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第16話 女神の噂

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倒壊する建物、街の人々の悲痛な叫び声、光の巨人の脅威が去ろうとも光の巨人がこの街に残して行った物は大きかった。


「酷いものだ」


母を探す子、潰れた家族、友を助けようとする者……やはり幾ら元々はゲームだったからとは言え少し心に来る物があった。


死後数時間以内なら蘇生魔法が使える、とは言え今の自分は飽く迄も戦士セリス……そんな魔法を使ってしまうとこの世界のバランスが崩れてしまう……そうでは面白くなかった。


街を眺めながら歩くアルセリス、すると前方から皇帝が少しだけ暗い表情でアダムスとオーゲストを連れ歩いて来た。


「街は凄い被害だよ」


「その様ですね」


ぐるっと街を見回してそう言う皇帝、表情では悲しみを取り繕っているものの、本心はそうでは無い……そんな気がした。


流石に全知全能のアルセリスと言うアバターとは言え人の心までは分からない……皇帝と言う男は不思議な奴だった。


「しかし助かった、まさクリミナティがこうも早く動いて来るとは思わなくてな」


「ドラゴン討伐の噂を聞き襲った様ですね」


「表向きはだ、本当の目的はクリミナティの調査……だが全く尻尾が掴めなくてね、さっき伝令が来たとこなんだ」


そう言って紙を見せるアルシャルテ、そこには端的に事が書かれて居た。


『情報掴めず、直ちに帰還』


何も情報無し……幹部でさえ居場所が分からないのだからこれは骨が折れる依頼になりそうだった。


「それでは自分もクリミナティについて探るのでここで失礼します」


そう言って城の方へと転移せずに歩いて行くアルセリス、暫く国の事はアウデラスとアルラに任せてある……それに書物庫で興味深い物を発見したのだった。


皇帝達から見えない死角へと移動すると転移の杖を使い書物庫へと転移する、城にも少し被害は及んだが書庫は守って居た故全くの無傷だった。


数万は超えそうな書物に囲まれた中央のテーブルに一冊だけ広げられた書物を手に取る、本には『調査状況書記』と書かれて居た。


これはこのオーリエス帝国に存在する調査部隊の人が書き残した書記、凡そ10代皇帝程の時期で更新は止まっているがその中に興味深い調査の記述があった。


それが不思議な泉と魔法の石と言うタイトルだった。


何故これが気になるのか、それはゲーム時代の設定にあった。


SKO時代、キャラ召喚機能と言うものがガチャと言う形で存在したのは言うまでもない、ただそれは誰もが引ける訳では無かった。


まず第一条件に召喚士のジョブを解放しなければならないという事、そしてもう一つ、恵の女神と言うゲーム内に存在するキャラクターに自身の力を認めさせる必要があった。


その女神はこの世界では世界に平和と繁栄をもたらせる女神として崇められて居た。


その一方、裏では力を見せると欲しいものが何でも手に入る、そう言う噂があった。


プレイヤーは何も知らない状態の時に女神と出会い、冒険者に自身の噂を消させると言う条件で秘術を授けると依頼をする、その秘術が召喚機能、ガチャだった。


具体的なゲーム時代のクエスト内容は女神が存在する祠に侵入する冒険者を100人討伐すると言うもの、聞くだけだとそれほど難しいクエストでも無いように聞こえるがゲーム時代は縛り内容がエグかった。


回復無し、来る冒険者はゴールド以上でかなり強い者たち、この鬼畜難易度でどれほどユーザーが離れたか分からない程に難しかった。


それをクリアすると世界には祠に人知を超えた守り神が存在すると言う噂が流れ冒険者が訪れなくなると言うストーリー、そしてその後女神から感謝の言葉と共にガチャ機能解放と言った流れだった。


祠の場所はオーリエス帝国、フェリス王国、セルナルド王国、この三ヶ国の中心にある滝の裏に存在する洞窟の湖に女神は居る……色々とゴタゴタが続きアルセリスは存在自体を忘れて居た。


ふとガチャの石をイメージする、虹色に輝く六角形の石……すると手のひらにポンっと小さな煙を上げて虹召石が現れた。


「お、おお!」


思わず叫んでしまう、だかこれを叫ばずしていつ叫ぶか……この書記が正しければまたガチャをして仲間を増やせると言う訳だった。


石は手元にあるだけでも10万円、350連は回せる……気分は高まって居た。


だが書記にはそれと同時に不穏な事も書かれて居た。


『泉を発見、調査を試みるも軍は壊滅、調査は困難』


軍と言う表記、恐らく100人以上は調査に向かった、だがこの書記を最後に続きが書かれてない事から想像するとあまりの脅威に調査を打ち切ったと見れた。


今はクリミナティの事もある故、気にはなるが泉に自分が行く訳には行かない……国から誰か守護者を調査に向かわせるのが妥当かも知れなかった。


純粋な強さで言えばアルラかアウデラス……だが二人とも王国を動かすのに忙しい筈……とは言え守護者補佐では負けはしないだろうが少し不安要素が残った。


「となれば……リリィとフェンディルの二人に任せれば安心か」


回復に置いて右に出る者がいないリリィと肉弾戦ではアルラやアウデラスに引けを取らないフェンディル、ただ性格的な面で合うのかが少し不安だった。


仲間思いのフェンディルとドSを通り越した殺戮狂のリリィ……不安要素は残るが実行は早い方が良かった。


『聞こえるかフェンディル』


『どうされましたかアルセリス様?』


通信の向こうから低い声が聞こえて来る、フェンディルは突然の通信に少し戸惑って居た。


『突然すまないな、実は頼みがあってな』


『すまないなどと、とんでも無い、アルセリス様のご命令ならば』


『そうか、実はアルミネの滝でリリィと調査を行なって欲しいんだ、引き受けてくれるか?』


『はい、ただ……一つ聞いても宜しいですか?』


快諾しつつも少しトーンを落とし尋ねて来るフェンディル、その問いにアルセリスは疑問符を浮かべた。


『なんだ?』


『アルセリス様のお考えを聞かせて頂きたく』


そう告げるフェンディル、少し深刻な話なのかと予想した故に検討外れな問いに少し間が空いた。


『そこに女神が居ると言う噂でな、ただそれだけだ』


『ありがとうございます……それではこれよりフェンディルとリリィで調査に行って参ります』


『頼んだ』


フェンディルの言葉を最後にアルセリスは通信を切る、彼らは強い……何の心配も要らないのだが、何故か奥に引っかかる様な……変な感覚があった。


「まあ良いか……今はクリミナティだな」


グッと伸びをして書物を本棚に戻す、そしてクリミナティに関する調査書を手にすると再び読書へとアルセリスは戻った。
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