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2章 知名度広がる

36話 条件付きのダンジョン探索

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壁紙ハウスに入り、俺は皆が装備の点検をしている間、一人でダンジョンの地図を書いていた。


「5階までの道はそう複雑ではないが、モンスターはラビットだったから、それほどのダンジョンでは無いように思えるな」


宝箱の中身も薬草で、罠はなかった事からもそう思えた。
しかし、俺は他の可能性を感じてニヤニヤが止まらなかった。


「食料を生み出すダンジョンは、まさに必要なモノだ」


弱い冒険者でも探索は出来るし、これで村人は助かると思えた。
外で待っているキンブルも喜ぶと思いつつ、何処まで進むか考え込んでしまった。


「後3日だから、最短で進んでも100階だろうが、狭い場所の護衛訓練がメインだからなぁ」


戻った時の遠征で役立つ訓練をする為であり、利益が十分に取れる事も分かったから急ぐ気持ちは無くなっていた。
それでも、みんなのやる気をなくさない程度に難易度が欲しいので、1日20階は進みたいと思ったんだ。


「ボスがどんな奴か分からないし、普通のモンスターもまだ不明だから、20階はかなりハイペースになるよなぁ」


やる気は十分に出るだろうと、難易度を更に上げる条件を考えた。
サリーヌ様たちを守るのは当然だが、その場合後方のミルとコルがずっと対応するのは分かっていて、それでは意味がないと次の条件を加えた。


「目隠しと遠距離攻撃のみ、近づかれたら俺が倒して減点だな」


これなら、サリーヌ様たちから離れないで済み安全は守られる。
これで行こうと決め、俺は次に日の朝食時にそれを伝えた。


「ほ、本気ですかリューブ殿」
「当然だマリネル殿、ここにはみんなの訓練に入ったんだ、それくらいの縛りは必要だろう」
「縛りって、本来ダンジョンは危険だから安全を優先するんですけど」
「俺が後方に控えてるんだ、安全は完全に保証されてるぞ」


マリネル殿も納得してくれたが、更に条件として1日20階は進む事を付け加えると、さすがにメメルたちも黙っていなかった。
無理があると主張して来たから、そんな事は無いと断言したんだ。


「目隠しもしてるのよ、絶対無理よリューブ師匠」
「そんな事は無いぞブラヌ、気の索敵をすれば目を使わなくても位置は分かるし、その方が敵の動きは読みやすい」
「リューブ師匠がそう言うならそうなんでしょうけど、初めてなのよ」
「みんなの実力ならいける、俺が教えた通りやってみろよブラヌ」


実直にこなして来たみんなだから出来る事で、俺の超高速移動が見える時点で平気と判断していた。
この成果を見せる時で、それは出発して直ぐに発揮したよ。


「ど、どうして分かるのよ」
「不思議ですね、あの子たち本当に目隠ししてますよね?」
「マリネル殿とピューミ殿も気を使えるようになれば分かるが、俺たちにはそれが出来るんだ」
「じゃじゃあ、後ろで何本指を立ててるか分かるのかしら?」
「2本だな」


即答する俺を見て、マリネル殿は変な物を見るような視線を向けてきたが、精神を研ぎ澄ますから本当は疲れるんだ。
それを体験するのも経験になるからみんなには縛りを作ったが、10階のボスを相手にしても余裕で、俺は想像以上の成果に褒めるしかなかったよ。


「あれって、大玉ラビットだったわよねピューミ」
「ええ、1体出たら小さな街が壊滅すると言われる、凄く硬い毛と強靭な肉体を持つラビットです」
「それを5分もしないで倒しちゃったわよあの子たち」


7つ星冒険者のPT3つは必要な強敵で、このダンジョンが高難易度なのが分かった瞬間だ。
しかし、まだ今日は5階層しか進めてないから、俺は皆を褒めて更に進ませた。


「リューブ殿、あの子たちは疲れないのであるか?」
「勿論疲れますよサリーヌ様、でも要領が良いんです」
「っというと、ワタクシたちには分からない何かをしているのであるな」
「そういう事です、解説しましょうかサリーヌ様」


よろしくと言われたので、メメルたちの行っている気の共有を教えた。
遠距離に断定したのも、お互いの距離が近ければそれが出来るからで、みんなは俺の示した道をしっかりと進んでいた。


「っと言う事で、メメルたちは全員で1つの個体として戦っているんです」
「つまり、全然疲れないのであるな」
「そういう事です、俺には出来なかった仲間との協力で、あの子たちが強いのはそれが大きいですね」
「それだけではなく、リューブ殿がいるからであるな」


教える者は大切だが、自らが精進する気持ちが無ければ無理な事で、メメルたちはそれをみんなで達成していた。
そろそろ教える事が無くなってきたが、経験を積ませるのはまだまだ足りないから、もう少し訓練は続くと思っていたよ。


「その日が来るのは楽しみでもあるかリューブ殿?」
「そうですね、その時はしっかりと見送りますよ」
「泣いてしまうのではないか?」
「それはどうでしょう」


残りたいと言いそうなので、せっかくの卒業も意味がないかもしれないと思っていた。
成人前に卒業になるだろうから、あの約束はまだ先になるが、果たして気持ちは変わらないのだろうかと思っていた。


「お主にも色々あるのであるな」
「まぁそうですね」


戻ってもケーオンたちの件もあるし、まだまだ大変そうではあった。
メメルたちの成長の方が楽しみで自分の事は忘れがちだが、果たしてケーオンたちはどうするのかと不安になったよ。


「良ければ、ワタクシから言っても良いのであるぞ」
「それには及びませんよサリーヌ様、これは俺の問題です」
「うむ、覚悟が決まっているのなら何も言わないである」


メメルたちを受け入れるかは、俺の気持ちに掛かっているが、それを考えたらキリがないからその時が来てから考える事にした。
そうこうしている内に20階のボスに到達し、応援する方に集中したんだ。


「相手は、大玉ラビットよりも強いハリダルマラビットだが、近づかない縛りのみんなには関係ないな」


遠距離からの気弾と魔法攻撃の嵐を受け、遠く離れてる位置で丸くなってトゲトゲしてるラビットは、何もしないままに消滅していた。
あっけなさ過ぎて、サリーヌ様たちはここの難易度を勘違いしそうだが、ハリダルマラビットは10つ星でも苦戦する相手だった。


「まぁ、今の様に対処すれば低いランクでも倒せるが、遠距離攻撃も威力が必要だからな」


ハリダルマラビットも毛は硬く、皮膚はかなりの強度を持っているから、武技も魔法もそれなりの強さが必要だった。
メメルたちは気弾を持っているが、そろそろ他の事も教えようと思いついたよ。


「中級武技を教えるのが良いな」
「「あ、あの」」
「マリネル殿にピューミ殿、どうしました?」
「出来ましたら、その・・・教えてほしいんですけど」


お願いしますっと二人に頭を下げられ、中級の武技を壁紙ハウス内で教える事になった。
メメルたちも、約束通り25階まで進む事が出来て、俺は大いに満足でみんなを撫でたんだ。


「本当に凄いぞ、みんなよく頑張ったな」
「以外に簡単でした」
「本当ね、これならまだまだ余裕だわ」
「そう言うと思ってな、この後壁紙ハウス内で武技の訓練をする」


とてもハードな事だが、みんなは嫌がる事無く了承して来た。
頑張り過ぎなのは言うまでもない事だが、持久力が上がってる証拠なので嬉しく思ったよ。


「じゃあ夕食は豪華にしないとな」
「やった」
「だからリューブ師匠は好き」


ミルとコルは俺の肩に乗ってきてスリスリと顔をこすって来るが、いつもの事だし元気があって俺は嬉しかった。
豪華な夕食の後、武技の訓練に入ったんだが、それはみんなの身体を考えた内容で、マリネル殿たちの知ってる方法では当然なく、やる前からドン引きされたよ。
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