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2章 発展競争

28話 特別でありたい

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アタシはどこに向かって走ってるのかな?
ジルベルトにアタシが女だと教えて、あんな顔をされたから逃げたけど、アタシの帰るところはあそこしかない。でもそこにはもう帰れない、帰っても今までの様な関係ではいられないからな。


「やっぱり言わなければ良かった、話を誤魔化せばよかったのよ」


今までだって、ふたりで話している時にその話題になったことはあったわ、だけどいつも誤魔化してた。ふたりで過ごすあの時間が楽しくて、どうしても言い出せなかった。
酒を飲んだり、試作の料理を一緒に食べたり、戦闘の時に思っていた事とか、他の誰にも話さない彼の本音を聞けたからよ。ジルベルトの特別なのがとても嬉しくて、どうしても言い出せなかったわ。
走り疲れて立ち止まると、そこは港だった、船が着くわけじゃないから誰もいない、波の音だけが響いて誰も聞いてないのよ。


「丁度良いわね、ここで全部吐き出せば少しは楽になるかもしれないわ」


今の気持ちを全部海にぶつけようとアタシは叫んだ、あんな顔をするジルベルトに嘘なんて言えないし、それにあそこで誤魔化したら、それこそ今の仲も壊れちゃう。
どうするのが良かったのよ!!っと海に向かって大声で叫んだわ。おかげで少しは気が晴れたけど、戻る事は出来ないからこれからどうしようと街の方を向いて、アタシはどうしようと固まりました。そこにはジルベルトが立っていたのよ。


「ど、どどどどうしてここに!?」

「キョーカの事は良く知ってるからな、真っすぐ走って行くだろうからこっちだと思ったんだ」


ギルドからここまで直進だったと、ジルベルトはアタシを見ないで言って来たわ。その後直ぐに頭を下げて謝って来たのよ、でもアタシは謝ってほしくなかった。
謝ると言う事は、アタシを見る目が変わったという事なの、それはもう今までの様な関係ではいられないと、ジルベルト自身が言ったようなものだから、だから嫌で涙が出てしまったわ。


「謝らないでよジルベルト、アタシは謝ってほしくない」

「謝らせてくれよキョーカ、俺は約束を破ったんだ。しかも数秒前にした約束を守れないとかひどすぎだろう」


ジルベルトらしい答えをくれた後、また謝ってくれた。アタシは怒ってるわけじゃないわ、ジルベルトの見る目が変わるのが嫌だったの、今だって前の様に見てくれてない。
だから嫌だったけど、あのままケンカして関係が壊れるのはもっと嫌だった。だからもういいと諦めたわ。女性として一緒に居たら、スタイルの良いチャンミーたちには勝てないけど、いられないよりは良いわ。


「もういいわよジルベルト、帰って仕事を始めましょ」

「いや待ってくれ、俺の気持ちも伝えたいんだ」


横を通ったアタシの肩を掴んで、ジルベルトは止めて来たけど、アタシに対する気持ちなんて聞くまでもないわ、男としての友だったはずよ。
そう思って肩の手を振り払おうとしたけど、ジルベルトの手が両肩に来てアタシは動けなくなったわ、仕方なく聞いてあげると答えたのよ。振り返らないで彼の顔さえ見なければ、彼の気持ちを聞いて泣いても気付かれないと思ったの、この後アタシは絶対泣いてしまうのよ。


「前にも言ったけど、俺は恋愛とかした事なくて、どうしたらいいのか分からないんだ・・・今でもチャンミーたちに迫られると困ってる。だけど、キョーカといる時だけは違ったんだ」

「それは男だと思ってたから当たり前じゃない、今は違うんでしょ」


怖かったけど、アタシから答えを急いだわ、もう泣きそうで我慢できなかったの。ジルベルトの答えは絶対決まってる、そう思って待ってると、そうでもないとか答えが返って来たわ。
嘘を付かないでよっとアタシは言いたいけど、我慢していた涙がこぼれ始めてもう止められなかった、顔を手で隠してもうどうしようも無かったわ。


「男だから女性に話せない事も話したんだけど、それは消せないだろ?だからキョーカが女だって知って、あんな事を女性に聞いてどうしようって考えの方が大きかったんだ。これから相談できる相手がいなくなってどうしようって方も大きかった」


アタシをジッと見た時にそんな事が頭をめぐっていたそうよ。これからも相談に乗ってくれないかとジルベルトが提案してきて、アタシは何だか嬉しかった、またあの時間が訪れるなんて夢みたいよ。
男でないと出来ない話はしないとジルベルトは言って来たけど、それでもアタシだけの時間が終わる事は無くなって嬉しくなったわ。
涙を拭いて振り返ると、ジルベルトが真っ赤になっていて、それを見て何となく分かったのよ。ジルベルトはアタシを励まそうと頑張っていた、泣いている女性を慰めようと必死だったの。夜の相談事は、ほとんどが女性に言えない事だから、今後もなんて無理をしているのがアタシには分かって、彼らしいなんとも不器用な対応ね。


「だ、ダメかな?」

「ダメダメよジルベルト、女性を慰めるなら元に戻すだけじゃダメよ、上乗せしなさい」


相談事が結局できないのだから、元にすら戻ってないと注意したわ、だからこれからは反省も踏まえた提案として、アタシと買い物をする様に言い付けたわ。ジルベルトの手を肩から掴んで引っ張り、まずは服屋ねと案内を始めたわ。
歩きながらも、チャンミーたちの対応はビシッとするようにも伝えたわ、何もしないで戸惑ってるからいけないの。


「ギルド職員を見てる時もそうよ、あの時あなたはスタイルを見ていたわけじゃないとか言ってたわよね?」

「だってほんとの事だ、海に近いから露出の多い服装なのかと、職員の制服に疑問に思ってただけだ」

「それが世間では見ているというのよ、視点が違くても意味はないわ」


チャンミーたちの時もそうよ、ジルベルトは胸を押し付けられて困ってると相談してきたけど、振り払わなかった時点で喜んでると思われていたわ。ジルベルトに相談された時だって、本当は良かっただろ?って聞いて、男だからなとか笑ってた。
それが当たり前になり、より強い刺激の為にエスカレートして今に至るの。ここで拒否しても逆に女性陣たちは本気を出してくるだけになるわ、ジルベルトにそこまでを言うと、顔を青くし始めたわ。


「ど、どうして言ってくれないんだよキョーカ!!」

「だって、あなたも嫌じゃなかったんでしょ?」

「うっ!?」


何も言い返さないジルベルトは、ちょっと赤くなって、男だから仕方ないとか言い訳を口にしていたわね。
物には限度というモノがあるわ、クージュとの戦争からスキンシップが始まり、ここに着くまでに6か月以上が経っているわ、そこまで誰にも手を出してないのはおかしいのよ。


「あなたはアタシに言ったわよね、全員を相手には出来ないって」

「だってそうだろう、断ったら隊を抜けると言われそうだし、全員を相手にしたら俺は死ぬぞ」

「確かにそうだけど、相手にしないのも問題よ、その言葉であなたは逃げてるだけで、欲求は溜まって行くのよ」


男性よりも、女性の方がその欲求は強いわ、それも隊に1人しかいない男性ともなれば余計よね。みんながそれでも我慢しているのは、アタシと同じで隊に居たいからよ、だから何も言わずに女性同士で諫めてアプローチだけを続けてた、正直そっちを褒めたいくらいね。
それもいつかは爆発する、そうなる前に順番でも決めて相手をしなさいとアタシは言ってやったわ。ジルベルトはきつい事を言われてショックを受けて下を向き始めたわ。


「落ち込んでる場合じゃないわよジルベルト」

「キョーカ、男だと思っていた時よりもきつくないか?」

「アタシだって、あなたの優柔不断には苛立ちを覚えていたのよ、隊の為にもこれからは容赦しないわ」


順番を早速決めましょうとアタシは提案したわ、誰からが良いのか聞いてその子に言っておかなくちゃいけないわ。きっとチャンミー当たりだろうと予想していたら、なんとジルベルトはアタシを指名してきたわ。
ジッと見られて戸惑っちゃったけど、どうしてアタシなのよっとアタシは怒ったの、ジルベルトの胸ぐらを掴んで抗議したわよ。


「だって、迫られないし・・・一番安心するから」

「なっ!?何よそれ」


アタシは男として接していたからで、みんなみたいに積極的にしてなかっただけ、考え方を変えれば一番アプローチしていたことになるわ、だから指名されても困るのよ。
内心は嬉しいのよ、ジルベルトを嫌いな女性は隊にいないし、みんなに慕われてる彼に一番だと言われたんだもの。顔が熱を上げ真っ赤になっても仕方ないわよね。


「俺の中で、特別なのはやっぱりキョーカなんだよ・・・だめかな?」

「わ、分かったわよ・・・だけど、アタシだけでなくチャンミーとミーシュは一緒よ、その後は他の子たちもちゃんと相手しなさいよね」


3日に一度は3人を相手にする事と条件を決めたわ、戦場なら女性たちはそれくらいで済ませていたし順当よ。
これで心配事は無くなると、このタイミングで納める事が出来たのは今後を考えて良かったかもしれない、アタシは指名されたドキドキをそんな考えで誤魔化したわ。
まじかよっと戸惑ってるジルベルトは、ちょっと可愛く見え、その顔はいつも夜に見せる物に似てたの。それでアタシたちの関係は変わってないんだと嬉しくなった。
これからもよろしくって、アタシはジルベルトの腕に掴まって歩いたわ。アタシだってチャンミーたちみたいにイチャイチャしたかったのよ。
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