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1章 誕生

2話 出発の時

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あれから8年が経ち、僕は何不自由なく元気に育ちました。
いえ嘘です。不自由はしていたよ、とても耐えがたい、異様な暮らしにね。


「ついにこの時が来たなアレシャス」


そんな事も知らず父さんは笑顔で、僕は久しぶりに父さんの声を聞いたと、いつもの様に表情だけ笑顔を作ります。


「なんだアレシャス、元気がないぞ」
「そんな事ないよ父さん」


ダンジョンヒューマンとなってから、僕は母さんとしか話す事が出来ない生活をして来ました。それは上流階級の王族や貴族が使用人を介して喋るからなんだ。だから口を聞いて良いのは、僕の世話をする母さんだけで、僕は母さんを使用人として扱わないといけなくて、それから笑顔を見れなくなったんです。


「今までありがとう父さん・・・母さんも、元気でね」


母さんとのお別れの言葉はそれだけで、母さんからは「お元気で」の一言、実の息子に告げる言葉じゃないと、僕の胸がズキっと痛くなります。


「分かってた、母さんのせいじゃない」


僕は、これからダンジョンヒューマンとしての正式な教育を受けに、とある施設に向かうんだ。そこで2年間教育を受け、王都の学園に通いダンジョンヒューマンとして一人前になる。
ダンジョンを人工的に作ることのできる人がダンジョンヒューマンで、この国はその力を使い世界のトップにいるんだと、母さんが教えてくれた。


「待ってて母さん、しっかりと勉強して二人を迎えにくるよ・・・その時まで、どうか体を壊さずお元気で」


二人に聞こえない距離で僕は呟いて手を振り、迎えに来ていた馬車に野望を胸に乗り込みます。
僕は、本来あるはずだった家族の幸せを壊してしまった。父さんは飲んだくれになり、母さん以外の女を内緒で外に作っていた。母さんは使用人の様に僕との対話を義務付けられ笑わなくなった。


「本来の暮らし、2人は僕が知らないと思ってるだろうけど、そんな事ない」


赤ん坊の頃の父さんは炭坑で7日に一度しか帰ってこれず、母さんは針仕事で大変だったかもしれない。でも、いつも笑顔で幸せだったんだ。


「ダンジョンを作れる事が判明してからだから、母さんたちは僕がそんな気持ちを持ってる事を知らない。でも、そんな幸せを取り戻したいんだ」


馬車の中は聞いていた通り、野営をしないで済むように空間魔法で広くなっていた。修繕された僕の家よりも快適ではあります。だけど、ここには僕しかいないし会話を楽しむ事がない、凄く寂しいんだよ。


「はぁ~こんなところから、すでに自由がない感じだね」


ため息を深くついて、8年間育った村を出て行きます。窓の景色は、家から見えたモノばかりで、少しは気持ちが明るくなったけど、僕には外で遊んだ思い出はありません。


「外はこんなに良い天気なのに」


結局暗い気持ちのままで、馬車を遠目で見て来る村人にヒラヒラと手を振ります。


「ははは、振返してくれるよ」


この村は、僕のおかげで補助金が貰えて前よりも暮らしやすくなったそうです。だから何のか、顔も見た事のない僕に手を振ってくれるんだ。


「みんなして手を振ってくれる・・・ははは、何だか涙が出そうだよ」


僕の様に、稀に平民からもダンジョンヒューマンが誕生します。その時は村を保護する感じで、国から補助金が出る。他の国に現れないのは、こうして誕生した場所を囲い込むからで、しかも今回は男だったとかなり騒ぎになった。
男性のダンジョンヒューマンはほんとに珍しく、僕の子供は必ずダンジョンを作れる子が生まれるんだそうです。


「男性が生まれる確率は10人から20人に1人、平民からは1000人に1人とか言われればこうなるよね・・・はぁ~女性ばかりの社会。聞くだけで不安になるよ」


僕の悩みでもある問題を考えてしまい、ため息が漏れちゃったよ。
男性が少ないこの国は、女性が主流なのは仕方ないですが、こればかりは困ったものだと思うところがあるんだ。


「男性は屋敷に保護されて生活はそこしか出来ないとか、どうかと思うよ」


管理と言う名の自由のない拘束がされ、朝から晩まで予定が決まっている生活を送るんだ。それはこの馬車の中の様に閉じ込められて一生を終えるんだよ。


「僕が物心ついた時に説明されたけど、それって人として生きてないよね」


領地をもらいそこで暮らすそうですが、屋敷の外には出られず、管理された運動を行い、健康な体を維持する為の食事を取る。そして女性貴族が屋敷に来たら、夜のお相手をして子供を作ると言った毎日を送るそうですよ。


「優秀なダンジョンヒューマンを誕生させる為とか母さんからは言われたけど、ほんとにどうかと思うね」


国はそんな制度を作り管理をしています。それをぶち壊したいけど、僕にはそれほど力があるとは思えない。だから僕は低い成績を取り学園を卒業するつもりなんだ。


「優秀じゃ無ければ、領地も小さくて誰も子供を作りに来ない。そこに母さんたちを呼んで暮らしていても誰も気にしない」


これが僕の野望で夢なんだ、小さな領地でほどほどの生活を家族と過ごす。僕が壊してしまった幸せを母さんに送ってもらうんだ。
その為なら、例え学園で叱られても良い、同級生に虐められたって気にしないと、僕は覚悟している。


「父さんはきっと来ないだろうけど、母さんはきっと分かってくれる。その時家族の会話をするんだ」


ダンジョンヒューマンになった平民は、二度と肉親と会うことができません。だからマイナ母さんはあんなに悲しそうな顔をしてた。もう会うことはできないから冷たく遠ざけていたんだ。


「夜に1人で泣いていても僕が寂しい気持ちにならない様、使用人として冷たく対応してくれた母さん。絶対迎えに行くんだ」


その為にも学園に通う為の専用施設に向かっているわけです。マイナ母さんたちとの暮らしは、冷たい感じではあったけど、家族としての気持ちは伝わって来てとても暖かかった。
でも施設ではそう言ったことはありません。これからが本当の孤独だと僕は憂鬱になり、馬車に揺られていきます。


「こんな気持ちじゃダメだね、しっかりしろアレシャス」


憂鬱に暗い気持ちでいたんじゃ状況は変わらない、そう思って僕の出来る事をしようと決めたんだ。僕は前の身体の時、明るくて話すことの好きな性格だった、こちらではそれをしちゃいけないらしいけど、僕はあえてそれをして行こうと考えたんだ。


「笑顔は大切だし、会話のイロハもちゃんと出来る。うん行けるね」


会話をする貴族は上流階級に相応しくない。そう思わせれば女性は近づいてこないし、それ以外の話し相手が増える。僕の欲しかったモノが集まってくれると楽しい気持ちになって来たよ。


「そうと決まれば早速実行だね・・・あ、あの~」


馬車の窓から顔を出し、外で野営している人に声を掛けます。その人はこちらを振り向きもしないで、たき火の近くで鍋の用意を始めてます。


「流石に直ぐには返事を貰えないね」


これからの冷たい世界に攻撃された気持ちが押し寄せて来たけど、僕はこれくらいじゃ負けません。馬車の御者さんでも話すことが出来ないとか、ほんとに徹底しているけど、それ位は想定内ですよ。
まだ始まったばかり、僕は負けないぞっと、もっと大きな声を出そうと両手を口の前に置いて声を掛けます。


「あのー聞こえますか?それは夕食ですよね?ちょっとお話しましょうよ」
「・・・・・・」


僕の挑戦はその夜から始まりました。朝昼夜の休憩の度に何度も声を掛け、更には「何処まで行くの?」とか「何日掛かるの?」と質問も踏まえて聞いて行ったんだ。ほんとは母さんとの勉強で知っていますが、御者さんの反応が欲しいのが目的だから返事が来るまで聞いたんだ。


「う~ん、振り向いてくれないね。それならこれを聞いてよ」


僕は自分の生活の話を始めます。情に訴える最後の手を使ってしまった感じだけど、それでも話せるだけで良いんだ。家じゃこんな事言えなかったからね。


「だから僕はね、5歳になるまで外に出られなかったんだ。ひどいと思わない?窓の外では他の子は遊んでるのに、僕だけずっと読み書きをさせられてたんだよ」


御者さんの反応がないのに僕は一人で話します。返事が無いのは仕方ないし、僕はそれでも聞いてほしかった、誰にも言えなくて溜まってたんだよ。
友達と遊びたかったとか、一緒に勉強をしたかったと愚痴った、それは普通の子供が普通にしている事で、それが僕には羨ましく見えたと話したんだ。


「でもね、5歳からは少し良くなったんだよ。なんと外で剣術の稽古と体力づくりが取り入れられたんだ。初めて外に出た時はうれしかったなぁ~」


家の周りだけのほんとに少しの差だったけど、あの時はほんとに嬉しかったよ。剣術と言っても教えてくれる人はいないし、木で出来た剣をただ振るだけで型もなにもなかったけど、ほんとに楽しかった。
外を走り回るのも気持ちが良くて、それを見ている母さんが笑っている様に見えたんだ。


「世界が広がったってすごく嬉しかった、このタイマーの指示通りに生活するのは変わらないのにね」


ポケットに手を入れると、そこには手のひらサイズの丸い魔道具が入っています。その魔道具はタイマーになっていて、時間になるとベルが鳴り課題が文字として表記される、僕はそれに従って生活をしてきました。それが普通なんだと、母さんは何度も僕に言い聞かせて来て悲しそうな顔をする。あれはきっと母さん自信に言っていたんだろうね。


「それからはずっと変わらない毎日だったんだ・・・でもね、母さんと一緒だったから、べつに寂しくはなかったよ」


父さんは家を留守にする事が多かったし、夜に母さんたちのケンカする声もしたけど、暴力は受けてなかった。そんな8年間だったと話しが終わってしまい、それでも御者さんは何も話してきません。きっと御者さんは話してはいけないとか、依頼主から指示されてるのかもしれませんね。


「すみませんでした、長々と僕の愚痴を聞かせてしまって、御者さんとふたりだけだったから、ついいままでの鬱憤が出ちゃったんです。じゃあ僕も中で夕食にしますね、壁のボタンを押せば好きなモノが出てくるから、楽しみだなぁ~」


一人で寂しい夕食をアピールして、僕は窓から離れようとしました。でも、僕が窓から1歩離れた時「待て」と一言を貰い、やっと御者さんの声を聞くことが出来たんだ。
僕は急ぎ窓に戻って身を乗り出して御者さんを見ます。こちらを見る赤い目が光っていて、明らかにヒューマンじゃないのが分かったんだ。


「お前は他の奴とは違うんだな、変わった奴だ」


御者さんがフードを取ると、種族が判明して僕は嬉しくなったよ。茶色い髪を肩まで伸ばした男の人だけど、よく見るまでもなく、とても長い耳が頭から伸びていたんだ。初めての獣人さんだとテンションが上がったね。
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