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第二章

15.ラーロからの贈り物

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 それから三日後、嬉しいことが起こった。ラーロがついにしっかりと立つことができたのだ!
 エリクの手を借りてゆっくりと起き上がったラーロは、エリクが手を離すと、恐る恐る足を一歩踏み出した。もう一歩、もう一歩と歩みを進めていくが、ラーロの大きな体がよろめくことはない。目を輝かせるラーロと目が合うと、シュゼットは大きくうなずいた。
「おめでとう、ラーロ! 傷も良くなってるから、これなら外に出ても良いかもね」
「やったー!」
 ラーロは羽を広げ、小さく円を描きながらサンルームの中を飛び回った。
「シュゼットたちのおかげだよ! ありがとう!」
「元気になって良かった」
 シュゼットはラーロの首にギュッと抱きついた。フワフワの胸毛が、シュゼットの顔をくすぐる。ブロンはキャンキャン吠えながら、嬉しそうにラーロの足元を走り回った。
「そうだ、お礼をしなきゃね。はい、これ」
 シュゼットに離れるように言うと、ラーロは軽く首を振った。すると、ゴトンッと音を立てて、ラーロの右の角が床に抜け落ちた。
「うわ、ビックリした!」
「キャンッ!」
 エリクはビクッと肩を震わせ、ブロンはピョンッとその場で飛び上がった。
「まあ! わざと抜いたの?」とアンリエッタ。
「ううん。もうじき生え変わる頃だったんだ。よかったらシュゼットたちにあげる。おいしい料理をいっぱい食べて、お薬も塗ってくれて、ぼく、すっかり元気なったから、お礼がしたいんだ。高く売れるよ、ぼくらの角」
「そんなの気にしなくて良かったのに」
「ダメだよ。お母さんに怒られちゃう」
 シュゼットはラーロの角にそっと触れた。ラーロの体から抜け落ちた角は、氷のようにヒンヤリと冷たくなっている。色も温かみのあるクリーム色から、冬の雲のような淡い白色に変わっている。綺麗だな、とシュゼットは思った。
「本当にもらっていいのなら、これは大事に取っておくよ。ラーロとの思い出に」
「えー、それじゃあ、お礼にならないじゃない」
「なるよ。ラーロと過ごして、すごく楽しかったもん。ずっと覚えておきたいからさ」
 シュゼットが「ねえ?」と尋ねると、エリクたちは笑顔でうなずいた。
「そんなに言うなら、取っておいて。その方が本当はぼくも嬉しいし」
 ラーロは照れくさそうに頬を赤くして微笑んだ。
「もちろんだよ。この角をリビングに飾っておくから、それを目印に、これからも遊びに来てね」

 その後、ラーロはシュゼットとエリクが仕事へ行く前に飛び立っていった。
 フェリアスが飛ぶと、空には草木の香りを含んだ爽やかな風が吹く。シュゼットはその風を浴びながら、ラーロの背中が小さくなるまで見送り続けた。
 ――どうかラーロがこれからは、ケガが少ない楽しい日々を送れますように。
 そう願いながら。


「――……って、感動的に分かれたのに」
「ラーロの仕業だよな」
「たぶんねえ」
「キューン」
 シュゼットたちはキッチンガーデンの様子を茫然としながら見つめた。
 ラーロがシュゼットたちの元を離れた翌日。
 シュゼットのキッチンガーデンにはフェリアスの他に、グリフォン、ペリュトン、サテュロス、一角獣など、数えきれないほどの魔獣や魔族がいた。
「おいしい料理は?」
「ここを怪我したんだ」
「良い庭だね」
 誰もが同じようなことを言っている。シュゼットはその生き物の波に近づいて行った。
「ちょちょちょ、ちょっと待って! それぞれの話は順番に聞くから! もちろん怪我をしてる子優先で! ……でも、その前に一つ聞いても良い?」
 全員がシュゼットに注目する。
「誰に言われてここに来たの?」
 全員が口をそろえて「ラーロ!」と答えた。
「ラーロが、困ったり、お腹が空いたりしたら、シュゼットの家に行けって」とグリフォン。
「怪我した時も行けって言ってたわ」とペリュトン。
「それから、綺麗な庭も見れるって」とサテュロス。
「あと、お礼をいっぱい持って行けって。シュゼットが売っても良いって思えるくらいの」
 一角獣はそう言うと、首を下ろして、自分の首に下がっていたネックレスを外した。キラキラと輝く大きな石が十二個ついたネックレスだ。
「ダイヤモンドがそれだけあれば、一つくらい売ってくれるでしょう」
「ダ、ダイヤモンド!」
 シュゼットが声を上げると、エリクがククッと笑った。
「ラーロなりに気にしてたんだな。シュゼットが自分の角を売らなかったの」
「人間が生きるには、お金が必要だってわかってたのね。賢い子だから」
 シュゼットはダイヤモンドのネックレスを震える手で持ち上げながら、「それにしてもやりすぎだよ」と苦笑いをした。
 こうして、シュゼットのもとには、よく魔獣や魔族がやってくるようになった。
 みんなお礼を持って、食べ物を求めたり、怪我や病気を相談したりしに来た。
 魔獣や魔族たちの相手をしている間は、嫌がらせのことも、ロラの家であったことも、シュゼットは少しも思い出さなかった。思い出す暇がないの方が正しいかもしれない。しかしシュゼットは、エリクの言った通り、時間を決めて悩み、それ以外の時は愉快な魔獣や魔族と話をしていると、元気が湧いてくる自分がいることに気が付いていた。
「ラーロは、羽と角以外にも素敵なものをくれたね」
 シュゼットは書き物机の椅子に腰を掛けながら、ラーロの羽を手の中でくるくると回した。カンテラの光を受け、フェリアスの羽はキラキラと光った。
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