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第1章 生誕祭

第1話 15歳の誕生日

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 ルバーニャ国を東西に分ける【コキュートス川】から、春の香りが風に乗って鼻をくすぐる。

 川の東側にあるルバーニャ国の王都【ザルファ都市】では、真っ昼間にもかかわらず、盛大な花火を打ちあげていた。
 強い日差しに霞むことなく咲き誇る花々は、空で大輪を咲かせては、いさぎよく散っていった。


 打ち上げる音に負けないくらい、活気づいた人々の声で賑わっていた。
街中は、歩くのも困難なほど大勢の人で溢れている。

 街に並ぶ店には祝いの装飾がほどこされ、いつになく賑わっている。


 この日、ルバーニャ国では第2皇女の15回目の生誕祭がおこなわれていた。





 少女が1人、王宮の窓辺で祭りの様子をうかがいながら溜息をついた。

 少女の名前は、ルーチェ・フィール。
 今日、15歳になったばかりの第2皇女だ。

 金色に輝く髪を風になびかせて、ラピスラズリのように煌めく瞳で外を見つめた。

(つまんない……)

 王宮の外では、大勢の国民がお祭り三昧。
 かたや、生誕祭の主役であるはずのルーチェは、護衛がついている王宮に閉じ込められていた。

 静寂に包まれた部屋の中、ルーチェの瞳は憂いに満ちている。
 活力が沸かない理由は、護衛が部屋の入口をふさいでいるからだ。


 王宮の中ですら、自由のない生活。


 窮屈な生活は、いまに始まったことではない。

 ルーチェは生まれてから一度も、この王宮から出たことがなかった。
 衣食住を与えられている代わりに、行動の自由を禁じられているのだ。



「なぜ、外へ出させてくれないの?」

 疑問に思ったルーチェは、幼い頃に父王へ問いかけた。
 だが父王はその言葉に顔色を一変させ、ルーチェを鍵のかかった部屋に閉じ込めた。

 理由はわからなかったが、『聞いてはいけなかったこと』なのだと悟った。



 それ以来、父王の言いつけを守り、おとなしく部屋にこもっていたルーチェ。

 しかし15歳を迎えたいまは、ルバーニャ国では大人として認められている。

 大人なのだから、自分のことは自分で決めたいのに……。



 ルーチェは視線を落とすと、床に散らばっている写真を一瞥した。

(なんで、知らない人が婚約者候補なのかしら)

 床に広がっているのは、複数の見合い写真。
 1枚も目を通した様子はなく、無造作に置かれていた。

 ルバーニャ国では15歳になると、成人として認められる。
 それは皇女であるルーチェも該当していることだ。


 しかし王族は、【15歳の誕生日を迎えたあと、国王の決めた相手と婚姻の儀を結ばなければならない】と法で定められていた。

 期限は、18歳になるまでの3年間。
 婚姻の儀は王族の義務であり、すべての王族が法に従っていた。


 法の通り、20歳になる兄には妻が、18歳になる姉は結婚式を控えている。



(どれもこれも、オジサンばっかり。もっと、年齢を考えて欲しいわ)

 まだ遠い未来のことだと思っていた結婚。
 それなのに、現実を突きつけるかのように見合いが次々とやってくる。

 身勝手な法は、ルーチェの生活をよりいっそう窮屈にさせていた。
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