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19 ポメラニアンを巡る戦い2!

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「お父さんを誘惑している貴方は半月?」
「そうよ? 貴方もあの人の娘なら半月ね?」
「お互いいい戦いにしよう」

2人はリングに上がった。
観客が次から次へ集まってくる。
涼子は心配そうに見ている。
いつの間にか審判を務めるヒゲの生えた男性もお出ましだ。

「はじめ!」

審判がスタートの合図すると同時にゴングがなった。

「ウォレット・ストリングス。遷移」

勇はコントラファゴットを前より長い鎌の形に出現させた。

「遷移」

セルパンはくねくねとヘビのようにとぐろを巻き始める。

「行くわよ」

眞子のもつセルパンのムチが勇を襲う。
勇は鎌で鍔迫り合いをする。
強度は互角だ。
眞子はさらにうねうね動くセルパンを振るった。

「パース!」

勇は顔面の前に箱を出す。そうして繰り出された攻撃を避けた。

「あ!」

勇は攻撃しようと鎌を持ち上げようとした。しかし異常に重かった。それは鎌にヘビ状のセルパンが巻き付いているからだった。

「うりゃあ!」

眞子は勇の右頬にパンチした。

「うぐっ!」

勇は格闘技用のマットに叩きつけられ、受け身をとった。
「ウォレット・ストリングス、遷移」

勇は鎌を杖にして立ち上がる。
ダメージはひどいものに見えた。

「ウォレスト」

眞子もまるで第2ラウンドのように挑発的な視線を勇に送る。
涼子は大きな振りをする鎌が圧倒的不利に見えてならなかった。
周りの観客は湧いている。

勇はなりふりかまってられず後ろのロープで捻りを効かせる。ゴムチューブの反動で前に飛んでいく。
眞子は鎌を避けながら、手元からヘビ状のセルパンを投げてくる。

「パース・ストリングス」

セルパンが長方形の箱に入っていった。

「ウォレスト? ウォレスト!? ウォレット・ストリングス!」

眞子は焦りながら吠えている。
どうやら武楽器の一部は箱の中に入ってしまったようだ。

「たああ!」

勇はミドルキックで眞子をぶっ飛ばした。

今度は眞子がマットの隅にぶつかった。そしてそのままお腹を押さえて起き上がらなかった。
鎌が降ってくる。
涼子は目をつぶった。
(人が死ぬ?)
しかし、その心配は無用だった。
眞子の首の5センチ横に鎌は刺さっていた。
終了のゴングがなった。

「大丈夫?」
「これくらい平気よ。こんな若い子に負けるなんて」
「パース・ストリングス。いい試合だったよ」

勇は箱の中からセルパンを出した。そしてそれを眞子の前に突き出した。

「ありがとう。もういくちゃんを誘うのはやめるわ」

眞子は勢いをつけて起き上がるとセルパンを大事そうに抱えた。

「そうしてください」

勇はつんけんした態度でリングから降りた。同時に鎌も消えた。

「待ちなさい、貴方はハンター? テイアに来たての初心者みたいだけど」
「そうだよ、私はお父さんのきっかけで来たんだ。涼子がハンターになろうとしてたよね」
「私、今度ハンター試験受けるの。情報を交換しようと思って」

眞子は涼子に向き直った。

「あ、あたし、次のハンター試験受けるぞ。交換できる情報はないが」

涼子は手をあげた。

「曲目は知ってる?」
「知ってるのか? 教えてくれ」

涼子は願ってもないチャンスだと喜びを隠せない。

「A組アラホーンパイプ、B組千本桜、C組序奏とタランテラ、D組赤とんぼ。私はD組よ。受ける人数は今のところ39人……。まあ、会場でお会いしましょう」

眞子はつぶさにその事を伝え、去っていった。

「忙しい人だったね」

勇は半笑いで見回す。
ワン!
郁人が鳴いた。

「お父さん。よしよし」

涼子は郁人を撫でる。

「涼子。やめとけ、人に戻った時大変だ」
「帰ろうか」
「呼んだ?」
「呼んでねえよ。ほら、帰り道は?」

涼子はローカの進む方へ郁人を促した。
ローカは渋々歩いていく。
祭りのようなテントの出店の地帯から抜けると、大きな球状の青い膜があった。

「これは?」
「ここは街の真ん中だよ。この膜に入るんだ。そしてジムノペディを弾くことで」
「元の場所に戻ることができるんだ」

急にダンディな声が聞こえた。
涼子は振り返ると、首から背中にかけてハーネスをつけているおじさんがいた。紛れもなく郁人だ。

「ね、ローカさん」
「ああ、この世界から日本に戻ったら、武楽器回収するから、いや、赤石にあげよう」
「そんなぁ。俺がいくらペドルを貯めたと思っているんすか? あ、半分あげましょうか?」
「そういう問題ではないよ。吸血鬼から一般人に戻ってくれ。たまに犬になっていいから」
「ローカさんがそこまで言うならわかりました。犬になるんでたまには撫でに来てください……ぐえ!」

郁人のついているハーネスをローカは引っ張る。
バチ! バチバチ!

青い空間の中に入ることができた。

「このバチっとするのは? 日本から来た者と武楽器を持つ者に反応するんだ」
「「ウォレスト」」
「「ウォレット・ストリングス」」

郁人は武楽器のサックスを出した。
涼子はキーボードピアノを、勇はコントラファゴットを、ローカはビオラを出す。

「いいかい? 弾く曲はジムノペディ第1番だよ」
「おう」
「うん」
「ローカさん、任せてください」
「私は音楽鑑賞させていただきます」

ローカのビオラがアインザッツをする。

涼子は流れに乗りながら演奏をした。ピアノを弾くのが楽しかった。

曲は終盤、最後の音を軽やかにたてた。

世界が暗くなる。
トンネル内の照明だけが光っていた。

「戻ってこれたんだな」
「郁人、武楽器の一部を」
「へえへえ、……って誰が渡すものか! ひゃははは」

郁人は犬に姿を変えて走り出した。

「しまった、1時間ちょうどだ」

ローカはズボンにつけているレトロな懐中時計を見ている。

「お待ちなさい!」
「お父さん、往生際が悪いよ!」
「あーあ。こりゃ追いかけないほうがいいと思うぜ?」
「そうだな、帰る家もあるし!」

外はすでに暗くなっている。

「眠っている間に、もう一度会いに行こう」
「あたしはパスで。やることがあるから」
「勇、犬っころが帰ってきたら、連絡してくれ」
「連絡先、あたしが教えとくぞ」
「サンキュー」
「赤石、運転頼めるか?」
「どんとお任せください」

4人は生暖かい風に吹かれながら、車に到達した。
涼子はローカの連絡先を勇に送る。
先ずは、勇の家に向かった。
やはりと言うべきか、郁人は帰ってきてないようだ。
そして、次にローカのアパートに着く。

「また明日な」と言い残しローカはいなくなった。

「一連の行動を奥様に話してもよろしいですか?」
「だめだ。そうだな。犬と遊んでいたと言っておいてくれ」

涼子は落ち着いた様子でケータイをいじる。
仕掛けてあったカメラの様子を見ていた。

「これをまとめるのか」

涼子は軽く息を吐いた。
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