86 / 114
夢を見るのは貴方のとなりで
5
しおりを挟むドームの一番上、所謂天井席。特別に用意してもらったその場所から僕らはステージを見下ろしていた。
一番遠い場所だけど、ここなら他のファンの席を潰すことにはならないだろうとほっとした。そういうところを気にすると律は分かって、この場所にしてくれたのかもしれない。
開演時間になり、会場内が暗転する。その瞬間、いよいよ始まると察した観客から声が上がって、一斉に立ち上がる音がした。
画面越しに何十回何百回と観てきた光景が、今、目の前に広がっている。律のイメージカラーである青色のペンライトの海がとても綺麗で、僕はこの景色を忘れることはないだろうと思った。
じーんと感動しながらオープニング映像を見終われば、いよいよスターの登場。キラキラの衣装を身に纏った律が空を飛んで現れる。スパンコールの煌めきが眩しくて、マントを翻す姿に惚れ惚れする。
五万人の黄色い歓声を一身に浴びて、メインステージに堂々と降り立つ姿はまさにスーパーアイドル。
「メリークリスマス」
巨大モニターにアップで抜かれて、ウインクを飛ばしながらファンサービスする律。甘いキャラメルボイスがドームに響き渡ると、会場内は更に温度が上がる。
せっかく用意したペンライトを振る余裕なんて全くなくて、律の一挙一動を見逃さないように目で追いかけることしかできなかった。
キラキラの衣装、クリスマスらしい演出、ステージの構成、セットリスト、衣装替えの間に流される映像。その全てが律を輝かせるために用意された最高のもの。妥協なんて許されない、律のプライドがそこにはあった。飽きることなんて一切なくて、誰もが東雲律の虜になってしまう。
曲が終わる度に終わりが近づいているのだと思うと寂しくて、MCの時間がやってくるともう折り返しまで来てしまったのだと悲しくなった。
もっともっと、律のステージを見ていたい。
心からそう思うのに、律との間にある距離を遠く感じて切なくなる。
それでも楽しい二時間半はあっという間に過ぎ去って、アンコールが始まった。
二日間に渡ったクリスマスコンサートを締めくくる最後の曲は、来年発売される新曲「僕の光へ」だ。律にしては珍しいアップチューンで、聴いた人全てを優しく勇気づけてくれる応援ソング。
僕はこの光景を忘れないように最後まで目に焼き付けようと、ぐるりと花道を一周する律の姿を見つめ続けていた。
バックステージでパフォーマンスするときや、フロートに乗って外周を一周するときもあったけど、律が近くに来るのはスタンド席の人にとって最後のチャンス。みんなペンライトをぶんぶん振って、律にアピールするのに必死だ。
客席に手を振ったり、団扇に書かれた文字に答えながら歩いていた律がバックステージの中央で足を止める。
ちょうど、目の前だ。
世界で一番かっこよくて、いつだって輝いている、眩しすぎるひと。
そんな大好きな人が「君は僕の光だ」とサビを歌いながら、天井席を見上げて指を差す。
「……愛してる」
サビ終わりに柔らかい笑みを浮かべた律はそう言うと、再び足を動かし始めた。
一呼吸置いた後、会場が揺れる。間違いなく、今日一番の盛り上がりだった。
今は遠い場所にいるけれど、自意識過剰ではなく、僕に向けた言葉だと伝わった。こみ上げてくるものを抑えきれず、ぐしゃりと顔を歪ませる。
「……遠いね」
「今は、だろ」
ぽんぽんと優しく背中を叩いてくれる奏。最後まで見ていたいのに、視界がじんわりと滲んでぼやけてしまう。瞬きをすれば、涙がこぼれ落ちた。
五万人を熱狂の渦に巻き込んでしまうスーパーアイドル。そんな貴方に夢を見てしまったんだ。
――一度でいいから、彼の隣に立って歌いたい。
あの頃抱いた夢はずっと、心の奥底で眠ってる。
今はまだ見合った人間になれていないし、自信もない僕だけど。夢を叶えるなら貴方の隣がいい。手を振ってステージの裏に下がる律を見つめながら、静かに火が点るのを感じていた。
2
お気に入りに追加
161
あなたにおすすめの小説
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
見ぃつけた。
茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは…
他サイトにも公開しています
俺以外美形なバンドメンバー、なぜか全員俺のことが好き
toki
BL
美形揃いのバンドメンバーの中で唯一平凡な主人公・神崎。しかし突然メンバー全員から告白されてしまった!
※美形×平凡、総受けものです。激重美形バンドマン3人に平凡くんが愛されまくるお話。
pixiv/ムーンライトノベルズでも同タイトルで投稿しています。
もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿
感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_
Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109
素敵な表紙お借りしました!
https://www.pixiv.net/artworks/100148872
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる