仮面を被った連中”のせいだ!
俺はただ平穏で暮らしたいだけなのに。いくら愛読しているとはいえーーー。
コロシアイ漫画の世界に行きたいなんて思ってねぇぇぇんだよぉぉ!!!!
◆◆◆◆◆◆
≪ーーー1時間前≫
俺の名は盆陣鵺楼。25歳独身。職業は深夜の道路警備員。平和と平穏を愛する好青年である。ダルダルな青ジャージ、青色のヘッドホン、安っぽい伊達眼鏡、首にかかる神を後ろに一纏めにした尻尾頭。そう。それが我が理想のマイスタイルだ。
そして今俺は自室のベッドで漫画を読んでいるのだ。
昼間からフワフワの布団でお気に入りの漫画を読みふけるなんて最高な気分なんだ。しかも今日は夜からのシフトはないから思い存分漫画が読める。何度読み返しても面白いだよな~~。この漫画。マジで作者をリスぺするわ。
俺が愛読している漫画。【異能大戦】略して≪イノセン≫。名の通り異能力を持ったイケメンや美少女達がどんな願いでも叶える秘宝≪星屑の涙≫を求め戦う異能バトル漫画。その秘宝は俺の推しでもある巨乳美少女のヒロイン白石氷華≪しらいしひょうか≫の体内にある。つまり俺の推しである氷華ちゃんを巡って各地にいる強者が結成している組織が争い合っている訳だ。炎能力を持つ本作の主人公である炎羅寺焔≪えんらじほむら≫はヒロインの氷華ちゃんと出会い、今まで送ってきた平和な日常がなくなり命懸けの彼女を巡るコロシアイに巻き込まれて戦う度に主人公が成長していくストーリーなんだよな。中には熱いバトルシーンだけじゃなく何せ作品の登場人物達は美男美女の集まりだから恋愛要素もあり、男女構わず人気のある作品なんだ。しかも元○witterだったZ。そのZでは必ず≪トリセン≫がトレンド入りしてたな。人気トレンド一位はいつも決まって“ある男”なのだ。
「お兄ちゃんッ!!ただいま~~!」
「おかえり。織田姤。いつも言っていると思うがノックはしような。」
「別にいいじゃん。ウチは気にしないよ。お兄ちゃんがノックなしでウチの部屋に入って来ても大歓迎~~♡」
「そこはちゃんと気にしなさい。」
ノックもなしに勢い良く部屋の扉を開く。学校から帰って来た黒髪お下げの眼鏡少女こと我が妹・盆陣織田姤が部屋に入ってきた。もうオフ用の俺と同じ青ジャージに着替えてやがる。
こんな格好をしているが妹は平凡顔の俺とは違いアイドル顔負けの美少女高校生(18歳)だ。文武両道、容姿端麗な優等生。クールビューティーなキャラを演じている為か。学校では≪氷結の天使≫と異名がつき妹は大人気だそうだ。駄目な兄貴とは違って我が妹ながらすげぇスペックだな。鼻が高い。自慢の妹だよ。本当。
学校では黒髪のサラサラロングヘアーで名門高の制服を着た優等生だが家ではおさげ&俺と同じ青のジャージに伊達眼鏡のオタクスタイルが妹の家でのスタイルだ。別に素のままでも良いと思うんだがな。妹はガンとして今のスタイルを貫くそうだ。本人が良いなら良いんだが兄としては無理だけはして欲しくない。俺も妹と同じ紺碧色の瞳をしているのだか妹は俺の濁った色とは違って透き通った海みたく綺麗な色をしてるだよな。
妹のことで話が逸れてしまった。いかんいかん。そうそう。人気No.1キャラの話だったよな。嫌なことに妹もそのNo.1キャラにお熱なのだ。
≪イノセン≫は元々妹がハマっていた漫画で俺は妹から薦められて見事に≪イノセン≫沼に落ちてしまったのだ。
「嗚呼♡棗様♡相変わらず素敵なお顔立ち♡」
推しキャラ関連で感情が昂ると決まって俺の部屋にノックなしで入ってくるのは止めて貰いたい。年頃の女の子でしょうが。
コホン。話を戻そう。≪イノセン≫の人気No.1キャラはーーー我が妹がいやこの世の女共がお熱になっている憎っくきキャラ。全身“黒”を統一させたサイコパス殺人鬼!!
主人公達を最後の最後まで苦しめた≪イノセン≫の黒幕・黒磯棗(くろいなつめ)。
反社会組織達を束ねる【氷河のPhantom】の首領であり、コイツの周りに従えている幹部達もたった1人で組織一つを潰せる規格外な戦闘力を持った強者達だ。だが首領である黒磯棗に比べたら幹部なんて赤子同然。異能の複数所持者であり異能なしでも高い戦闘力、天才的な思考回路、強者達を束ねる絶対的なカリスマ性、破壊的な美貌。全てを備えているこの男は何に対しても反則的に強すぎる。
そのチートスペックのためか。女共を始め男のファンまでいる。人気キャラ投票&元○witterだったZのトレンド“No.1”!
………今スマホを確認したらとまた“黒磯棗”の名前がトレンド1位になってやがる。
「ゲッ。またこのサイコ野郎が一位かよ。世間の頭はどうなってんだ?」
思わず愚痴ってしまったが分かってもらいたい。いくら全スペックが神がかっているとはいえコイツはサイコパスな殺人鬼だぞ?
「痛てぇっ!!」
俺の頭に強い衝撃を受ける。あまりの痛さに咄嗟に起き上がるとどこから取り出したかわからんハリセンを構えていた妹が凄い形相で俺を睨んでいた。
「お兄ちゃん?棗様の悪口はウチの前では御法度だって言ったよね?」
「…………スミマセン。」
怖ッ。虫けらを見るような目つきで兄貴を見るなんて黒磯棗のガチオタク怖すぎだろ。
「そういえばお兄ちゃんさ。」
切り替わり早。もう元に戻ってら。末恐ろしいな。妹よ。
「ん?」
「今日はお仕事お休みなんでしょ?」
「ああ。だから今日は自室で≪トリセン≫の漫画を読み漁るぜ!」
「あのね!お兄ちゃん。もし良かったらなんだけど。………今日の夜さ。」
妹は言葉を濁らせたながらなんかモジモジしている。俺に対して遠慮のない妹が珍しいな。
「………一緒に寝よう?」
顔を真っ赤にしちゃってなんとまぁ。大人ぶっててもやっぱ兄ちゃんが恋しいなんて可愛いな。我が妹は。だが。
「断る。」
俺は犯罪者になりたくないからな。丁重にお断りするぜ。許せ。妹。
「いいもん。また勝手にベッド侵入するし。」
「おい。“また”ってなんだ!」
「べーっ。お兄ちゃんのバカ!」
まだ反抗期が抜け出せていないのか?まぁ。コイツが元気なことが俺の生き甲斐だ。たった一人の俺の可愛い妹。
俺達兄妹には両親がいない。死んだのか行方不明なのか詳細は分からん。どうでもいいことだ。目の前の妹さえ立派育ってくれればそれでいい。
俺に断られて膨れっ面をしている不機嫌な妹の頭を優しく撫でる。はぁー。降参だよ。まったく。
「仕方ないな。今日だけだぞ?織田姤。」
「本当!?お兄ちゃん大好き!!」
困った様に笑ってやると妹はキラキラと満面な笑顔で俺に抱きついた。まったく。可愛い奴め。
こんな平和な日々がずっと続くと思っていたーーー………。
だがそんな日常も急に終わりを告げる。部屋の窓が割れ白いフードを被った白梟の仮面を着用した謎の連中がいきなり侵入してきた。俺達は囲まれる。
「盆陣鵺楼だな?」
「誰だ?お前ら。」
見覚えのない連中が何故俺の名前を知っている?…………余計なことを考えるな。今はそんなことよりなんとか後ろで怯える妹をこの場から脱出させるのが優先順位だ。脱出経路はベッドから2m先のコイツらが入ってきた窓!………後は俺が僅かな隙をなんとか作ればいける!
ふっとカチカチと音程したリズムが微かに聞こえてきた。音が小さい為例のブツを持っているのは今この場にいる奴らではないことは分かる。
嗚呼。クソったれ。気づくのが遅すぎた。他にも仲間いたのかよ。ーーータイムリミットまで外に逃げる時間なしか。はぁー。しんど。
咄嗟に来るであろう衝撃から妹を守る為俺はジャージの上着を脱ぎ妹に被せベッド下に潜り妹を強く抱き締めた。
次の瞬間。俺達の家は強い衝撃に包まれ崩壊した。
◆◆◆◆◆◆
あれからどうなった?
「お兄ちゃん!!お兄ちゃんッ!!ねぇ嘘でしょうッ!!死なないでッ!!」
妹の声がする。ぼんやりとした視界だが妹の姿を確認すると傷一つをしていなかった様だ。それに大声で俺を呼び掛けてるってことは骨や臓器とか大丈夫だったみたいだな。良かった。
俺が苦労して建てた二階建ての家は瓦礫と化してしまったが今は妹が無事なことを喜ぶとしよう。
俺達を襲ってきた連中の死体がそこらに転がっている。何故俺達をいや俺を襲ってきたんだ?奴らは俺の名だけじゃなく住所まで知っていた。クソッ。分からんことだらけだ。
体に鉄パイプやら色々刺さって瓦礫で下半身が若干潰れてやがる。視界に続き体全身が重くて動かない。感覚がマヒって痛みさえ感じてないな。はは。駄目だな。これは。
後は“あいつ”を待つだけ。
向こうから車のタイアが擦れる音が聞こえる。赤色の高級車が俺達の近くで停まり勢い良く車の扉から灰色の高そうなスーツを着た男が俺達の元へ向かって走ってくる。深緑色の髪色にポニーテールと銀色の鋭い目つきのイケメンが息を切らせていた。ということはどうやら全力疾走で来たみたいだな。
「鵺楼っ!!織田姤ちゃん!!無事か!!」
「陽炉さんッ!!お兄ちゃんを助けてッ!!」
「ッ損傷が酷すぎる。……(これはもう施し様がない。)」
木村陽炉。俺達の知人でありこの男の職業は公安警察。コイツがいれば妹は取り敢えず大丈夫だな。奴らが侵入してきた最中俺は咄嗟にコイツ宛てにSOSメールを送っていた。
「……ひ…ろッ。……いも…うと…をたのん……だ……。」
「!………鵺楼。ッわかった。行こう。織田姤ちゃん。」
「何言ってるの!お兄ちゃんがまだ瓦礫に埋もれてるんだッ!嫌ッ離してッ!!ウチはお兄ちゃんを助けるのッ!!お兄ちゃんお兄ちゃんッッ!!」
俺の頼みを聞き入れ嫌がる織田姤を陽炉は無言で抱き抱えこの場を離れて行った。
…………ありがとな。陽炉。妹を宜しく頼む。
織田姤。どうか幸せなれよ。
そこで俺の意識が途絶えた。
◆◆◆◆◆◆
≪そして冒頭に戻る≫
って死んだと思ったのに!!なんで≪イノセン≫の世界にトリップしてんだぁぁ!!コラァ!!
「もしもーし。お兄さん?聞こえているかな?」
はっ!いかんいかん。冷静になれ。
「ええ。聞こえてますよ。」
「良かったぁ~。」
ここは穏便に自分が無害だと相手に分からせることが先決だ。そう。俺はただの何も知らない一般人。
「お兄さんさ。なんで僕のシマで倒れてたのかな?普通の人間はまずここには入れないんだよね。」
うわぁ。笑ってるのに目が全然笑ってない。それに赤色の目になってらっしゃる!?いつの間に変化した!?これは下手したら一瞬で殺される奴ですやん。それもその筈。この男がいう様に≪氷河のPhantom≫のアジトは普通の人間が入れない理由がある。アジトの周囲には特殊の結界が張っておりここに所属する幹部以上の人間が共にいないとではないといくら組織の一員であってもアジトを行き来することが出来ない。そうでない者が侵入した途端その人間は塵となる。
「いや~。僕にも分からないですよね。気がついたらここにいたもんだから。」
なんで無事にこんな場所にいるのか正直俺にも分からん。取り敢えずここは嘘をつかずに正直に言えばいいことだ。
「……嘘はついていないか。」ボソッ
目を赤色に変化したということは黒磯にある異能とは違うサブ能力≪心眼≫が発動したということか。心を読むとかではなく相手が嘘をついているか真実を言っているのか分かる能力。サブ能力は異能程強力ではないものの便利な特殊な能力なのは間違いない。異能者が誰でも所有している訳ではなく限られた者のみがオプションとして所有している。だがデメリットとして≪心眼≫は使用後すぐには使用出来ない。つまりここからは嘘をついても大丈夫だがコイツともう関わらない方がいい。
負傷していると思っていたがありがたいことに致命傷だった傷が軽くなってる。今気づいたわ。多分黒磯が治したんだな。俺から情報を得るために。どうせ複数ある内のコイツの異能の一つだろ。
体は今んとこ問題ない。よし。動ける。さて。逃げるか。
「あっ!!いけな~い☆もうこんな時間☆お兄さん。ごめんなさい。俺今から超~大切な用事があるのを思い出しましたのでこれにて失礼しまーす!助かりてくれ!ありがとうございましたぁぁ!!」
俺は掛け声と同時にスタートダッシュで扉まで駆け込んだ。上手く行けば逃げれるかもしれないーーー。
扉の取手を握り開けようとした直後。
ーーー俺は黒磯棗の膝上に座っていた。は?
え?なんで?は?
「まぁまぁ。そんな焦らないでよ。お兄さん♡もっと僕とお話しようよ。ね?」
背後から密着した様に俺を抱き締めて来た黒磯は耳元でねちっこく囁く。これは女共が喜ぶであろうイケボという奴か?だが残念。俺は男だしどっちかっていうと美女や美少女。いやヒロインの氷華ちゃんだったら嬉しいのに。正直この男の声色と触ってくる手つきにとても鳥肌が立つ。
「………無礼を承知であの一ついいッスか?」
「ふふ。うん。いいよ。言ってごらん。」
ここで俺は死ぬかもしれんが我慢ならん。もうどうでもいい。
「ペタペタ触りやがって気持ち悪いじゃあボケがッ!!逃げるの食い止めるにしてももっと他に方法があるだろ!?何自分の膝に乗せるかなぁ?」
「あははっ。」
「笑うなぁぁ!!」
駄目だ。俺がガチギレしてもこういうサイコ野郎には全然動じないわ。考えてもみろ。最強の黒幕相手にただの平凡男である俺。もう無理ー。今日は色々ありすぎて疲れた。
「チッ。もういい。逃げねから離せ。気持ち悪。」
「ふふ。冷たいな。君くらいだよ?僕にそんなこと言うの。」
逃げないと分かったのか黒磯はあっさりと俺を解放する。俺はというと先程まで寝ていたベッドの中に入り横になっていた。
「寝る。俺が起きたらあんたが聞きたいことに答えてやる。それでいいな?」
「やりたい放題だね。君。ふふ。それで問題ない。分かっているとは思うけど………。」
「ハイハイ。逃げませんよぉ。どうせ逃げれねぇし。」
今はな。時期を見て逃げてやるわ。ボケ。
「じゃあ寝る。」
「おやすみ。いい夢を。」
コイツに見守られながらかよ。絶対悪夢見そうだな。これは。
ーーー俺はそのまま深い眠りについた。疲れが溜まっていたのか熟睡していた俺は3日間寝ていたらしい。
次に目を覚めると黒磯棗が率いる≪氷河のPhantom≫の本拠地にいた。しかも幹部達が勢揃いしている中で玉座に座っている黒磯棗の膝の上に俺はまた座らされていた。
「は?」
「おはよう♡いい夢見れた?」
悪夢じゃあ。ボケ。殴りてぇ。その笑い顔。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
おまけ
織田姤「お兄ちゃん。自分の容姿のこと“地味だの平凡”なんて言ってるけど素顔ってなかなか“美人”なのにね。ね。陽炉さん。」
陽炉「うん。鵺楼は自分のことはかなりの鈍感だからね。」
織田姤「勿体ないなー。……まぁ。お兄ちゃんに近づく輩は私が排除してきたからネ☆(悪笑)」
陽炉「…………そうなんだ。(それが原因なんじゃ。)」
終わり
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