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第四章 暗黒神編

第61話 オーフェン編2

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森に一歩足を踏み入れるオーフェン、その瞬間辺りの空気が変わったような気がした。


重苦しい雰囲気……鬱蒼と生い茂った木々で太陽の明かりは森に差さず暗いままだった。


ふと後ろを歩くカレスの方を振り向くと少し苦しそうな表情をして居た。


「どうした?」


「何でもない……大丈夫」


心配するオーフェンを他所にカレスは息を整える、この森に長居するのは危ないかも知れなかった。


森の木々から尋常では無い魔力エネルギーを感じる……この森自体が生きている様だった。


恐らくカレスの苦しげな表情の理由は魔力を少しずつ木々に吸い取られているのだろう、一般人は基本的に魔力をコントロールする事が出来ない、故に魔力を体内に留める方法を知らない……魔力は命とリンクしている為無くなれば死ぬ……この森にカレスを長居させると死ぬ危険性があった。


「早く……倒さないと行けないか」


近くにあった木を触り魔力の流れを感じ取る、魔力は根を伝い……大樹があった方面に流れて居た。


オーフェンは剣を抜くと魔力の流れを辿り歩いて行く、その後ろをカレスも付いてくるがやはり辛そうだった。


とは言え自分に出来る事は無い、魔力を分け与える事も出来るが繊細な魔力コントロールを有する、少しでも調整をミスればその時点で体が魔力量に耐えられず爆発してしまう、そんな技量は持ち合わせて居なかった。


自分にやれる事はアルクスネを素早く倒す事……暫く実戦も無く王国に篭りっきりだった故に……楽しみだった。


オーフェンは剣を握り締めると少し頬の口角が上がる、その時後ろを歩いて居たカレスが口を開いた。


「君って何処の村出身なの?」


「辺鄙な……何も無い村だよ」


少しキツそうながらも尋ねてくるカレスの言葉に間髪入れずに答える、世間話は少なくともアルクスネを倒してからにして欲しかった。


「ふふっ、この村見たいね……なんだか貴女を見てると妹を思い出すの」


「妹……ね」


確かに髪の毛の色は似ている、瞳の色もピンクとそこも……だがこの身体の主については何も知らない、気が付けばこの姿で生き返って居たのだから。


何故この身体なのか、どうやって生き返ったのか……何も分からない、分かる事は目を覚まして初めて視界に入って来たのがアルセリス様だったと言う事だけ……知ろうとした事も無かった。


「思い出す……その口振りだと妹はもう?」


「えぇ、遠方から来た何処の所属か分からない旅の騎士団に殺されてしまった……背中に一太刀で」


悔しそうに言うカレス、騎士団と言えどその全てが正義を掲げている訳では無い……運が悪かったとしか言いようが無かった。


「それは残念だ」


そう言いオーフェンは魔力の流れに集中する、すると数百メートル行った地点に大量の魔力が流れ着いている言わば終点を感じた。


その瞬間オーフェンは無言でカレスに制止を掛ける、アルクスネ……暗黒神程の強さは無いにしても幹部級の魔族……リハビリにはちょうど良さそうだった。


「ここで待ってて、すぐ終わらせるから」


そう言って護身用の剣を渡し魔力の流れが収束する方へと歩いて行く、やがて生い茂って居た木々は近くに連れて無くなり、折れた大樹を中心に開けた場所へと出た。


「あらあら、可愛いお嬢ちゃんが来たわね」


背後から声がする、だがオーフェンは振り向かず答えた。


「演技は要らん、誰か分かっているだろ」


「ええ……オーフェン、懐かしい人がまた訪れましたね」


ふふっと言う笑い声と共に身体のラインがくっきりと見える服を着た黒髪の女性が大樹の近くから姿を現わす、アルクスネ……数十年振りに見るが相変わらず若いままだった。


「御託は良い、がっかりさせないでくれよ」


そう言いオーフェンは剣を抜くとアルクスネ目掛け駆け出す、だが彼女が手を上げると行く手を大樹の根が邪魔した。


「もう毒魔法とかは使えないけどその代わりに得た魔法なの」


そう言いクスクスと笑うアルクスネ、彼女自体に魔力は然程感じられない……その瞬間オーフェンはため息を吐いた。


「残念だ、そんな状態だったとは」


「は?」


オーフェンの言葉を聞きあからさまに態度が変わるアルクスネ、彼女の表情は歪み始めて居た。


「お前は過去に負った傷の影響で多大なる魔力を維持できなくなりこの大樹を代わりの器にして一命を取り留めた……だがそこで一つ問題が生じる、大樹に魔力を移したことにより大樹から離れられなくなった」


「ぐっ……」


「食事は大樹を拝みに来る村人を食って繋いだのだろうが彼らも魔力を有している、そんな生活を続けているうちに大樹も魔力に耐えられなくなり折れた……焦ったお前は大樹の魔力を木々にする事で事無きを得た……だがそれを不審に思い近隣諸国から度々冒険者が来るようになった、それらを殺しているうちに魔力は溜まり森は拡大、一見絶大な力を手に入れたかに見えるがそれは自分自身を森に縛り付ける行為だった……何せお前自身、若さを保つ魔力だけで身体がパンク寸前なんだからな」


その言葉にアルクスネの表情は悍ましいものに変わって居た。


「何故一目でそこまで分かる!!」


「カレスの証言だよ、千人を超える村人が殺され……そして森の規模が拡大、冒険者達も死に、それに合わせて更に拡大……一見大規模な魔力を集めているかに見えるがこの森以外で被害を聞かない所を想像するとお前はこの森から動けない……少し考えれば分かることさ」


「ぐっ……た、確かに私はこの森から動けない……だが暗黒神様に身体を癒して貰えれば私は絶大な力を得る!」


大樹の前で両手を広げて叫ぶアルクスネ、それにオーフェンは呆れた表情で首を振った。


「それはさせないさ」


「貴様如き……この森の力を持ってすれば!!」


そう言い大樹に手を当てるアルクスネ、彼女自身ではもう操れない程に魔力が膨れ上がっているのだろう。


オーフェンは剣をアルクスネ目掛け投げる、だがそれは木々に阻まれ、彼女の足元に落ちた。


次の瞬間迫る木々の枝、だがオーフェンは余裕の表情だった。


『ヘラ・アクスト』


オーフェンがそう唱えた瞬間襲い来る木々の枝が止まった。


「大した魔力だよ……だがこの魔力はもうお前のものでは無い、この森が言うようにな」


そう木々の枝がアルクスネを突き刺そうとしている眼前で止まった光景を見ながらオーフェンは呟く、彼女は離れようと思えばこの森から離れる事が出来た筈だった。


「終わりだよ」


そう言い地面に落ちていた剣を拾い上げ魔法を解く、そして剣をゆっくりとガラ空きのアルクスネの心臓に突き刺した。


すると木の枝は動きを止めアルクスネは目を剥いて驚いて居た。


「な、なぜ私が……剣を」


突然の事に驚いている様子だった。


「時止め魔法だよ」


「な!?禁忌を……時の禁忌を侵したのか!?」


「さぁな」


身体から煙を上げるアルクスネを前にそう曖昧な返事をするオーフェン、やがて彼女の体は艶のある若い体では無く……老体へと変わって居た。


年にして凡そ300歳以上、それを20前後の身体で保つには尋常では無い魔力を要する、恐らく彼女は醜い姿で生きるくらいならこの森に縛られながらも大量の魔力を消費し続けて生きる方が良かったのだろう。


魔力量からすればあと数千年は生きれた筈なのだから。


時の禁忌を侵した……彼女も禁忌を侵している罪人なのに良くそんな事が言えたものだった。


見た目が変わらないという事はそういう事……オーフェンは大樹にてを当てると森の魔力を全て吸収した。


木々は粉々になり消えて行く、やがて辺りは元の草原へと変わって居た。


「あ、アルクスネは?」


「もう倒したよ」


カレスの声に振り返るオーフェン、するとカレスはなぜかオーフェンに近づいて来ていた。


「な、なに?」


「なんか……頬の艶やもちもち感が……それなち髪の毛もより一層サラサラになってる」


そう言い頬を触り髪を触るカレス、あれだけの魔力を吸収したのだから恐らく身体が少し若返ったのだろう。


「取り敢えず……依頼完了だ」


そう言って伸びをする、その時背中に違和感を感じた。


妙にスースーする……懐から鏡を出して背に回し確認すると背中の服が恐らく枝による攻撃で破れて居た。


その瞬間オーフェンの表情が険しくなった。


その様子にカレスは疑問を抱く、そして鏡を覗き見るとそこには大きな傷があった。


まるで妹が受けた傷の様に。


「そ、それって……」


「偶然だ……」


「で、でも……」


「偶然だと言っているだろう!!」


そう怒鳴りつけるオーフェン、混乱して居た。


この身体を気にした事など無かった……それ故に傷も気が付かなかった。


見た目の特徴、カレスに妹が居り騎士団に殺された事……そしてその時に出来た傷……全て自分に当てはまった。


つまり自分の身体の主は既に死んで居るという事……だが何故こうして動いて居るのか分からなかった。


時を止める魔法……それがこの身体になって操る事が出来る様になった魔法、つまり死んだその時からこの身体は時が止まっている……そういう事なのだろうか。


だが時を止める魔法を発動して居る自覚は無い……分からなかった。


「妹を殺した騎士団の特徴は覚えて居るか?」


「た、たしか去り際にセルナルド王国の国旗が見えた気が……」


「セルナルド……妹の死体は焼くか埋めたのか?」


その言葉に首を振る、つまりセルナルド王国に持って行かれたという事だった。


あそこの国は数年前まで人体実験を行なって居たとアルセリス様の報告で把握して居た……つまり、この姿はあの国が関与して居る可能性もあった。


「ありがとう……カレス」


オーフェンはその言葉だけを残すとセルナルド王国の方角へと歩いて行った。
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