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2章 開口

24話 早々に治療

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「さ、さすがに緊張するな」
「ん、ドキドキ」


マリーナ達が玉座の間の扉の前で緊張しているが、俺は他の事で頭がいっぱいだ。
治療のための椅子を出すにしても、指をドリルにするにも、恐らく周りが騒ぐだろうから面倒だと思っていたんだ。


「まぁ最初に説明するしかないかな」


門が開かれ俺たちがゆっくりと中に入ると、兵士たちが列を作っていた。
その後ろには、恐らく貴族たちなんだろう者たちが見て来て、5段ある階段の先には王様たちが座っていたな。


「赤い絨毯に数本の柱が立ち並ぶ場所、良くある玉座の間って感じだな」


階段の手前で跪き、相手の挨拶が終わるのを待つ体勢で、最初に呼ばれたのはマルセルである俺だったよ。
顔を上げると、右の頬を押さえてる王様と王妃様がいて、俺の治療の内容を聞いて来た。


「簡単に言いますと、ドリルで削って元の綺麗な歯に治します」
「ふむ、それで痛くないのか?」
「多少沁みるでしょうけど、痛みはありません」


ほんとなのかと、周りの兵士や貴族が騒ぎ出し、王様が鎮めてくれた。
そして、早速治療をしてほしいとねだって来たが、それを止めたのは階段下付近にいた大臣たちだ。


「どうして止めるんだサブラ」
「その者が危険だからです国王様、まずは他の者で試すべきです」


大臣がそう言うと、兵士の数名が前に出て来て、片方の頬が膨らんでいたから、事前に決めていたのが良く分かった。
それでも良いから俺は了承したが、国王様と王妃様は早くしてほしそうだったな。


「じゃあ、治療の準備をしますが、驚かないでくださいね」


前置きをして、俺は治療用の椅子と道具を出して行き、アイーダはアンドロイドの準備だ。
当然の様にざわついたが、気にしないで服も着替えて準備万端だぞ。


「さて、俺とアイーダが操作するアンドロイドで治療をするから、騎士たちは2人ずつ座ってくれ」


治療の依頼があったのが二人だったから、俺とアイーダで来たわけだが、俺以外も治療できるのかとざわついたよ。
どうやら、アイーダは助手の様な存在だと思っていたらしく、治療が出来る事を説明した。


「そんなバカな」
「何も驚くことはない、俺の治療は習えば誰でも出来るぞ」
「そんなバカな!?」


大臣たちに驚かれるが、それだけアンドロイドの教育は凄いんだ。
それが無ければ、恐らく全員は無理だが、それをこの場では言わない。


「さて、説明はここまでにして、早く治療を始めよう、国王様と王妃様を待たせたくない」
「ぐっぐぬぬぅぅ~」


何やら、大臣の数名に唸られるが、兵士たちの治療を始めたんだ。
1人2人と次々に治療が終わり、最後の1人が終わると、大臣が治療をしてないだろうと言って来た。


「そう言うだろうと思ったから、ちゃんと治療前と後の映像を撮っておいたぞ」


ドローンを飛ばし、スクリーンを柱の一本に設置し映像を映し出すと、俺はどう治療したのかを説明した。
その治療がほんとに出来ているのかと、兵士たちに注目が集まるが、口を開けて近くの奴らがほんとだとか言い出したよ。


「そ、そんなバカな!?」
「驚いてる所悪いが、本題の入っても良いか?」
「ちょっちょっと待て」
「「もう待てない」」


大臣が止めたんだが、それを拒んだのは俺ではなく国王様と王妃様で、これ以上は待てないそうだ。
結局大臣は諦めてしまい、本題の治療が始まった。


「ふむ、これはなかなかの虫歯だな」
「こ、怖い事を言うな」
「平気ですよ国王様、ちょっと沁みるだけです」
「た、頼むぞマルセルとやら」


王妃様の方もアイーダが同じような事を言ったので、同じ感じで怖がってしまった。
だけどな、子供の歯を治した事のある俺たちには、前と違いその対処法がある。


「ほむほむ(ふむふむ)」
「国王様、あの映像は面白いか?」
「ほむ(うむ)」
「それは良かった、そのまま見ててくれ」


スクリーンに映る動物たちが遊ぶ映像は、子供たちに人気だったが、どうやらお二人も気に入ってくれて、沁みる時でも気になっていなかった。
そのままドリルと映像の音だけが玉座の間に響き、俺たちの治療は終了した。


「終わりましたよ国王様、そこで口をすすいでください」
「水が湧き出る魔道具か、なかなか素晴らしいな」
「あなた、この椅子もすごいわよ」


背もたれが倒れたりする椅子は初めて見たそうで、ふたりは欲しいと言って来たよ。
それならばっと、俺はマッサージチェアを用意する事を約束したが、カタログにある品は見せられないから、輸送に時間が掛かると出し惜しみしたな。


「出来るだけ急いでほしいな」
「そうね、きっと気持ち良いのでしょうね」
「じゃあ、次の治療の時に持ってきます」
「「「「「次もあるのか」」」」」


玉座の間で驚きの声が響いたが、いつもの事なので俺は簡単に説明した。
治療とは、経過を見ないと対処を誤る恐れがあり、治療が済んでも経過を見るモノと今までの治療が違っている事を教えた。


「わ、我々を侮辱するか貴様!!」
「あんたは?」
「ワシは、国が統括する治療院を任されておる、アゲールノだ」
「アゲールノさんよ、悪いんだが治療を分かってないのはほんとの事だ」


俺は、治療が終わった後に急変した者がいるかを問いただしたが、アゲールノは口を閉ざして答えなかったよ。
身に覚えがあるから何も言えず、俺は更に追い打ちをかけた。


「あんたたちの使ってる素材は、ほとんどが細胞に影響を及ぼす物で、それは細菌を元気にしてしまう物なんだ」
「「「「「サイキン???」」」」」
「そうだ、細菌は生き物だから、そのまま治したら元気になってしまう」


ポーションなどが良い例で、傷口を塞いでも中から腐っていくと話した。
それを聞き、兵士たちの中には仲間がそんな感じになった事があり、アゲールノを睨み始めたよ。


「ま、まてまてっ!それが原因とは限らんだろう、こいつが嘘を言っているのだ」
「確かに、その可能性もあるな」
「ふふふ、認めたな貴様」
「ああ、だからこそ国王様と王妃様の経過観察が必要だ」


そこに持って行きたかった俺だから、してやったりとアイーダは喜んでいたよ。
それを見て、悔しそうなのはアゲールノで、失敗したら死刑だと宣告して来た。


「失敗したら当然だろう、何せ国王様と王妃様だぞ?」
「なっ!?」
「それになアゲールノ、俺たちは身分なんて関係なく、いつもそんな気持ちで治療をしている」


失敗はあってはならない、それは誰でもそうだからと宣言し、だからこそ経過観察が必要だと、声を上げて伝えたんだ。
そこまで言われ、さすがのアゲールノも何も言えず引き下がったよ。


「フム、そなたたちは素晴らしい志を持っているのだな」
「そんな大それたモノではありませんよ国王様、患者は誰もが苦しんでるし、その人を待ってる大切な人もいるんだ」


だから治すのが俺たちの仕事で、そんな決意を持った俺たちに、兵士たちが拍手と歓声を送って来た。
いきなりで驚いたが、認めてくれたのだと少し誇らしかったな。
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