上 下
56 / 102
奇跡のサードステップ

56歩目 アユムは女神?

しおりを挟む
「サバのミソニ出来たよトータス」

「持って行きますね父さん」


僕はトータスと言います、アユムさんのおかげで体が治り、宿のお手伝いをするようになって1週間が経ちました、アユムさんたちがいなくなった数日は大変な騒ぎだったらしいですけど、僕はベッドの上だったので人が沢山来たくらいしか知りません。
僕はアユムさんに助けて貰って夢だった家の手伝いをしています、料理を父さんから受け取りアユムさんの帰りを待っているサージュエルさんのいるテーブルに向かいました。


「おおお、お待ちどうさまです、サージュエル様」

「ありがとうトータス・・・やっぱり帰ってきませんわね、アユムたち」


深めの入れ物をテーブルに置くと、サージュエル様はフォークで中の料理をすくい取り口に入れます、この料理はアユムさんが作ったモノでサバのミソニと言います、これはとても評判です、ショウガという山に生えている草の根を入れる変わった料理です、アユムさんが取って来るまでショウガは誰も食べる事のない草でした、でも今は冒険者ギルドでも収穫の依頼をするほどです、村にも広まりとても美味しいとお酒が進んでいます。


「お嬢、口に物を入れながらしゃべるのはお行儀が悪いですよ」

「今は良いのよハンソン、ここのサバのミソニは他よりも美味しいのですわよ」


サージュエル様が執事の人を無視してお酒を飲みます、ハンソンさんは僕にマネをしないように目線を送ってきました、僕は横で苦笑いをします、おふたりは毎日店に来てくれます、僕は良く知りませんけど、何でもサージュエル様はアユムさんたちと商売の取引をして仲良くなったそうです、姉ちゃんもアユムさんみたいになりたいって、サージュエル様の所に仕事に行っています。


「アユムさんたちはもう帰ってこないんでしょうか、僕はまだお礼を言ってません」


アユムさんにはすごく感謝しています、家がとても繁盛しているのもアユムさんが教えてくれた料理のおかげです、夜になると魚を細切れにして丸く集めたナメロウと言う食べ物や、シェリーという貝のモンスターの身を生で食べる料理も出すんです、シェリーは酸っぱい果物の汁を掛けて食べるととても美味しいんです。
でも父さんと母さんはあまり喜びません、それを言うととても嫌がるんです、繁盛しているのにどうしてなのか教えてくれません、サージュエル様みたいに昼食を食べに来るだけの人だって増えたんだ、人手が足りないから元冒険者の人たちが手伝ってくれています。
5日前の事です、その人たちは宿に押しかけてきました「女神様はおられるか!」と、わけの分からない事を言っていたそうです、冒険者さんたちは「料理の腕を磨いて待つ」と決め、宿を手伝ってくれています。


「そうですわねぇ・・・ドルード殿たちからも連絡があるはずなのですがまだですし、これはわたくしも動かなくてはいけませんわ」


サージュエル様が白米を口に入れてモグモグとしながら何かを決断したようです、料理を全部食べ「ごちそうさま」と僕に言い残し店を出ました、僕はそれを見送りすごく羨ましいと感じましたよ。


「僕も、アユムさんたちの為に何か出来ないのかな」


サージュエル様のテーブルを片付けながら呟き、お椀に少し残った白米を眺めます、白米はゴハンとも言って、まだあまり人気がありません、それと言うのも白米は毒があって食べれないとされてきました、お腹を壊しとてもつらい思いをします、これも山に生えています、でもアユムさんはその毒を取り除いて畑を新たに作り、清らかな水を生み出す小川を流し新しい育て方であるスイデンで白米を作りました、その後小川に作った変わった施設で色々と工程を施し、白いゴハンになるんです、これはサバノミソニとすごく合います、僕はそれがとても好きなんですよ、噛めば噛む程に味がしてあまくて美味しいです。


「評判が悪いのを知りながらもアユムさんはこれを作った、何をしてるんだって言われながらだったはずなんだ、僕も父さんから少しずつ料理を教わってるけど、もっと色々挑戦して頑張りたい」


アユムさんと接した人は大体がそうです、冒険者を止めて料理人を目指し始めたりします、姉ちゃんも頑張ってる1人ですよ。


「ナメロウあがったぞ」

「ベミングさん!突然ですけど、僕に剣術を教えてください!」


その日の休憩時間、僕は厨房で料理をしている冒険者のリーダーだったベミングさんにお願いしに行きました、ベミングさんは頬に大きな傷があって怖い顔をしています、でもすごく良い人なんですよ。


「止めとけよトータス、お前は頑張ってるが体力が無さすぎる、冒険者は無理だ」


調理を止めて直球で断られました、僕は後ろに下がります、でも僕は諦めませんよ。


「そ、それなら体力を付けます!だからお願いします」


僕は真剣です、店の手伝いもみんなの10倍休憩を挟まないと立っていられません、でも最初よりは良くなりました、もっと頑張れば良いだけです。


「兄貴、これだけお願いしてるんです、指導くらいしてやりやしょーよ」

「軽く言うんじゃねぇオザーン!」


ベミングさんが調理台を叩き怒り出しました、その迫力は仲間の人たちを一瞬で黙らせてしまうほどです、正直僕はちびりました、こういった人たちが冒険者になるんだとすごく怖いです。


「どど、どうすれば指導をしてくれますかベミングさん、僕諦めたくないんです」


怖いですけど決死の覚悟で聞きました、ベミングさんが仲間の人たちに向けていた怖い目をしたまま見てきます、僕はもう立ってるのが限界です、足がプルプルとして止まりません。


「根性は認めるぞトータス・・・だがな、お前はもっと世間を知った方が良い、良い奴らばかりじゃないんだ、俺たちの様に悪い事をする奴もいる、そしてあのお方の様に良い人もいるんだ」


ベミングさんが最後にどこか遠くを見ています、きっとアユムさんの事を考えているんです、僕も助けてもらったので何となく分かります、あの人は父さんたちが言うような人ではないですよ。


「それならそれも教えてくださいべミングさん!どんな事もしますお願いします!」


僕は頭を下げてお願いしました、僕は姉ちゃんの様に前に進んで行きたいんです。


「そうか・・・じゃあ教えてやるよ!俺たちは悪人だ、アユム様を捕まえて売り飛ばそうとしたんだ」


僕はその言葉に信じられないって顔をしました、ベミングさんたちはそれを見てちょっと居心地悪そうです。


「嘘ですよね?・・・だってベミングさんたちは顔は怖いけど良い人です、父さんたちの料理を必死で覚えて頑張ってる」

「トータス、人は流され悪い事をする時がある、俺たちはそんな一言で済まないほどの事をやってしまった、アユム様が相手でなかったら命は無かったし、もしあっても犯罪奴隷として鉱山送りだ、だから俺たちはこの命をあの人の為に使うと誓った、お前は知らないだろうが、俺たち5人以外は他の村に行っている、あのお方が作ったという商品を作る為に方々に散り頑張っているんだ」


僕は信じられませんでした、でもベミングさんは嘘を言っていません、それだけは僕にも分かりました、みなさんはその時の事を思い出しすごく暗いです、きっとほんとにアユムさんたちに悪い事をしようとしたんです。


「でも、皆さんは変わろうとしているじゃないですか!助けてもらったって心を入れ替えないで悪い事を続ける人はいますよ、でも皆さんはそんな人たちじゃない!だから僕も変わりたいんです」

「トータス・・・そうか、お前もアユム様に変えてもらったんだな、分かったよ」

「ほんとですか!?」


僕は了承を貰ってすごくうれしいです、でもベミングさんたちはちょっと困ったような顔をしています。


「またライバルが増えやしたね兄貴」

「うう、うるせぇっ!」


ベミングさんが赤くなってオザーンさんを殴り飛ばしました、僕はそれを見ているだけしか出来ませんでしたが、凄い迫力でしたよ。


「どどど、どういうことですか?」

「気にしなくて良いぞトータス・・・って言ってもダメか」


ベミングさんが頭を掻いて言いたくなさそうです、でも僕は凄く聞きたいですよ。


「そ、そんな輝いた眼をするなトータス!そんなたいそうな話じゃない、俺たちがアユム様に惚れたってだけだ」

「え!?・・・でもアユムさんは」


僕はそう言って口を押えました、ベミングさんたちはそれを知ってて言っています、きっとそれは関係がない程の事なんですよ。


「俺たちはあの時一度死んだんだ、そしてアユム様に生き返らせてもらった、女神のようなあの笑顔をもう一度みたい、だから俺たちは頑張っているんだ」


ベミングさんたちがまた遠くを見ています、僕はアユムさんの笑顔を見ていませんがきっとすごく綺麗なんでしょうね。


「僕も見て見たいですべミングさん」

「そうだな、きっと心が洗われるぞ、あの時の俺たちがそうだったんだからな・・・これから頑張れよトータス」

「はい!ありがとうございますベミングさん」


頭を下げこれからの指導をお願いしました、ベミングさんが頭を下げるのは止めろって止めてきます、僕が顔を上げるとベミングさんが困った顔をしていましたよ。


「俺の指導は厳しいぞトータス、まずは体力だ、一度も休まずに仕事を出来るようになれ、まずはそれからだ」

「はいベミング師匠!」


こうして僕は、ベミングさんたちから指導を受けることになりました、まだ体力が無くて全然ですけど、前に進んでいるって思うんです。
そしてその時分かったんです、姉ちゃんもきっとベミングさんたちと同じなんだって、アユムさんの事が好きなんだって思いました。
しおりを挟む
感想 43

あなたにおすすめの小説

ステータス999でカンスト最強転移したけどHP10と最低ダメージ保障1の世界でスローライフが送れません!

矢立まほろ
ファンタジー
 大学を卒業してサラリーマンとして働いていた田口エイタ。  彼は来る日も来る日も仕事仕事仕事と、社蓄人生真っ只中の自分に辟易していた。  そんな時、不慮の事故に巻き込まれてしまう。  目を覚ますとそこはまったく知らない異世界だった。  転生と同時に手に入れた最強のステータス。雑魚敵を圧倒的力で葬りさるその強力さに感動し、近頃流行の『異世界でスローライフ生活』を送れるものと思っていたエイタ。  しかし、そこには大きな罠が隠されていた。  ステータスは最強だが、HP上限はまさかのたった10。  それなのに、どんな攻撃を受けてもダメージの最低保証は1。  どれだけ最強でも、たった十回殴られただけで死ぬ謎のハードモードな世界であることが発覚する。おまけに、自分の命を狙ってくる少女まで現れて――。  それでも最強ステータスを活かして念願のスローライフ生活を送りたいエイタ。  果たして彼は、右も左もわからない異世界で、夢をかなえることができるのか。  可能な限りシリアスを排除した超コメディ異世界転移生活、はじまります。

スローライフとは何なのか? のんびり建国記

久遠 れんり
ファンタジー
突然の異世界転移。 ちょっとした事故により、もう世界の命運は、一緒に来た勇者くんに任せることにして、いきなり告白された彼女と、日本へ帰る事を少し思いながら、どこでもキャンプのできる異世界で、のんびり暮らそうと密かに心に決める。 だけどまあ、そんな事は夢の夢。 現実は、そんな考えを許してくれなかった。 三日と置かず、騒動は降ってくる。 基本は、いちゃこらファンタジーの予定。 そんな感じで、進みます。

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-

ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。 断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。 彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。 通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。 お惣菜お安いですよ?いかがです? 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

#歌は世界を救う?~異世界おっさん探訪記~

takashi4649
ファンタジー
ちょっとブラックな会社に勤めている伊紗歌 慧(33) いつも通り録り溜めたアニメを見て、自分の部屋で寝たはずが…… ……起きたらそこは、深い森の中だった。 森の中で寂しくなり、ついつい歌を口ずさむと精霊たちに囲まれる! 話を聞くと、どうやらこの世界はほぼ音痴しか居らず 精霊たちは歌に餓えているとの事らしい。 いっちょおっさん一肌脱ぐしかない? 特にちぃと能力の無いおっさんが行く、ゆるうた異世界探訪記 果たしておっさんの行く末は如何に? 1話の文章量を少なくしておりますので、いつでもお手軽にスナック感覚で楽しんで戴けたら幸いです。

処理中です...