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貴方に宛てたラブレター

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 真っ暗なステージに全てを出し切った五名のファイナリストが集う。皆表情は達成感で晴れ晴れとしていて、けれどこれから始まる結果発表に緊張を滲ませていた。

 他の人のパフォーマンスは見ていない。だけど、ファイナルの決勝にふさわしいものが出せたのだろうということは、その表情を見れば伝わってきた。

 僕だって全力を出し切った。後悔はない。自信を持ってそう言い切れるけれど、結果に繋がるかは分からない。

 バクバクと心臓の音がうるさい。呼吸の仕方を忘れたみたいに、酸素をうまく取り込めない。緊張と恐怖で足が震えていた。

 すると結果発表が始まる前に、これまでのJTOのダイジェスト映像がスクリーンに流れ始めた。その中には前回のインタビューで夢を語る僕の姿も入っていて、熱いものがこみ上げる。

 僕はここから始まった。およそ一年前、あの日を思い出せば感慨深い。嫌いだったあの頃の自分はもういない。律のおかげで前を向けるようになった。

 だから今回こそ、一番が欲しい。今の僕にあるのはただその一心で、自身を落ち着かせるために大きく息を吐いた。

 映像が終わり、いよいよだと緊迫した空気がこの場を支配する。ごくりと唾を飲み込む音がやけに大きく聞こえた。

 暗闇の中、普段とは打って変わって厳かに現れた司会者がライトに照らされる。


 「それでは発表します」


 そう言って、ゆっくりと丁寧に封書を開けるのを僕はじっと見つめていた。


 「JTOファイナル、栄えあるその頂点に立つのは――……」


 ドラムロールが鳴り響き、スポットライトがステージをぐるぐると照らす。永遠に思えるほど長く感じて、今にも心臓が飛び出そう。

 そしてドラムロールの鳴り止むドンッという音がしたと思った瞬間、僕は眩い光に包まれた。


 「――吉良紡!」


 司会者が僕の名前を叫ぶ。
 その瞬間、この場にいるすべての人から割れんばかりの拍手が贈られるけれど、どこか他人事のように思えてしまう。

 吉良紡って、僕?
 本当に僕が優勝したの?
 一番になりたいと願ってはいたけれど、絶対に勝つって決めていたけれど、まさかそれが現実になるなんて。

 状況を理解した途端、急に足に力が入らなくなって、その場にへなへなとしゃがみこみそうになった。けれど誰かに腕を掴まれて、そのまま抱きしめられる。その感触と匂いで相手が誰なのか、すぐに悟った。


 「紡、おめでとう」
 「……りつ」


 耳元で囁かれると、鼻の奥がツンと痛んで視界がぼやける。体を離せば、同じように瞳を潤ませた律と目が合った。

 段取りになかった律の行動に慌てながら、スタッフさんが花束とトロフィーを用意する。すぐにアイドルスイッチを入れて、切り替えた律に順番に渡された。

 それを持ったまま震える足を前に進めてスタンドマイクの前に立てば、司会者が口を開く。


 「吉良さん、今のお気持ちはいかがですか?」


 頭の中は真っ白のままで、何から話せばいいのか分からない。だけど、ぽつりぽつりと話し始める僕を急かすようなひとは誰もいない。



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