上 下
64 / 73
第四章 暗黒神編

第64話 六魔

しおりを挟む
ストローを口に息を吹き入れ泡を立てて遊ぶシャリエル、それを見ていたグレーウルフの仲間達は彼女の異変にすぐ気が付いた。


「元気無いねシャリエル」


心配そうに背中をさするアーネスト、元気が無い……確かにそうだった。


理由はセリス、暗黒神復活から一週間全く姿すら見せない……何処で何をしているのかが無性に気になって居たのだった。


最近各国の至る所で魔人族や魔獣が出現し大陸はかつて無いほどに危険な状態となって居る……セリスの事を気にしている場合では無いのは分かっているが何故か彼の所為で妙に調子が狂ってしまった。


「恋……ですか?」


「こ、こ、恋?!」


サレシュの言葉に動揺するシャリエル、自分がセリスに恋をして居る?あり得なかった。


いや、この感情は恋をして居る自分を信じたく無い……そんな感情だった。


「はぁ……何やってんのかな」


ため息を吐くとシャリエルはそっと空を仰いだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「うーむ」


高価な茶器を片手にバルコニーでチェス盤を眺め唸る様な声を出すアルシャルテ、向かい側に座り相手をして居るアルセリスは困惑して居た。


たまたまオーリエス帝国に休暇を兼ねて寄ったのは良いがまさか皇帝のチェス相手をするとは思わなかった、話しがあると言われ連れてこられたは良いが……一向に話し出す様子も無い、それに加えてアルシャルテ、彼は驚く程にチェスが弱かった。


天才軍師と言われている皇帝が役割すらあやふやな初心者よりも弱いとは驚きが一周してもはや驚けないレベルだった。


「そう言えば最近魔人が各地で発見される様になってな」


ナイトの駒を動かしながら言うアルシャルテ、アルセリスは盤面を見つめながら無言で頷いた。


「冒険者の間では暗黒神の復活で持ちきりだ、魔なる物が動きし時闇の復活は近い……ってな」


「魔なる者……ですか」


知らない程のリアクションを取りながらアルシャルテのキングを取る、するとアルシャルテは分かりやすく悔しそうなリアクションをした。


「正直暗黒神などお伽話とばかり思っていた、だが魔物や魔獣の出現頻度を見るとな」


そう言い冒険者の名前にばつ印が振られた紙を取り出す、ざっとその数は百を超えて居た。


「オーリエス帝国だけでこれだ、他国も合わせると……数千は行くかも知れん」


低級の冒険者ばかりがやられているとは言えその数字に軽く驚く、とは言えアルカド王国の部下たちは精鋭揃い、負けはゼロに等しかった。


問題はどうやって民衆に好印象を植え付けるか、ランスロットの件もありなるべく補佐達の単独行動は避けたい所だった。


「そう言えばアダムスを覚えているか?」


「確かアルスセンテの中では一番実戦不足の……」


「そうだ、彼が西に数十キロ地点の古城で特異な魔物を見つけてな、今調査中だ」


特異な魔物と言う言葉に反応するアルセリス、恐らく暗黒神が従える六魔だった。


ゲーム時代の強さはかなりの物、シャリエルでも勝てるか怪しい強さ……ちょうどアルカド王国を売り込むのに良さそうだった。


「なんなら私が行きましょうか?」


そう言い立ち上がるアルセリス、その姿を見てアルシャルテは嬉しそうに笑った。


「ちょうど頼みたかった、今のアダムスでは少し心配でな」


そう言い苦笑いをするアルシャルテ、確かにアダムスは弱いが『今の』と言う言葉が少しばかり気になった。


「それじゃあ依頼承りました」


それだけを言い残し冒険者ギルドの入り口へ貴族風で尚且つ傷だらけの冒険者を装い転移する、そして息を整えギルドに駆け込むと必死の形相を作り叫んだ。


「西の古城で魔物だ!仲間が戦っている、報酬は言い値で払うから助けてくれ!」


そう言い倒れこむ、すると近くの冒険者は何事かと駆け寄ってきた。


「どうした!?すごい怪我だぞ!」


「西の古城で魔物と遭遇した、アダムス様が交戦中だが増援が欲しい、勿論報酬は言い値で払う」


その言葉に冒険者達の殆どが立ち上がる、やはり金の亡者……作戦は成功だった。


ふらふらとした足取りでトイレに入ると遮音魔法を使い外部に音が漏れない様にする、そして耳に手を当てた。


『フェンディル、手は空いているか?』


『はい』


雑音が混じりながらもフェンディルの低い声が聞こえてくる、するとアルセリスは少し早口で言った。


『西の古城で魔物が発生したらしい、恐らく六魔の一体、アダムスと言う男が先に行っているらしいがギリギリまで手助けはするな、死ぬ一歩手前位で助けに入れ』


その言葉にフェンディルは了承しながらも疑問を隠せない様子だった。


『回りくどい事をする理由はアルカド王国の存在を知らせる為だ、倒した時にアルカド王国の事も伝うる様に』


『かしこまりました』


そう言い残すとフェンディルは通話を切る、面倒くさいがこれは王国を好印象で表舞台に立たせる為……正直自分が戦いたかったが仕方ないだろう。


暗黒神との戦いもまだ残っている……後は他の守護者達の役割も考えなくてはならなかった。


「一週間の休暇も短いものだな」


そう言いアルセリスは笑うとトイレから姿を消した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

Lunaire
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

異世界転生したらよくわからない騎士の家に生まれたので、とりあえず死なないように気をつけていたら無双してしまった件。

星の国のマジシャン
ファンタジー
 引きこもりニート、40歳の俺が、皇帝に騎士として支える分家の貴族に転生。  そして魔法剣術学校の剣術科に通うことなるが、そこには波瀾万丈な物語が生まれる程の過酷な「必須科目」の数々が。  本家VS分家の「決闘」や、卒業と命を懸け必死で戦い抜く「魔物サバイバル」、さらには40年の弱男人生で味わったことのない甘酸っぱい青春群像劇やモテ期も…。  この世界を動かす、最大の敵にご注目ください!

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

女神の白刃

玉椿 沢
ファンタジー
 どこかの世界の、いつかの時代。  その世界の戦争は、ある遺跡群から出現した剣により、大きく姿を変えた。  女の身体を鞘とする剣は、魔力を収束、発振する兵器。  剣は瞬く間に戦を大戦へ進歩させた。数々の大戦を経た世界は、権威を西の皇帝が、権力を東の大帝が握る世になり、終息した。  大戦より数年後、まだ治まったとはいえない世界で、未だ剣士は剣を求め、奪い合っていた。  魔物が出ようと、町も村も知った事かと剣を求める愚かな世界で、赤茶けた大地を畑や町に、煤けた顔を笑顔に変えたいという脳天気な一団が現れる。  *表紙絵は五月七日ヤマネコさん(@yamanekolynx_2)の作品です*

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

処理中です...