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第1章
第4話 お嬢様の執事に、見合い話
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そういえば、と言葉を続けた。
「知ってるか、シア」
「なにを?」
子どものようなあどけないしぐさで、首をかしげる。
それをみたクライムは、口の端をあげた。
「ネオのお見合いの話」
「えっ」
突然の言葉に驚き、小さく声をあげた。
ネオが、お見合い?
…どこの誰と?
どうして?
なんの、ために――…?
言葉が理解できずに、頭の中が真っ白になる。
再び首をかしげると、肩から深紅の髪がこぼれた。
こぼれた髪が顔をくすぐる。
…結んでくればよかった。
手で束ねようとすると、クライムが背にまわった。
シアの髪に触れると、近くに控えていた侍女から櫛を受け取る。
慣れたように、シアの髪を梳き始めた。
昔から髪を結うのが苦手なシア。
ただ縛るだけの単純作業なのに、不器用なシアには難易度の高い作業なのだ。
あまりにも結べずに、鏡と数時間睨めっこをしていることもしばしば…。
毎回、満足のいく髪型にならず、最後には他の人に頼ることになる。
そのせいか、シアの身の回りを世話するネオやそばにいるクライムのほうが、髪結いが上達してしまった。
彼らの人生に、役立つ技術ではないのだが…。
シアの髪を梳きながら、クライムは話を続けた。
「相手は、パトリック家のご息女。先日ルードヴィッヒ家を訪れたときにネオをみかけて、いたく気に入ったらしい。容姿端麗であれば身分など関係ない、というのが先方の言い分だ」
「それって……ただ、ネオの見た目が気に入ったってこと?」
「簡単にいえばそうだね」
使用人の立場であるネオ。
彼にとったら、貴族からの求婚なんて申し分ない良縁だ。
使用人にしておくにはもったいないくらいの頭脳と容姿を兼ね備えているネオ。
ルードヴィッヒ家のもとで生涯を過ごすよりも、彼にとってはずっといいはずだ。
そう…。
わかってる…。
シアはゆっくりとため息をついた。
「パトリック家の人がきていたなんで、知らないわ」
「それは君が、お稽古をサボっていた日だからね」
「うぅっ」
痛いところを突かれ、シアは肩を弾ませた。
稽古から逃げていただけなのに、そんな事件が起きているなんて思いもしなかった。
まさかネオに、お見合い話がくるなんて。
もし、ネオが結婚をしたら――…
ネオは、シアのものではなくなる。
四六時中、そばにいたはずのネオが、いなくなってしまう。
ルードヴィッヒ家に仕える意味が、なくなってしまう…。
表情を曇らせたシアの頭を優しくなでる。
シアが悲しい表情を浮かべると、いつも頭をなでてくれる。
「わがままな姫君は、忠犬がいないとなにもできないのか」
「そうじゃないけど…」
けど――…
その先の言葉を飲み込む。
いったところで、なにも変わらないのだから。
口を紡いだシアに向けて、だったら、と言葉を遮る。
「君ももう、後を継ぐことを、本気で考えるべきだ」
諭すような低い声。
その言葉にシアは、
「…わかってる」
と答えた。
「知ってるか、シア」
「なにを?」
子どものようなあどけないしぐさで、首をかしげる。
それをみたクライムは、口の端をあげた。
「ネオのお見合いの話」
「えっ」
突然の言葉に驚き、小さく声をあげた。
ネオが、お見合い?
…どこの誰と?
どうして?
なんの、ために――…?
言葉が理解できずに、頭の中が真っ白になる。
再び首をかしげると、肩から深紅の髪がこぼれた。
こぼれた髪が顔をくすぐる。
…結んでくればよかった。
手で束ねようとすると、クライムが背にまわった。
シアの髪に触れると、近くに控えていた侍女から櫛を受け取る。
慣れたように、シアの髪を梳き始めた。
昔から髪を結うのが苦手なシア。
ただ縛るだけの単純作業なのに、不器用なシアには難易度の高い作業なのだ。
あまりにも結べずに、鏡と数時間睨めっこをしていることもしばしば…。
毎回、満足のいく髪型にならず、最後には他の人に頼ることになる。
そのせいか、シアの身の回りを世話するネオやそばにいるクライムのほうが、髪結いが上達してしまった。
彼らの人生に、役立つ技術ではないのだが…。
シアの髪を梳きながら、クライムは話を続けた。
「相手は、パトリック家のご息女。先日ルードヴィッヒ家を訪れたときにネオをみかけて、いたく気に入ったらしい。容姿端麗であれば身分など関係ない、というのが先方の言い分だ」
「それって……ただ、ネオの見た目が気に入ったってこと?」
「簡単にいえばそうだね」
使用人の立場であるネオ。
彼にとったら、貴族からの求婚なんて申し分ない良縁だ。
使用人にしておくにはもったいないくらいの頭脳と容姿を兼ね備えているネオ。
ルードヴィッヒ家のもとで生涯を過ごすよりも、彼にとってはずっといいはずだ。
そう…。
わかってる…。
シアはゆっくりとため息をついた。
「パトリック家の人がきていたなんで、知らないわ」
「それは君が、お稽古をサボっていた日だからね」
「うぅっ」
痛いところを突かれ、シアは肩を弾ませた。
稽古から逃げていただけなのに、そんな事件が起きているなんて思いもしなかった。
まさかネオに、お見合い話がくるなんて。
もし、ネオが結婚をしたら――…
ネオは、シアのものではなくなる。
四六時中、そばにいたはずのネオが、いなくなってしまう。
ルードヴィッヒ家に仕える意味が、なくなってしまう…。
表情を曇らせたシアの頭を優しくなでる。
シアが悲しい表情を浮かべると、いつも頭をなでてくれる。
「わがままな姫君は、忠犬がいないとなにもできないのか」
「そうじゃないけど…」
けど――…
その先の言葉を飲み込む。
いったところで、なにも変わらないのだから。
口を紡いだシアに向けて、だったら、と言葉を遮る。
「君ももう、後を継ぐことを、本気で考えるべきだ」
諭すような低い声。
その言葉にシアは、
「…わかってる」
と答えた。
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