上 下
4 / 28
第1章

第4話 お嬢様の執事に、見合い話

しおりを挟む
そういえば、と言葉を続けた。

「知ってるか、シア」

「なにを?」

子どものようなあどけないしぐさで、首をかしげる。
それをみたクライムは、口の端をあげた。

 
「ネオのお見合いの話」

「えっ」

突然の言葉に驚き、小さく声をあげた。
 


ネオが、お見合い?
…どこの誰と?
どうして?

なんの、ために――…?



言葉が理解できずに、頭の中が真っ白になる。
再び首をかしげると、肩から深紅の髪がこぼれた。
こぼれた髪が顔をくすぐる。


…結んでくればよかった。
 
手で束ねようとすると、クライムが背にまわった。

シアの髪に触れると、近くに控えていた侍女から櫛を受け取る。
慣れたように、シアの髪を梳き始めた。


昔から髪を結うのが苦手なシア。
ただ縛るだけの単純作業なのに、不器用なシアには難易度の高い作業なのだ。
あまりにも結べずに、鏡と数時間睨めっこをしていることもしばしば…。


毎回、満足のいく髪型にならず、最後には他の人に頼ることになる。
そのせいか、シアの身の回りを世話するネオやそばにいるクライムのほうが、髪結いが上達してしまった。

 
彼らの人生に、役立つ技術ではないのだが…。


 
シアの髪を梳きながら、クライムは話を続けた。

「相手は、パトリック家のご息女。先日ルードヴィッヒ家を訪れたときにネオをみかけて、いたく気に入ったらしい。容姿端麗であれば身分など関係ない、というのが先方の言い分だ」

「それって……ただ、ネオの見た目が気に入ったってこと?」

「簡単にいえばそうだね」


使用人の立場であるネオ。
彼にとったら、貴族からの求婚なんて申し分ない良縁だ。


使用人にしておくにはもったいないくらいの頭脳と容姿を兼ね備えているネオ。
ルードヴィッヒ家のもとで生涯を過ごすよりも、彼にとってはずっといいはずだ。
 

そう…。
わかってる…。
 


シアはゆっくりとため息をついた。

「パトリック家の人がきていたなんで、知らないわ」

「それは君が、お稽古をサボっていた日だからね」

「うぅっ」


痛いところを突かれ、シアは肩を弾ませた。
稽古から逃げていただけなのに、そんな事件が起きているなんて思いもしなかった。

まさかネオに、お見合い話がくるなんて。
 


もし、ネオが結婚をしたら――…
ネオは、シアのものではなくなる。


四六時中、そばにいたはずのネオが、いなくなってしまう。
ルードヴィッヒ家に仕える意味が、なくなってしまう…。



表情を曇らせたシアの頭を優しくなでる。
シアが悲しい表情を浮かべると、いつも頭をなでてくれる。


「わがままな姫君は、忠犬がいないとなにもできないのか」

「そうじゃないけど…」
 


けど――…



その先の言葉を飲み込む。
いったところで、なにも変わらないのだから。



口を紡いだシアに向けて、だったら、と言葉を遮る。

「君ももう、後を継ぐことを、本気で考えるべきだ」
 
諭すような低い声。

その言葉にシアは、
「…わかってる」
と答えた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王妃となったアンゼリカ

わらびもち
恋愛
婚約者を責め立て鬱状態へと追い込んだ王太子。 そんな彼の新たな婚約者へと選ばれたグリフォン公爵家の息女アンゼリカ。 彼女は国王と王太子を相手にこう告げる。 「ひとつ条件を呑んで頂けるのでしたら、婚約をお受けしましょう」 ※以前の作品『フランチェスカ王女の婿取り』『貴方といると、お茶が不味い』が先の恋愛小説大賞で奨励賞に選ばれました。 これもご投票頂いた皆様のおかげです! 本当にありがとうございました!

離縁してほしいというので出て行きますけど、多分大変ですよ。

日向はび
恋愛
「離縁してほしい」その言葉にウィネアは呆然とした。この浮気をし、散財し、借金まみれで働かない男から、そんなことを言われるとは思ってなかったのだ。彼の生活は今までウィネアによってなんとか補われてきたもの。なのに離縁していいのだろうか。「彼女との間に子供ができた」なんて言ってますけど、育てるのも大変なのに……。まぁいいか。私は私で幸せにならせていただきますね。

【完結】公女が死んだ、その後のこと

杜野秋人
恋愛
【第17回恋愛小説大賞 奨励賞受賞しました!】 「お母様……」 冷たく薄暗く、不潔で不快な地下の罪人牢で、彼女は独り、亡き母に語りかける。その掌の中には、ひと粒の小さな白い錠剤。 古ぼけた簡易寝台に座り、彼女はそのままゆっくりと、覚悟を決めたように横たわる。 「言いつけを、守ります」 最期にそう呟いて、彼女は震える手で錠剤を口に含み、そのまま飲み下した。 こうして、第二王子ボアネルジェスの婚約者でありカストリア公爵家の次期女公爵でもある公女オフィーリアは、獄中にて自ら命を断った。 そして彼女の死後、その影響はマケダニア王国の王宮内外の至るところで噴出した。 「ええい、公務が回らん!オフィーリアは何をやっている!?」 「殿下は何を仰せか!すでに公女は儚くなられたでしょうが!」 「くっ……、な、ならば蘇生させ」 「あれから何日経つとお思いで!?お気は確かか!」 「何故だ!何故この私が裁かれねばならん!」 「そうよ!お父様も私も何も悪くないわ!悪いのは全部お義姉さまよ!」 「…………申し開きがあるのなら、今ここではなく取り調べと裁判の場で存分に申すがよいわ。⸺連れて行け」 「まっ、待て!話を」 「嫌ぁ〜!」 「今さら何しに戻ってきたかね先々代様。わしらはもう、公女さま以外にお仕えする気も従う気もないんじゃがな?」 「なっ……貴様!領主たる儂の言うことが聞けんと」 「領主だったのは亡くなった女公さまとその娘の公女さまじゃ。あの方らはあんたと違って、わしら領民を第一に考えて下さった。あんたと違ってな!」 「くっ……!」 「なっ、譲位せよだと!?」 「本国の決定にございます。これ以上の混迷は連邦友邦にまで悪影響を与えかねないと。⸺潔く観念なさいませ。さあ、ご署名を」 「おのれ、謀りおったか!」 「…………父上が悪いのですよ。あの時止めてさえいれば、彼女は死なずに済んだのに」 ◆人が亡くなる描写、及びベッドシーンがあるのでR15で。生々しい表現は避けています。 ◆公女が亡くなってからが本番。なので最初の方、恋愛要素はほぼありません。最後はちゃんとジャンル:恋愛です。 ◆ドアマットヒロインを書こうとしたはずが。どうしてこうなった? ◆作中の演出として自死のシーンがありますが、決して推奨し助長するものではありません。早まっちゃう前に然るべき窓口に一言相談を。 ◆作者の作品は特に断りなき場合、基本的に同一の世界観に基づいています。が、他作品とリンクする予定は特にありません。本作単品でお楽しみ頂けます。 ◆この作品は小説家になろうでも公開します。 ◆24/2/17、HOTランキング女性向け1位!?1位は初ですありがとうございます!

契約書は婚姻届

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「契約続行はお嬢さんと私の結婚が、条件です」 突然、降って湧いた結婚の話。 しかも、父親の工場と引き替えに。 「この条件がのめない場合は当初の予定通り、契約は打ち切りということで」 突きつけられる契約書という名の婚姻届。 父親の工場を救えるのは自分ひとり。 「わかりました。 あなたと結婚します」 はじまった契約結婚生活があまー……いはずがない!? 若園朋香、26歳 ごくごく普通の、町工場の社長の娘 × 押部尚一郎、36歳 日本屈指の医療グループ、オシベの御曹司 さらに 自分もグループ会社のひとつの社長 さらに ドイツ人ハーフの金髪碧眼銀縁眼鏡 そして 極度の溺愛体質?? ****** 表紙は瀬木尚史@相沢蒼依さん(Twitter@tonaoto4)から。

今さら救いの手とかいらないのですが……

カレイ
恋愛
 侯爵令嬢オデットは学園の嫌われ者である。  それもこれも、子爵令嬢シェリーシアに罪をなすりつけられ、公衆の面前で婚約破棄を突きつけられたせい。  オデットは信じてくれる友人のお陰で、揶揄されながらもそれなりに楽しい生活を送っていたが…… 「そろそろ許してあげても良いですっ」 「あ、結構です」  伸ばされた手をオデットは払い除ける。  許さなくて良いので金輪際関わってこないで下さいと付け加えて。  ※全19話の短編です。

私がいなくなったせいで店が潰れそうだから再婚してください?お断りします。

火野村志紀
恋愛
平民のリザリアはフィリヌ侯爵が経営する魔導工芸品店に経理として就職後、侯爵子息のトールと結婚することとなる。 だが新婚生活は上手くいかなかった。トールは幼馴染のアデラと関係を持つようになる。侯爵夫妻には夫に浮気をさせるつまらない妻と蔑まれ、リザリアは離婚前提の別居を強要されるも、意外にもあっさり了承した。 養子先であるディンデール家に戻ったリザリアはきっと追い出されるに違いないと、トールたちは笑っていたが……。 別名義で『小説家になろう』様にも投稿しています。

伯爵家に仕えるメイドですが、不当に給料を減らされたので、辞職しようと思います。ついでに、ご令嬢の浮気を、婚約者に密告しておきますね。

冬吹せいら
恋愛
エイリャーン伯爵家に仕えるメイド、アンリカ・ジェネッタは、日々不満を抱きながらも、働き続けていた。 ある日、不当に給料を減らされることになったアンリカは、辞職を決意する。 メイドでなくなった以上、家の秘密を守る必要も無い。 アンリカは、令嬢の浮気を、密告することにした。 エイリャーン家の没落が、始まろうとしている……。

はっきり言ってカケラも興味はございません

みおな
恋愛
 私の婚約者様は、王女殿下の騎士をしている。  病弱でお美しい王女殿下に常に付き従い、婚約者としての交流も、マトモにしたことがない。  まぁ、好きになさればよろしいわ。 私には関係ないことですから。

処理中です...