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第6章
第34話 ガレットとジェイス
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テーブルに食器を並べながら、《サラ》は厨房を覗きこむ。
次の料理はまだ出来上がらないようだ。
ちょっと早かったかな、と思いながらも、30人分の皿を並べ終えた。
「ガレットさぁーん、食器並べ終わっちゃった」
「お、ありがとさん。そしたら、こいつの盛りつけしてもらってもいいか」
指差した先には、冷たいデザート。
皿に手を添えると、ひんやりとして気持ちがいい。
「盛りつけって、どうやれば……?」
「そこに、盛りつけの見本置いてあるぞ」
見本として置かれている皿に目を向けた。
白いドーム型のプリンの上にミントのような飾りを乗せ、チョコレートソースをかけて完成のようだ。
完成形がわかっても、やり方がわからない。
デザートをじっくりと見ている《サラ》に、ガレットはニカッと笑った。
「それな、牛乳プリンだ。型のまま冷蔵庫で冷やしてあるから、皿の上にひっくり返して乗せて、その上にミントを乗せるだけだ。チョコレートソースは好みがあるし、自分たちでかけるから大丈夫だ」
「はぁーい」
普通の子どもなら、誰もが知っているようなことでも、《サラ》は知らない。
簡単なことでも、《サラ》にはやり方がわからない。
そんな自分に苛立つけれど、ガレットはいつも優しく、ていねいに教えてくれた。
掃除の仕方、お茶の注ぎ方――すべてのやり方を、ガレットが辛抱強く教えてくれた。
なぜわからないのか、などと疑問を向けることなく、《サラ》が戸惑っているのをすぐに理解してくれた。
冷蔵庫の中を開けると、ドーム型に入った白いプリンが並んでいた。
型の中を覗きこむと、ミルクの香りが漂って、美味しそう。
冷蔵庫から取り出すと、手がひんやりと冷たくなった。
「うー、冷たぁーい」
何度も落としそうになりながら、皿のあるところまで運ぶ。
寒さに耐えきれず、何度も手を擦って暖をとった。
「サラちゃんの柔肌じゃ、この仕事はキツいかぁ?」
「そ、そんなことないわ。私にだって出来ます」
むっと頬を膨らませると、ガレットは大きく笑った。
冷たいドーム型のプリンをとり、皿の上でくるりとひっくり返した。
型の中から、ぷるんっとプリンが飛び出す。
気持ちよく出てくるプリンを見て、《サラ》は頬を緩めた。
ミントの葉で彩りを加えると、ルーチェは瞳を輝かせた。
「で、……出来ましたぁ」
「おー、すげぇ、すげぇ」
嬉しそうに声を上げた《サラ》に、ガレットはたまらずに頭を撫でた。
飼い猫を愛でるように、笑い合う2人。
笑い声を聞きつけたかのようなタイミングで、男が1人、厨房に入ってきた。
疲れた様子の男は、自分の頭を押さえながら、ふらふらと歩いている。
「ジェイスさん、どうされたんですか?」
ジェイスと呼ばれた男は、片手に本のようなものを抱えながら、空のコップを手にとった。
冷蔵庫を開けて、作り置きのアイスコーヒーをコップに淹れると、一気に飲み干した。
ふぅっと息をつくと、ようやく《サラ》を見た。
「いやぁー……それがさ、いままで航海日誌を書いてたんだよ」
「それは、お疲れさまです。――そんなに疲れるほど、溜めこんでいたんですか?」
「まぁね。でも、もうちょっとで終わりそうなんだ」
「ってか、いつから溜めていたんですか……」
ジェイスは思い出すように、天井を仰いだ。
「3年くらい前かな」
「うわぁ……よく思い出せますね」
「思い出せないよ。適当に書いてるんだ」
にしし、と無邪気な笑顔を見せるジェイスは、海賊一味の中でも一番下っ端。
年齢も《サラ》に近いようで、船員の中でも話しやすい。
おかわりのコーヒーを注ぐと、ガレットは甘い饅頭を手渡した。
「ほれ、疲れには糖分補給」
「おぉー、シェフ・ガレット! さすがっス! 救世主っス!」
かなり根詰めて日誌を書いていたようだ。
ジェイスは涙ぐみながら、渡された饅頭を頬張った。
次の料理はまだ出来上がらないようだ。
ちょっと早かったかな、と思いながらも、30人分の皿を並べ終えた。
「ガレットさぁーん、食器並べ終わっちゃった」
「お、ありがとさん。そしたら、こいつの盛りつけしてもらってもいいか」
指差した先には、冷たいデザート。
皿に手を添えると、ひんやりとして気持ちがいい。
「盛りつけって、どうやれば……?」
「そこに、盛りつけの見本置いてあるぞ」
見本として置かれている皿に目を向けた。
白いドーム型のプリンの上にミントのような飾りを乗せ、チョコレートソースをかけて完成のようだ。
完成形がわかっても、やり方がわからない。
デザートをじっくりと見ている《サラ》に、ガレットはニカッと笑った。
「それな、牛乳プリンだ。型のまま冷蔵庫で冷やしてあるから、皿の上にひっくり返して乗せて、その上にミントを乗せるだけだ。チョコレートソースは好みがあるし、自分たちでかけるから大丈夫だ」
「はぁーい」
普通の子どもなら、誰もが知っているようなことでも、《サラ》は知らない。
簡単なことでも、《サラ》にはやり方がわからない。
そんな自分に苛立つけれど、ガレットはいつも優しく、ていねいに教えてくれた。
掃除の仕方、お茶の注ぎ方――すべてのやり方を、ガレットが辛抱強く教えてくれた。
なぜわからないのか、などと疑問を向けることなく、《サラ》が戸惑っているのをすぐに理解してくれた。
冷蔵庫の中を開けると、ドーム型に入った白いプリンが並んでいた。
型の中を覗きこむと、ミルクの香りが漂って、美味しそう。
冷蔵庫から取り出すと、手がひんやりと冷たくなった。
「うー、冷たぁーい」
何度も落としそうになりながら、皿のあるところまで運ぶ。
寒さに耐えきれず、何度も手を擦って暖をとった。
「サラちゃんの柔肌じゃ、この仕事はキツいかぁ?」
「そ、そんなことないわ。私にだって出来ます」
むっと頬を膨らませると、ガレットは大きく笑った。
冷たいドーム型のプリンをとり、皿の上でくるりとひっくり返した。
型の中から、ぷるんっとプリンが飛び出す。
気持ちよく出てくるプリンを見て、《サラ》は頬を緩めた。
ミントの葉で彩りを加えると、ルーチェは瞳を輝かせた。
「で、……出来ましたぁ」
「おー、すげぇ、すげぇ」
嬉しそうに声を上げた《サラ》に、ガレットはたまらずに頭を撫でた。
飼い猫を愛でるように、笑い合う2人。
笑い声を聞きつけたかのようなタイミングで、男が1人、厨房に入ってきた。
疲れた様子の男は、自分の頭を押さえながら、ふらふらと歩いている。
「ジェイスさん、どうされたんですか?」
ジェイスと呼ばれた男は、片手に本のようなものを抱えながら、空のコップを手にとった。
冷蔵庫を開けて、作り置きのアイスコーヒーをコップに淹れると、一気に飲み干した。
ふぅっと息をつくと、ようやく《サラ》を見た。
「いやぁー……それがさ、いままで航海日誌を書いてたんだよ」
「それは、お疲れさまです。――そんなに疲れるほど、溜めこんでいたんですか?」
「まぁね。でも、もうちょっとで終わりそうなんだ」
「ってか、いつから溜めていたんですか……」
ジェイスは思い出すように、天井を仰いだ。
「3年くらい前かな」
「うわぁ……よく思い出せますね」
「思い出せないよ。適当に書いてるんだ」
にしし、と無邪気な笑顔を見せるジェイスは、海賊一味の中でも一番下っ端。
年齢も《サラ》に近いようで、船員の中でも話しやすい。
おかわりのコーヒーを注ぐと、ガレットは甘い饅頭を手渡した。
「ほれ、疲れには糖分補給」
「おぉー、シェフ・ガレット! さすがっス! 救世主っス!」
かなり根詰めて日誌を書いていたようだ。
ジェイスは涙ぐみながら、渡された饅頭を頬張った。
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