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2章 歩み

32話 アレストの代わりに

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「あなたたち、そのままだと5階層で死ぬわよ」


アレストから貰った資料を見て、ギルドに依頼を求めて来る冒険者に警告をして20日、アタシは早く帰って来てと願っていました。
それと言うのも、初顔の冒険者がどんどん村に来るからで、ここではまず正面の受付ではなく、横に新設したアタシの座る受付を通る事になっていて、そこで注意する事になっているわ。


「な、なんだよ突然」
「あなたたち、今日ここに来たばかりでしょ、遠くから来たのならまずは休みなさい」
「な、何でそんな事言われないといけないんだ」
「稼がないといけないのは分かるけど、あなたの仲間、そっちの彼女は体調が悪いみたいよ」


それを聞き、4人に注目され魔法士の服を着た女性は静かに頷いたわ。
言わなかったのは、村で薬が買えると思ったからで、いきなりダンジョンに入るとは思ってなかったと言ってきたわ。


「だからね、薬を買って今日は彼女を休ませなさい、ここのダンジョンは逃げないわ」
「わ、分かったよ」


素直にギルドを出るPTで楽だったけど、そんな人たちばかりではなく、大きなお世話とか言って来るPTや、何言ってるんだと騒ぐPTもいるの。
そんな時は、元勇者PTのお二人にお仕事を頼む事になり、そんなPTが今日は1組いました。


「な、なんだって?」
「だから、あなたたちは、14階でモンスターに囲まれて死ぬの、だから今日は10階で戻って来なさい」
「何バカな事言ってんだ」


聞き分けのない新たな冒険者は、どうして死ぬのかを事細かに話しても、そのままギルドを出てしまいます。
その時は、止めずにあの2人の出番となり、聞き分けのなかった冒険者も、その後は素直になるんです。


「ジェミナとアラートにまた言わないとだわ」


アレストに貰った資料に新人の数も書かれていて、昼食前にギルドの地下で訓練している二人に声を掛けました。
二人は嫌がらずに喜んでいて、早速救出に向かう事を了承してくれたわ。


「ありがとう、助かるわ二人とも」
「良いんですよキョウコさん」
「そうよ、こちらもとても助かっているわ、またダンジョンに付き合ってね」
「ええ、新人が来ない時はね」


アレストとの約束でもあり、二人の訓練の為にもダンジョンに同行しているわ。
二人がギルドを出ると、次は新人職員の2人、キリキャとリルテですが、二人が一番問題でまた頭を左右に振ってきたわ。


「またそんな評価をして、そんなに男性と付き合いたいの?」
「だって、ねぇキリキャ」
「そうっすよキョウコさん、出会いが多いと思ったからここに来たんっすよ」
「でも、結構かっこいい男性いたじゃない」


二人はそんな基準で冒険者を見ていて、アタシから見ても顔の良い冒険者はいました。
でも、そんな人たちは既に女性が付いてて、あれはダメとか言って来るんです。


「同意するなら重婚でも良いと思うんだけど、どうして嫌なの?」
「だって」
「そうっすよ、自分だけを愛してほしいじゃないっすか」
「それは分からないでもないけど、夜が大変じゃない?」
「「はい?」」


村に帰ってきて、アタシのお話を最初に聞いたアルシュナたちと同じ顔をされましたが、二人はそんな事は無いって首を傾げてきたの。
アレストとの夜はとても激しくて、手加減してもらわないと次の日は動けなくなり、そんな説明をしたら更に驚かれたわ。


「キョウコさん、それは無いですよ」
「そうっす、男性は回数が決まってるっす」
「そうだけど、こちらが倍以上達しちゃうじゃない」
「「はい?」」


やっぱりそんな顔なのねっと、アルシュナたちの時を思い出したわ。
そして、それ以上言うと、アルシュナたちが興味を持ってしまった事を思い出し、二人にはここで止めました。


「それより、夕食一緒に取らない?」
「良いんですか」
「やったっす」
「今日はアルシュナたちも来ないから、つまらないのよ」


アレストがいないとアルシュナたちもダンジョンに集中していて、ダンジョンから戻ってこない事が多くなってて、どんどん強くなっています。
それはとても喜ばしいのですが、何かを企んでいる様でヒソヒソと話している事があるの。


「戻って来たら式を挙げる予定なのに、アルシュナたちがいなかったらアレストが悲しむわよね」


資料を貰わなかったから、命を無くすわけではないと信じていますが、心配してしまうわ。
アレストとの子供が出来たら、こんな心配ばかりをしそうだけど、そんな時でもアレストが傍にいてほしいと願っていました。


「早く帰って来ないかしら」
「また言ってるわ」
「ほんとにアツアツっすねキョウコさん」


二人がうらやましそうにしてきて、何が良いのかと聞いて来たけど、いつでもアタシを思ってくれてるところが良いのだと答えたわ。
重婚をしてもその事は変わらず、あの旅でそれを証明してくれたんです。


「またその話っすか」
「そうですよキョウコさん、男なんて裏切る生き物ですよ」
「彼は特別よ・・・そう、特別なのよ」


二人はまだ知らないから、アタシの言葉を信じてくれないけど、アレストはとても紳士で特別です。
だからこそ、二人の不満もアレストが戻ってくれば解決することで、きっと良い人を見つけてくれます。


「本当ですか?」
「信じられないっす」
「顔だけじゃないのよ、人は一緒にいて安心する相手がいるの」
「「はぁ~」」


アルシュナたちとは違う反応で、まだそんな人を見つけてないと思ったわ。
だからこそ、休みの日は村で買い物をするように言ってるけど、いまだに二人はお相手を見つけられないわ。


「そんな人がいれば、基準を落としても良いじゃない」
「それは嫌です」
「そうっすよ、顔が良いのは最低条件っす」


アレストもその基準ならギリギリらしく、アタシがうらやましいとか言われたわ。
でも、アタシの時は本当に奇跡みたいな出会いで、冒険者との会話が必須と言いました。


「でも、顔がねぇ」
「今の所いないっす」
「まぁまだまだ新人は来るから、その内見つかるわ」


それが来るまで楽しみにしましょうっと、最後に締めくくって食事を作る為に2階に上がりました。
献立はビーフシチューに決めて、パンやサラダを用意しながら煮込み始めました。


「良い匂いがしてますね」
「さすがキョウコさんっす」
「二人とも、手を洗ってきなさい」
「「は~い」」


ギルドを閉めて上がってきた二人は、良い返事をして手を洗い始め、アタシはテーブルに料理を並べました。
アレストがここにいればもっと楽しいのに、早く戻ってきてほしいと願っていたわ。


「まだ半分も経ってないのに、ダメねアタシ」


こんなに離れていた事が無かったのも原因だけど、アレストがいないとどうしても思ってしまい、早く会いたいとそればかりを考えてしまいます。
結婚式よりも楽しみで、次の日に動けなくても良いから、ずっと一緒になっていたいと思っていたわ。


「アレストと一緒にいるミイシャル様も、きっと今頃惹かれるでしょうね」


長く一緒にいるとそれだけ彼の優しさがそうさせてきて、彼無しではいられません。
そんな彼に嫉妬し、PTから追放した元勇者なんてさっさと倒し、早く戻って来てと窓の外を眺めていましたよ。
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